昔船会社で働いていたときに英語が公用語であるにもかかわらず、現地語で書かれたメールが来た時には、驚きながらも興味のある言語は辞書を片手に調べていました。
一番多かったのはスペイン語。簡単な現地語で返信すると、「Amigo!」(おぉ、友よ!)なんて返事が来て、トラブルシューティングを手伝ってくれた記憶があります。
さて現在私が住んでいるフィンランド。何語が公用語だと思いますか?
答えは、フィンランド語とスウェーデン語。
過去にスウェーデン王国に支配されていた歴史から、人口のおよそ5.5%のスウェーデン系フィンランド人が、スウェーデン語を原語として暮らしています。首都や地方都市の街中の標識はこの二言語で、上段がフィンランド語が表示されます。また、おなじみムーミンの生みの親であるトーヴェ・ヤンソン氏も、スウェーデン系フィンランド人です。
【世界一難解な言語】
ではフィンランド語と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか?
インド・ヨーロッパ言語である英語と異なるウラル語族に属し、フィンランド以外では、エストニアやロシア西部などの地域でも話されている言語です。
実際にフィンランド語とはどのようなものでしょうか?
”Hyvää Huomenta”
「おはようございます」
”Mitä kuulu?”
「お元気ですか?」
”Menen toimistoon jokapäiväistä”
「私は毎日会社へ行きます」
英語に親しんでいる方々からすると、発音や文法のイメージが全く湧かないと思います。私自身もそうでした。
以前、語学学校に通っている時に、イギリス人やスペイン人が口を揃えて「フィンランド語は世界一難しい言葉だ」と連呼していました。それを裏付けるかのように、特に英語話者には習得に時間がかかる言語という調査結果が出ています。
【習得に時間がかかる、つまり難しいとされる理由は】
・インド・ヨーロッパ言語との共通点がない(日本人にとっては、発音はカタカナ読み、主語なし、語順が自由、冠詞がない、というやや共通点があります)
・15個の格変化があり、語尾の違いによって意味が変わる
・男女の性別を指す「彼」「彼女」がなく、”Hän”だけで第三者を示す
特に15個の格変化は、フィンランド語習得者にとって非常に高い壁。私自身も語尾の変化にはいつも格闘し、ときにその部分だけ小声になる状況です。
【英語を巧みに操るフィンランド人】
さてフィンランド語の話者の数は、単純に数えてフィンランド人口のおよそ550万人。これに他国の習得者などを含めても1000万人に満たないでしょう。よって国際社会で生きていくためには、国際的な公用語である英語を身につけることが必須であり、小学校から英語教育が始まります。
教育といっても、娯楽や身の回りのものを使って楽しく学ぶといったものです。映画や漫画などの輸入ものは英語原語のままで放映され、字幕としてフィンランド語が流れます。英語の本も本屋や図書館にかなりの数が揃っているため、英語は身近な存在。実際、英語の習得方法で一番多かったのは、テレビや音楽といった娯楽ものでした。
そのような環境下で育ったビジネスマンにおいては、普段の仕事の中で母国語と同じように英語を使っています。近隣諸国の小国家の参加者たちが集う会議は、もちろん英語。私のような外国人が来ると今までフィンランド語で話していたところ、すぐに英語へ切り替えますし、書類やプレゼン資料を英語で作成しても母国語でスピーチしたり(この逆も然り)と、彼らの英語の操り具合は見事なものです。
医師や教師などは当然英語を話しますし、公的機関はビジネス関係だと英語で対応してくれるところもあります。商業施設でもちょっとフィンランド語がわからなくなると、英語へ切り替えてくれるスタッフも多いです。実際、全年齢層の50% 以上はほどほどに英語ができるという調査結果もあります。
ちなみにスウェーデン語については、小学校に入学すると、国語としてフィンランド語かスウェーデン語のいずれかを学ぶことになっています。
そんなわけで、フィンランドでのコミュニケーションは英語でも十分通じますが、現地語でコミュニケーションを取るとさらにその土地や現地人のことを理解できるのは、語学習得者の醍醐味。冒頭の過去の出来事を回想しながら、フィンランド語習得のモチベーションを高めている今日この頃です。
2016/11/4