最先端のテクノロジーを駆使し、クリエイティビティにあふれた製品やサービスを提供するには、スタッフのすべてが優れたカルチャーを常に身近に感じていなければならない、とするのは、かのFacebook社のCEOマーク・ザッカ―バーグ氏。
創業以来、世界最大のソーシャルネットワーキングサービスの展開で、私たちの社会や価値観に大きな衝撃を与え続けている同社躍進の要因のひとつに、カルチャーがあることは間違いない。
例えば「Facebook Artist in Residence Program」という取り組み。これは、社内スタッフの目の前で、アーティストが試行錯誤を繰り返し悩み長時間を費やして、アートとテクノロジーが融合した作品作りを行い、展示すというもの。こうした工程を通して、フェイスブックは、社員に対して、会社自体が懸命にものづくりをしている、そしてそれを大切にしているのだ、というメッセージを発信し続けている。
そして今年、フェイスブック社内の壁画一面に全長6メートルもの、鯨と狼の壁画が誕生した。深いブルーをバックに、鯨とその背中に乗った狼がまっすぐに進行方向を見つめる巨大な絵。白く浮かんだ2頭の生き物は、眺める人によって様々なメッセージを受け取ることができるようで、完成後、壁画の前を通る社員が壁を見つめているという。
この作品を手がけたのは、なんと日本人女性。アジア人として今年初めてプロジェクトのメンバーに選ばれたミキマサコ氏は、サンフランシスコでアーティストとして活動するほか大学でもクラスも担当。もともとは西海岸の音楽に憧れを持ち、18歳のときにカリフォルニアの大学に進学した。当初、コミュニケーションを専攻していたが、のちに絵に転向。子供の頃から絵をかくのが得意だったこともあるが、転向の理由を彼女は、英語が苦手でアートにずいぶん助けられたからだと語る。
今回の壁画で氏は、日本人のままでいたいのにそれがかなわないといった思いや、多くの人々とコミュニケーションをとることが困難だった時代を思い出し、Artist in Residenceのシーズン4のテーマ、「多様性」に重ねて表した。
非言語だけれどもときにはとても雄弁なアートという表現手段。
Facebook社にはアナログリサーチラボというスペースがある。ここには活版印刷機からシルクスクリーンの機材が揃っていて、デジタルが進んでいる企業ながら、ポスターといったアナログな作品作りもさかん。同社のデザイナーはここで自由に制作を行うほか、レコードプレーヤーが置いてあったりギャラリーのような展示スペースもあったり、自由にアイディアを形にできる空間となっている。
さらにアナログリサーチラボの室内外のデザインも社員が手がるなど、カルチャーを大切にする同社の姿勢は一貫している。
そしてこのようにアートと企業の密接なかかわりあいは、どんな製品やサービスであっても、「誰かが懸命に作り上げなければそれは生まれない」という気概のあらわれ。
それが企業の原動力となっているのは言うまでもない。
2016/8/2 フリーライター 蛭川 薫