外為取引先の社長や経理担当役員との話で一回は話題になるのが、営業店での支店長の専決権限です。あからさまに「いくらまでOK?」。こんな質問は流石にありませんが、具体的な案件でどこまでだったら営業店長が専決できるのか。この手の質問は結構あります。 |外為取引、営業店長の専決権限について

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外為取引、営業店長の専決権限について

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外為取引先の社長や経理担当役員との話で一回は話題になるのが、営業店での支店長の専決権限です。

あからさまに「いくらまでOK?」。こんな質問は流石にありませんが、具体的な案件でどこまでだったら営業店長が専決できるのか。この手の質問は多かった記憶があります。今回はこの営業店長の専決権限(以下店長権限)のお話しをします。

店長権限というと我々を含めてほぼ全員が融資を連想しますが、勿論外為取引にも店長権限は多く含まれています。しかし先ず外為に入る前に、預金取引について触れてみたいと思います。預金は国内円、外貨を問わず銀行本部が発表している一定のレートが、全ての取引に適用されている印象があります。我々も対外的にはそう表現していました。が、例外もあります。

それは定期預金金利です。上乗せが出来るのです。例えば新規獲得とか他行防衛、保全強化、総合採算向上。こういう理由があれば個別に金利上乗せが俎上に上がりました。実は預金は本支店間で仕切りレートが決まっています。

顧客金利は仕切りレートより低いところにあります。つまり両者の差部分が支店収益となってくるわけです。
金利上乗せとはこの差部分を狭くすることです。早い話が支店収益を削る。これを営業店長が認めるわけです。営業店長としては成績の足を自分で引っ張るようなものですから、他でメリットが無いと首は縦に振りません。なのでキャンペーンでも無い限り、余り表には出て来ないのです。

次に外為取引についてですが、店長権限は輸出にも輸入にもあります。

まず輸出です。輸出の分野で注目に値するのは、金額制限の無い店長権限項目がある点です。金額は1億円でも1百万米ドルでも(場合によってはそれ以上でも)本部に稟議申請をせずに営業店限りで処理できるのです。

これは何か言うと「特に指定された信用状付の買取」です。予め信用力が有ると評価された銀行発行の信用状であれば、それに基づく買取は書類上の不備が無ければ青天井で認める。かみ砕けばそうなります。(これは恐らく他の銀行にもある制度です)

実際私も年商一億程度の会社から三億円の買取が持ち込まれ、書類上の不備が無かったので平気な顔をして買取を実行しましたが、内心では決済迄の一週間。毎日ドキドキハラハラだった経験があります。

では他の輸出・輸入取引はどうかと言えば、基本的には国内融資に準じていました。つまりその営業店のステイタスによって金額が決まるということです。大雑把なくくりですが小型店では外為・国内含めて30百万円程度、中型店では50百万円程度。大型店では1億円程度が上限でした。この金額は無担保扱いの金額であり、担保があれば更に金額の上乗せがありました。

この点から言うと大型店の方が大きな金額まで取引出来るので、即決を期待して大型店での取引が吉。こうなりそうです。しかし大型店では自社よりも厚遇される顧客は多数存在します。何かと比較されて良い扱いが受けられない可能性もあります。どうも上限額だけでは判断できそうもありません。(鶏口と牛後の関係とも言えましょうか。)

結論から言えば、過度に店長権限額を気にする必要は無いと思います。いざとなれば銀行側も本部稟議をしてでも対応するはずですから。ただ個人的には自分の会社がその小型店でトップの顧客になって、自社も小型店も一緒に大きくなれればそれば一番と考えています。

2022/07/14

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輸出手形保険を整理する

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問い合わせ先:https://www.rakuraku-boeki.jp/publishing

今回は知識の整理を兼ねて、輸出手形保険をお勧めする理由をお話しします。既にこのコラムでも何回かお話ししたように、輸出手形保険はNEXI(日本貿易保険:政府全額出資法人)が取り扱う貿易保険の一つになります。

他の貿易保険はほぼほぼ銀行は関係ないのですが、輸出手形保険はどっぷりと銀行と関係があります。では早速概要から見てみたいと思います。

1.被保険者は実は「銀行」
一般に保険と言えば保険料を支払って保険契約する人が、被保険者という位置付けになります。しかしこの保険で被保険者は、当該輸出為替の買取銀行なのです。この銀行が被保険者と言うのは結構重い意味を持ちます。万一保険事故が発生したとき銀行自身が当事者となります。輸出者にしてみれば銀行が自分のために動いてくれるのです。

