20年以上前に、ベトナムに数か月滞在したことがあった。
この頃はまだインターネットがそれほど普及しておらず、もちろん旅の情報は紙ばかりだった。日本での通信手段は固定電話。パソコンはなく、原稿もワープロで書いていた。
そんな時代に旅したベトナムはまだまだインフラが整い始めたばかり。大型ホテルなどがぽつりぽつりとあるだけで、今のようなお洒落な飲食店や雑貨店などは皆無だった。
そんな街で、私は、この国の人々の多くが携帯電話を使っているのを見て驚いた。電話線がなくても電話できることが不思議で、その小さな機器を自分も使ってみたいな、と思いながら私は、インフラはときに、ある過程を飛び越えて必要な場所に必要なかたちで届けられるのだということを実感した。
ところで、現在の携帯電話の世界最大の市場は、中国とインド。フィンランドの大手携帯電話メーカー、ノキアは、この両国に、先進国仕様の製品ではなく、現地の事情やニーズを丹念に調査した端末を発売し、市場を拡大した。
大ヒットした携帯電話の特徴は、例えば家族で一台という考えのもと、ひとつの電話のなかに電話帳機能を複数存在させたり、農村部や山間部での使用にも耐えられるよう、泥やホコリに強い仕様を施した。このほか、FMラジオと懐中電灯として使えるなど、現地の人々の暮らしに密着した数々の機能が充実。しかも一定時間通話し続けると、通話が自動切断されるといったサービスも。
軽量でありながら価格も数千円程度に抑えた点も、売り切れが続くほどの大ヒットのひきがねとなった。
これからの市場開拓を考えたとき、既存の製品やサービスにとらわれず、市場の状況をよく見て、そのニーズをしっかりとくみ取ったシステムを提供していく。そして価格も見直し、誰にでも手が届くよう設定する。
また携帯電話がコミュニケーションツールとして、またこれらの国はソーシャルメディアへの関心も高く、2012年の調査によるとインドでは毎月1億ものアプリケーションがダウンロードされており、2016年には、データ通信料市場は160億ドル規模になる見通しだと発表した。
マーケットのチャンスはまだまだある。
2016/10/8 フリーライター 蛭川 薫