まだ記憶に新しい平昌オリンピック、女子カーリングで競技の盛り上がりとともに話題になったのはハーフタイム、通称「もぐもぐタイム」でしたね。
その時に選手たちがよく食べていたのが、イチゴでした。彼女たちは「韓国のイチゴは甘くておいしい、お気に入りだ」と言っていました。
しかし、その後テレビやインターネット上で、この「韓国イチゴ」がやや訳ありだ、ということが報じられたことはご存知でしょうか?
何が問題なのか、というと、
韓国で栽培されるイチゴの多くは日本で開発された種苗が元となっており、その種苗は日本から無断で持ち出されたり、開発者の許可なく韓国国内で増殖されたりしたものだ、ということです。
一時期は「韓国産」のイチゴが日本に輸入されていましたが、さすがにこの事実を確認した日本政府が、韓国側に輸出禁止とロイヤリティの支払いを要求しました。しかし、このロイヤリティの支払いが高いことなどから、日本産イチゴから開発した新品種を韓国産イチゴとして品種登録しました。現在、韓国産イチゴは香港や東南アジアに輸出されており、高級フルーツとして人気だそうです。もし韓国に日本産イチゴの種苗が渡っておらず、日本から各国にイチゴを輸出していたら、として政府が出した試算では、5年間で最大220億円といいますから、相当の輸出機会が奪われてしまった、と感じてしまいます。
韓国のイチゴだけでなく、「紅ほっぺ」(イチゴ)や「シャインマスカット」(ぶどう)などの品種が中国や韓国で栽培され、輸出されていることが確認されています。過去には、北海道が権利者であるインゲン豆の一品種が無断で持ち出され、その収穫物が日本に輸入されようとしました。この時北海道は輸入差し止め手続きを取りました。その後、白あんなどの加工品にして輸入されても区別できるよう、DNA識別技術を開発しています。
農産物の優良品種の持ち出しや海外での無断増殖は、輸出マーケットの喪失やブランド力低下など、日本産農産物の輸出への影響が懸念されます。そこで政府は対策として、海外で品種登録(育成者権の取得)を呼び掛けています。
品種の育成者は、種苗法に従い品種登録を行うと、育成者権を取得できます。知的財産の一つである育成者権があれば、栽培や販売の差し止め、生産物回収や損害賠償請求などの対抗措置が可能です。
また、品種保護に関する国際的枠組みとして、「植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」(ユポフ条約)があります。締約国は品種登録を行ったものに育成者権を与えること、またこれを保護する義務があります。
育成者権は国ごとに取得しなければならず、A国で育成者権を主張するには、A国で品種登録しなければなりません。また、その国での販売開始後4年(果樹など6年)以内に出願申請しなければなりません。国内での出願後、速やかに海外出願することが望ましいです。
ただ、申請料や手続きの負担感からか、品種登録してないものが多いそうです。そこで農林水産省では出願費用の一部補助や相談窓口を設置するなど、海外での品種登録出願を支援しています。
ぶどうやりんご、いちごなど日本から海外への輸出額はここ数年伸びています。特に香港や台湾、シンガポールへの輸出が多く、これらの国はフルーツを贈る文化があり、贈答用に「日本産」フルーツが人気だそうです。
フルーツだけでなく野菜や穀物の優良品種が多い日本。海外の生産者からすれば、自国で開発するより、すでにある優良品種を栽培したいと考えるのではないでしょうか?育成者権を使ってライセンス生産、ロイヤリティ収入を得ることや、日本と世界各地で栽培することで通年供給することも可能です。工業製品だけでなく、農作物にも知的財産対策・戦略を考えていかなければなりません。
2018/3/31