2.「非常危険」だけでなく「信用危険」もカバーしてくれる。
「非常危険」とは為替取引制限・禁止や戦争・内乱・革命、自然災害、当事者の責めによらない事態のことです。「信用危険」は「非常危険」以外の事由による物です。このカバー範囲の広さによって、輸出者自身の責任でなければ、殆ど全ての保険事故に対してカバーしてくれる事になります。これは心強い話と言えます。

3.付保率(カバー率)が95%ある。
100%面倒を見てくれないのかと声が上がりそうですが、輸出者が振り出した荷為替手形金額の95%ですから、コスト、諸経費、儲け込み込みに対する95%です。それなりに評価できる水準と言えるのではないでしょうか。

4.付保付輸出為替は銀行に取って担保付与信
銀行によって少し対応が違うのですが、輸出手形保険付は無付保(輸出手形保険なし)の買取に比べ、与信判定上有利な扱いを受けることになります。多くの場合手形金額全体が担保付与信と判定されるようです。更に5%部分を預金で担保提供すると、更にそのステイタスが上がる。こんな銀行もありました。これは無信用状(D/P・D/A)に限らず信用状付でも可能な話です。

5.保険事故発生!でもサービサー制度を頼める
不幸にして保険事故が発生したときには、買取銀行がNEXIに対して損失発生通知書を提出します。その後NEXIから保険金が支払われるのですが、そこで一件落着とはなりません。買取銀行(輸出者も含む)には代金回収義務が残っています。つまり輸入者から輸出代金を回収しなければならないのです。じつはこれが大変な面倒でサービサー制度が出来るまでは、買取銀行は半年に一度現状報告をしなければなりませんでした。

勿論銀行だけでは駄目なので輸出者にも動いて貰います。現状を把握して回収の可能性。これを報告していました。これが終了認定をおりるまで続く事になります。転勤で引き継ぎを受ける時、この手の引き継ぎが一番厄介でした。本当に面倒で今までの経緯を一読するだけでげっそりしてました。

しかし2003年10月以降はサービサー制度が導入されました。完全に手が離れるわけではありませんが、殆どの部分をサービサーが行ってくれるので、本当に楽になりました。これは大きなポイントです。以上簡単に眺めてきたのですがもし興味がお有りなら、NEXIのHPを一度ご参照下さい。直接電話等での相談も受けてもらえます。

参考サイト:NEXI
https://www.nexi.go.jp/

2022/06/23

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クレームの一撃。銀行を走らす!

銀行、クレームの電話

どんな銀行にもついて回るお客様からのクレーム。お金が絡むだけにひとたび発生すると本当に大変です。今回はそんなクレームが発生した時の、銀行対応についてお話しします。

お客様からのクレームの形態は様々ですが共通しているのは、お客様の望むように銀行が対応していない。これに尽きます。対応していない(or出来ない)理由はいくつかあります。法律の定めや当局からの指導がある場合。これは土台無理筋です。しかしこれらの場合は出来ない理由を銀行も開示しますので、お客様も納得せざるを得ないと思います。

それに対して銀行の内部手続きによる場合は、出来ない理由を銀行はハッキリ言ってくれません。と言って具体的な善後策も余り提案してくれません。このような時、クレームがヒートアップして解決困難になります。それでも殆どの場合は営業店の中で対応できています。場合によっては支店幹部が説明謝罪する場面もあります。しかしお客さまに納得できない部分が残っていれば、いくら銀行が対応しても一件落着にはほど遠いと言えます。

そんな時どうすれば良いか。皆さんにお勧めしたいのが銀行本部への電話です。これが本当に効果的です。どう効果的かは以下に述べたいと思います。参考までに3メガでの専用窓口をご紹介します。三菱UFJ銀行は「お客さまホットライン」、三井住友銀行は「ご意見・ご要望窓口」、みずほ銀行は「ご意見・苦情の専用窓口」となっています。それぞれビミョーです。意図するところの違いが垣間見られますね。

