為替レート(為替相場)について改めて考えてみました。昨年12月28日付朝日新聞の一面、「弱る円」という記事を読んだことがきっかけです。
外国為替相場(リアルタイムレート)を確認することは、私の毎朝のルーティンです。とはいうものの、最近はスマホを開いて数字をながめるだけで、その実、為替の変動に鈍感になっていました。最近は円安傾向が続いているなとか、今日は昨日より円高に振れている等、何となく思う程度です。
そんな時に目にした「弱る円」の一面見出し。
「日本の購買力は50年前の水準と同等である」という内容。なかなかインパクトのある見出しでしたので、読まれた方もいるかもしれません。
一般的に私たちが為替レートといっているものは、リアルタイムレートや、通関用の週間為替相場や、銀行で円を売買する際に適用するTTB、TTS等ですが、いずれも2種類の通貨を交換するためのレートです。
今日、1ドル=100円だったものが、明日、90円になれば円高、110円になれば円安といわれ、この場合、日本と米国の2つの通貨を比較して、どちらの通貨の価値が高いのか、安いのかを判断しています。
しかし、仮に円が米ドルに対して安い(円安)状態であったとしても、他の主要通貨、例えば、豪ドル、ユーロ、人民元などに対して、必ずしも円安であるとは限りません。
そこで、複数国の通貨をひっくるめて、通貨の国際的な競争力、総合的な実力(価値)を測るための指標が必要となってきます。その指標が「実質実効為替レート」です。
「実質実効為替レート」は、ある一つの通貨と他の複数の通貨とを比較して、相対的に高いのか、低いのかを判断します。数値が高ければ高いほど、その通貨の購買力が強いとされ、低ければ弱いということになります。実質実効為替レートの数値は、貿易相手国との為替レートを貿易額に応じて加重平均し、さらに物価変動を考慮して算出します。
物価変動を考慮するとは、貿易相手国の国内事情を名目上のレートに反映することです。例えば、アメリカで1ドルのジュースを買ったとします。為替レートが1ドル=100円であったなら、100円でジュースが買えたことになります。ところが、アメリカでインフレが起き、ジュースが2ドルになりました。そうなると、100円だったジュースは、日本円にすると200円払わないと買えません。つまり、名目上の為替レートに変動がなくても、実質は円安に振れたのと同じ状況になります。
このように通貨の真の購買力の指標となる「実質実効為替レート」ですが、その日本円の数値が、2021年11月に67.79まで落ち込んだとのこと。これはなんと約50年前(1970年)と同水準だそうです。因みに、日本の購買力が最も強かったのは、1995年の150.85(過去最高値)でした。(図表1参照)
日本は、食料やエネルギーの多くを輸入に頼っていますので、円の購買力が下がると、段階を経て家計に影響が出てきます。最初に、企業の仕入れコストが上がり、そのコストアップを企業や小売りが吸収しきれなくなると、最終的には、消費者に転嫁されます。実際、昨年は様々な食料品、日用品に値上げの波が押し寄せました。
毎日見ていたリアルタイムレートからではわからなかった事が、実質実効為替レートから見えてきました。
今回は、実質実効為替レートからわかる「円の購買力」についてお伝えしました。
因みに、実質実効為替レートは毎月1回、BIS(国際決済銀行)が公表しています。
参考記事:朝日新聞 2021年12月28日 朝刊
図表出典元:三井住友DSアセットマネジメント
https://www.smd-am.co.jp/market/ichikawa/2022/01/irepo220113.pdf
2022/02/09
元通関士・現FPのあれこれ話
山﨑裕佳子