【株価の下落、経済成長の落ち込みにあえぐ中国】
先ごろイギリスを訪れ、英南東部で計画中の原子力発電所に
中国製の原子炉を導入することでキャメロン首相と合意した
中国の習近平国家主席。
必死の外交を繰り広げているが、
中国経済はいま、株価の下落、
数年前までは二桁を誇った経済成長率の落ち込みなど、
下降線をたどる一方だ。
中国はこれまで、
西側諸国から借りた巨額の金を全て使って工場を作り、
物をどんどん製造してきたが、
ここ数年はそれらが国中にあふれかえり、
誰もこれを買わないばかりか、
これらの在庫を保管管理するだけでも大変な状態に陥っている。
中国政府はこうした現状に危機感を覚え、
国民の不満を抑えるべく、
汚職の摘発を徹底するのか、
労働人口を増やすためにひとりっこ政策を廃止したりしながら、
政権の基盤作りに必死に取り組んでいるところだ。
【アパレル業界における、世界の工場の座をあけわたす】
アパレル業界においても、これまでは、
生産コストの低さを武器に海外から企業を呼び込み、
世界の工場の代表として君臨してきたが、
経済の減速に伴いその座も危ぶまれている。
2010年に80.5%だった中国から日本への衣料品の輸入シェアは、
翌2011年以降落ちはじめ、2014年には66.8%にまで縮小。
米国における中国からの衣料品輸入シェアも同様に、
2010年の40.9%をピークに減少へと転じ、
2014年には37.9%まで低下した(大和総研レポート)。
いっぽう、
日本への衣料品輸入のシェアを伸ばしているのがベトナムだ。
2010年、わずか5.9%だった輸入シェアを
2014年は10.1%にまで伸ばし、
米国においても7.8%から10.8%と、
アジア各国のなかで最もシェアを拡大した。
ベトナム以外では、
ミャンマー、インドネシア、カンボジア、バングラデシュ
からの輸入が増えている。
【人件費の高騰が大きな原因】
中国からの輸入シェア低落の原因は、人件費の高騰にある。
例えば、中国の工場地帯である深センにおける、
基本給、社会保障費などを含んだ一か月の労務コストは、
2011年には500ドル、2014年には約700ドルだが、
ベトナムのハノイでは2014年度で247ドル。
ミャンマーのヤンゴンでは172ドル、
カンボジアのプノンペンで157ドルと、
いずれも中国より格段に安い。
先に記したように
中国政府は国民の労働争議やテロ行為などを何よりも恐れている。
今後、景気がますます減速すれば
労働コストの削減などを実施する企業が出てくる可能性があるが、
それに反発した従業員によるストライキが起きるリスクはある。
2015年に中国本土で発生したストライキや抗議活動はおよそ2300件。
2014年よりも約1000件近く上回っており、
労働条件の悪化はこうした状況に拍車をかけかねない。
アパレル業界における中国への回帰は、
中国経済の減速と労働争議、
そして他アジア諸国の技術力、
労務コストなどがからみあい、
なかなか難しいと言わざるを得ないようだ。
2016/2/18 フリーライター 蛭川 薫