それはともかく、窓口に直接架電した場合の流れを見てみましょう。これらのセクションにはダイレクトに電話がつながります。つながった段階で思うところをバンバン言って下さい。それでOKです。遠慮する必要は全くありません。但し文句だけを言っても問題の解決にはなりません。ここは一つ冷静に、なんでクレームしているのか(事実の提示)、何をして欲しいのか(要求の顕在化)をする必要があります。

皆さんが申し立てている間、銀行側は完全に聞き手に回ります。よってこの二点は明確に強く言い込む必要があります。さて多くの場合この様なクレームに対して銀行の反応はこうです。「お話しの趣旨は分りました。至急事実を確認してご回答致します。」こうなると思います。これで後は銀行の回答を待てば良いのですが、ポイントは必ずいつまで待てば良いかを確認することです。これは途中経過であっても状況確認が必要ですし、時限を切る要求は非常に厳しい銀行へのプレッシャーになるからです。

さてこの後ですがこの一撃は銀行に間違いなく激震を走らせます。間髪を入れずに現場の部長(席)や支店長(席)に、本部からの内線電話の着信音が鳴り響きます。(外為はホットラインからもありでした)この手の指示は問答無用です。最優先対応になります。既に当該事案について本部に一報済なら良いのですが、未連絡だとその点についても釈明が必要になります。

そしてここからの一挙手一投足は全て記録する必要があります。不祥事発生時に記録が残っていないと釈明する人がいますが、銀行に関してはどんな小さいことでもクレーム・トラブルは、記録に残っていると断言できます。なので本部からの電話に激震が走るのです。今回はクレームの一撃。銀行を走らす!でした。

参考サイト
三菱UFJ銀行:ご意見・苦情
https://www.bk.mufg.jp/voice/index.html

三井住友銀行:ご意見・ご要望窓口
https://www.smbc.co.jp/cs/support/

みずほ銀行:ご意見・苦情(個人のお客さま)
https://www.mizuhobank.co.jp/retail/help/goiken/index.html

2022/05/24

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L/C条件に合わない買取書類が出てきた!

L/C Letter of Credit

貿易担当者にとってL/C(信用状)は頼もしい存在です。L/C条件通りの書類を作成し銀行に持ち込めば、銀行が買い取ってくれほぼ確実に決済資金が手に入ります。この仕組みは早期の資金回収には大変に有難い方法なのです。

しかしこの話が上手くいくためには前提があります。すなわちL/C条件通りの書類を作らなければならないのです。そんなの簡単じゃないか。そう思う人は多いと思います。たしかに多くの場合それで上手くいきます。しかし今回はそうはならない場合を一つご紹介します。更に併せてその解決策もお示ししたいと思います。

今回話題になったのは原産地証明書(Certificate of Origin)です。(以下C/Oと略します)C/Oとは簡単に言えば商品原産地を証明する書類です。余りに当たり前すぎて申し訳ありません。少し反省です。さて気を取り直して本題に入ります。

このC/OですがL/Cによっては、C/OにL/C番号の記載を要求するときがあります。誰が作っても良いC/Oであれば自分以外のであっても、作成者の了解を得てL/C番号を追記すればそれでお終いです。ところが商工会議所作成の場合は厄介です。通常は載せてくれません。そうなるとディスクレ状態の書類を銀行に持ち込むことになります。(ディスクレ状態とはL/C条件に不一致の状態を指します。このままでは最悪輸入側からの資金回収が不能になってしまいます。)

これでは困りますので何とか対策を講じる必要があります。では取引銀行にも輸入者側にも了解して貰える方法はあるのでしょうか。100%これだという解決方法はないのですが、結果これなら大丈夫ではと言う物は幾つかあります。これらを順にご紹介していきます。

その一 L/Cの必要書類から外して貰う。
そもそもL/C必要書類にリストアップされているから問題になるのです。ならばL/Cから外して貰えば問題自身が無くなる事になります。但し輸入者にしてみればC/Oが手に入らない可能性が出てきます。この作戦は輸入者との事前ネゴが欠かせないようです。

その二 L/C番号記載条件からC/Oを外してもらう。
これは「その一」ほど輸入者の抵抗は受けない気がします。実際のL/Cではこの条件となっているL/Cも見かけます。

その三 ケーブル・ネゴで了解を取り付ける。
今までの二策は何れも輸出書類を銀行に持込む前の対策です。しかし多くの場合銀行はこの状態(C/OにL/C番号無し)を、買取書類をチェックしていて気づきます。つまり遅すぎるのです。こうなったらL/C発行銀行にSWIFTを打って事前了解を取り付けます。これをケーブル・ネゴと呼んでいます。正式な手続きではないのですが、当事者間ではこれ一回限りのルール変更として認められています。(正直このパターンが一番多かったです。)

以上三つの対策をお話ししました。実はこれ以外にも、鉛筆で補記すれば良いのでは。こんな話もありました。しかしこれはいかにもいかにもの不味い話であり、検討の俎上には載せなかった事を最後に付記したいと思います。

2022/05/06

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不寄港証明と銀行の対応

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「不寄港証明」をご存じでしょうか。私はこのごろ聞かなくなったなあ。そんな意識でいましたが、実は今でも使われているようです。と言うのも最近こんな話を耳にしたからです。

イスラエル向けの輸出で、L/C条件で不寄港証明を要求された。そこで船会社に相談したが船会社も知らないみたい。どうしよう。そもそも不寄港証明って何のことだろう。よく分らない???こんなお話しでした。さてこんな時銀行としてはどう対応すべきか。この点を今回はお話ししたいと思います。

今回は結論から言うと「L/C条件に不寄港証明は載せない」、これを第一にアドバイスしたいと思います。過去エジプトやヨルダンを除き多くのアラブ諸国が、イスラエルと断交していました。しかし2020年9月にUAE(アラブ首長国連邦)とバーレーンが、イスラエルと国交を正常化させました。その後スーダンやモロッコとも国交正常化に合意しています。輸出者としてイスラエル、アラブ諸国双方と取引可能性があるのなら、一方に与する対応は出来れば避けたいのが本音です。なのでL/c条件に載せない。これを第一にすべきと思います。

次善の策としてはイスラエル系の船会社を利用する手があります。Zim Line(本社:イスラエル・ハイファ)などが候補になります。これらの会社であればイスラエルの輸入者もクレームしないと思います。いずれにしても銀行としてはL/C条件に不寄港証明があれば、それがないと条件不一致とせざるを得ませんし、L/C条件にないのなら条件不一致の問題は起きません。なんとも要領を得ない話ですが、実際はそんなところです。

さてここまでお話しした不寄港証明ですが、実はアラブ側からも同様に要求される可能性があります。今回のお話しはイスラエル側からの要求でしたので、次善の策としてイスラエルに本社のある船会社をご紹介しましたが、アラブ側からの要求であれば当然使うことは出来ません。その点ご注意ください。

また不寄港証明が銀行で問題となるのは日本からの輸出です。(日本サイドの輸入であれば早く正確に到着すればそれでよしです)さらにその資金決済方法がL/Cベース(一部D/P D/Aもあり)の時です。送金ベースでは銀行はノータッチとなります。

最後になりましたが不寄港証明のひな形とその訳文をつけておきます。
ひな形
IN VIEW OF DANGER OF CONFISCATION, WARRANTED VESSEL NOT TO CALL AT PORTS AND NOT TO ENTER THE TERRITORIAL WATERS OF ANY ARAB COUNTRIES BELLIGERENT TO THE STATE OF ISRAEL AND/OR ACTIVELY SUPPORTING THE ARAB BOYCOTT, PRIOR TO UNLOADING AT PORT OF DESTINATION UNLESS IN DISTRESS OR SUBJECT TO FORCE MAJEURE

訳文(試訳)
没収の危険性を鑑みて、認められた船(本船)は目的地の港で(積み荷を)降ろす前は、海難又は不可抗力の対象にならない限り、イスラエル国に対し交戦中の或いはアラブボイコットを積極的に支援するアラブ諸国への寄港もしないし領海にも立ち入らない。

参考サイト:JETRO(本文とは異なりアラブ側からの要求によるものです)
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010811.html

2022/04/19

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苦しいときの海外僚店頼み

イギリスの銀行

私の勤務していた銀行では海外に多くの拠点を持っていました。ふつうそれら海外店は海外店独自で営業活動をしています。国内で全世界を相手に業務をしている我々であっても、海外店となると直接の接点は殆ど無い状態でした。

かろうじて接点らしきものを振り返って見ると、海外店に直接口座を持つ先に対しての送金やL/C開設。この程度の取引しか思いつきません。要はたまたま相手銀行が海外の僚店だったと言うわけです。

しかし長い外為経験の中には本当に助けられたことがあります。通常の事故・トラブルは相手銀行との電信・電話やメールで、何とでも解決できるのですが、それではどうしようもないことが、やはり生じてくることがあります。今回はそれについてお話しをしてみたいと思います。

お話しの舞台はロンドン(英国)です。日本からロンドンのL/C開設銀行に買取書類を送った時のことです。買取書類の中に買取銀行(当行)の署名付文書が必要でした。銀行作成の文書そのものは添付して送ったのですが、署名はカバーレター(買取書類一枚目に付ける送付状です)にあるので、その文書には不要だろうとサイン無しで送ってしまったのです。

ところがこの文書は通関時に税関に提出が必要な書類でした。税関では署名が無いものは受け付けてくれません。通常であれば至急署名付の文書を後送すれば事足ります。ところが貨物の中身が生鮮食品だったので、日本から追送したのでは間に合わないことが判明しました。いくら冷蔵コンテナでも鮮度が落ちれば価値が下がってしまいます。

そこで次善の策としてこちらからSIWFTを打つので、それを添付しては駄目かとL/C発行銀行に交渉して貰いました。しかし税関の反応は「SWIFTって何?」「そんなもん。駄目!」ととりつく島もありません。困り果てたときにふと思い出したのが、僚店のロンドン支店のことです。海外店は少人数で繰り回しているので、直接関係の無い頼み事は、御法度に近いのですが、幸いロンドン支店には同期がいました。

ここで私は腹を決めました。同期のよしみで拝み倒すしかない!L/C発行銀行に出向いて貰い書類にサインして貰おう!こう決めて内線電話に飛びついたのです。幸い同期は既に出社しており事情を説明すると、話の趣旨は分ったがその方法で税関がウンというのか、確認してみないと何とも言えないというのです。そこでやむなく交渉を任せて一旦電話を切りました。

時差の関係でこちらはもう終業時間はとうに過ぎていますが、電話機を睨んでじっと待つこと小一時間。(この時間は今思い出しても本当に長かったです)やがてロンドンから電話が掛ってきました。彼が言うところではL/C発行銀行にコンタクトして、応諾を取り付けると早速出向いてサインをしてきたとのことでした。

これは本当に助かりました。今から思えば超法規的措置ですが。丁寧に丁寧に、何度も何度も、彼にお礼を言って受話器を置きました。その後のことは良く憶えていないのですが、腰が抜けてしまってしばらく立つことが出来ませんでした。以上、海外僚店に助けて貰ったという、いささか情けないお話しでした。

2022/04/02

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「ロシア向け支払い」を考える

ロシアのルーブル

日々目を離せないウクライナ情勢。西側諸国の経済制裁の一環で3/12(土)から、幾つかのロシアの銀行がSWIFTシステムから排除されました。また多くの国際決済システムがロシアとの取引を停止しています。

この様な状況下でロシアへの支払が可能な方法はないのか。今回はこの点を少しだけ考えてみたいと思います。但し今は外為現場から離れているので、経験者としてこれならOKでは?こんなことを皆さんにお知らせ出来ればと思っています。

1.銀行経由の海外送金
日本国内での日本円取引は、日本銀行が中央銀行として資金決済の仲立ちをしてくれます。しかし海外との取引にはこんな便利な銀行は存在しません。(世界銀行と呼ばれる組織体もありますが決済機能はありません)そこで米ドルであれば米国(特にニューヨーク)所在の銀行や、ユーロであればフランスやドイツの大手銀行に仲立ちを頼むのですが、今は米国・EU共に一致協力してロシアに制裁を課しているので、ロシアへの仲立ちは到底期待できません。

つまり米ドルやユーロは決済通貨として使えない事になります。とすればロシアルーブルか日本円による送金となります。しかも直接ロシアの銀行の口座に資金を入れなければなりません。他国を経由するとそこで資金が凍結される可能性が大いにあります。

そこで出来そうな方法は、日本の銀行がロシアの銀行に持っているロシアルーブルの口座、或いはロシアの銀行が日本の銀行に持っている日本円の口座。これらの口座に直接入金する。これなら未だ資金決済可能と思います。但しこの場合。銀行は口座の存在を公表してませんので、取引銀行に個別にその有無を確認する必要があります。

一つの可能性として3メガバンクであれば、3行共にロシアに現法を持っていますので、本支店間であれば何らかの資金決済をしているはずです。もしニューヨークやEU諸国を経由してないのなら、今でもこのルートでの決済は可能かもしれません。

2.銀行以外の国際決済システム
銀行以外ではどうでしょうか。Paypalは既にロシア向けは停止。このような報道がなされています。英国ワイズ(旧トランスファーワイズ)もやはり停止です。ウェスタンユニオンは3/21(月)までなら取組可能との情報がありました。

但しウェスタンユニオンの日本語HPでは確認できなかったので、もし送金をお考えならば取扱店舗での確認を強くお勧めします。(取扱店舗は同社日本語HPで検索が可能です)

3.いわゆる暗号資産
全く知見がないのでウッカリしたことが言えないのですが、暗号資産ならば可能かもしれません。ただ取引所が取引に応じなければ、この方法も無理と言えます。

以上幾つかお話ししましたがこれらの方法の中では、可能であるならば取引銀行に相談して日本円かロシアルーブルで、送金を取り組むのが順当な気がします。ただ資金の授受は直接相手銀行口座に入金する必要がありますので、取引銀行にそもそも可能かどうかを確認せねばなりません。

当局が難色を示す場合は、銀行に腰を引かれる可能性もあります。それでも前回の本欄に記述しましたが、JT(日本たばこ産業)が国内システムを利用して決済を続けている。こういう報道がありますので、何らかの方法があるのではと思います。

参考サイト:ロイター、訂正(会社側の申し出)- JT、ロシアの資金決済は国内システム利用SWIFT通さず
https://jp.reuters.com/article/jt-swift-russia-idJPKBN2L00J5

2022/03/17

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外為では「SWIFT」をどう使っているのか

SWIFT

今回は昨今何かと話題の「SWIFT」(スイフト)についてです。外為の現場目線での「SWIFT」への思いを、その前史を含めて幾つかお話ししたいと思います。

本論に入る前に一点確認しておきたい点があります。皆さんは今回のロシアの銀行の「SWIFT」システムからの排除。この報道を聞いてどう思われますか。「SWIFT」から排除されると海外との資金決済が出来なくなる。多くの報道の論調がこうなっています。確かにこれは間違いではありません。が、少しはしょった形です。

実は「SWIFT」自身に資金決済機能はありません。あくまでも資金決済の銀行間通信を担っているだけです。つまり銀行は受信したSWIFT電文に従って、コルレス銀行やCHIPS(チップス)、預け金・預かり金を通じて決済します。その点を押さえた上で報道に接するようにして下さい。さて本題です。

1.TELEX(テレックス)の時代(「SWIFT」前史)
「SWIFT」以前の外為での通信手段は主にTELEX(テレックス)でした。(以下TLX.と略します)TLX.は今考えても使い勝手は良くありませんでした。本当に。送信相手に即つながる。即通信出来る。こうなってくれないのです。国によっては待時(たいじ)コールと呼ばれるシステムがありました。その国と通信したいときはKDD(今のKDDI)に通信申込をします。

その後一旦回線を切って相手国からの返事を待ちます。回線が通じた!との知らせが入ると、やおら通信の開始です。こんな待ち時間付なので、この方法は待時コールと呼ばれていました。(今渦中の大国の前身が代表的な待時コール先でした)またTLX.は通信時間が長くなると通話料がドンドンかさむので、出来るだけ短時間で済むような技術も要求されました。なので新システム(SWIFTのことです)の登場に思わず万歳でした。

2.「SWIFT」は安定的且つ早い
「SWIFT」は限られた参加者によるデータのやり取りのせいか、送受信に特段の問題や心配はありません。更にその送受信スピードは目を見張るものがあり、15分ぐらいで到着しているものもありTLX.時代と隔世の感があります。

3.「SWIFT」は相手のなりすましを気にしなくて良い
「SWIFT」にはSWIFTアドレスと呼ばれる端末番号があります。このアドレスは受信電文に必ず出てきますので、どこから来たものか一目瞭然です。「SWIFT」は限られた金融機関等しか参加できません。正体不明のなりすましは排除される仕組みとなっています。(但し現実にはハッキングされたこともあります)

4.「SWIFT」は簡単なフォームでやり取りできる
これも大きな進歩でした。TLX.では言語制限はないので、英語以外の言語も入ってきます。フランス語、スペイン語ぐらいは、何とかなるのですが、それ以外になるとお手上げです。先ず何語なのか?そこから始めて皆で大騒ぎです。SWIFTはフォーマットが英語で決まっているので、必要な事項(金額、日付、銀行名etc.)を入れるだけです。誰でも電文を簡単に解読できる優れものです。

5.「SWIFT」は自行のシステムとつながっている
受信データはそのまま自行のシステムに接続が可能です。例えば被仕向送金(海外からの送金)なら、マネロン上問題の無ければ入金手前の段階まで自動処理され、朝一番にスタンバイして担当者の出社を待ってくれてます。米国年金などはUSDから日本円に交換し入金まで済んでしまいます。これはものすごい進歩です。

如何でしょうか、このようにSWIFTは非常に有益なシステムです。今回の制裁はそれの利用制限ですから、絶大な効果があると言えます。以上今回はSWIFTついてでした。

追記
JT(日本たばこ産業)が、ロシア宛支払にSWIFT制限は影響しない。こういう報道がなされていました。恐らくこれは国内にあるロシア取引先の非居住者円預金に、日本円で支払をするものと推測します。これならばSWIFTは関係ありません。念のため申し添えます。

用語ページ:SWIFT
https://www.rakuraku-boeki.jp/word/s131

2022/03/07

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マーケットレートで外為取引を!

マーケットレートの外為取引

今回はこのタイトルです。パッと見てどう思われましたか?「FX(外国為替証拠金取引)で(業者)マージンなしを実現!」こう取られた人も多いと思います。確かにこれだと経済誌の特集になりそうです。しかし残念ながら今回はこの手のお話ではありません。(スイマセン)
あくまでも銀行での輸出入取引等のお話しです。さて本題です。

銀行の外為取引では円建、外貨対価、予約取引以外の取引では、必ず当日相場による通貨交換が発生します。つまり当日の相場で通貨交換のやりとりが発生するのです。正直このやり取りには悩ましい部分がありました。当日のレート動向を特に気にしないお客様であれば、
銀行がレートを提示してそれを使う事で問題なしです。が、そんな神様(銀行にとって)みたいなお客様はまずいません。

ある日いくつか外為取引を銀行に持込んだ。ところがそれぞれレートが微妙に違っていた。こうなったらどうでしょうか。なんとなく銀行に対して不信感が出てきませんか。実はこれ良くあることなのです。原因は銀行の仕切り方にあります。銀行は取扱金額で大口(USD100千以上)と小口(それ未満)に分けます。そして大口は市場実勢相場、一方小口は当日公表相場を適用します。

但し公表相場発表前なら大口でも当日の公表相場も適用出来ます。つまりやや面倒くさいものの理屈の裏付けは取れている状態です。また取扱金額と言っても単純に依頼書上の金額ではありません。当日のスポット決済金額を判断基準としています。この仕切りは決して銀行都合のご都合的なものではありません。

外為全体からから見れば十分納得できる部分なのですが、そこら辺を話せば話すほど言い訳じみて来るのも事実です。私も外為営業を始めた頃一生懸命この説明を始めてしまい、目の前のお客様を頭から湯気状態とさせてしまった事があります。(お客様は仕組みでは無く、なぜ相場が違ったかを聞きたかったのです。)

こういった状況への一つの解決策が、今回テーマの「マーケットレートでの外為取引」なのです。銀行に取って例外的な取扱になるのですが、かといってとんでもなく異例な取引ではありません。外為店ならば1・2社は存在しています。それぐらい普通でもあります。では具体的にはどう対応しているのでしょうか。

多くの場合銀行の事務処理は全てシステムサポートされています。つまり手続きに従えばオンラインが事故ミスを防いでくれます。マーケットレートを常に使うというのはこのサポートを受けない事です。であるのであれば本部に異例申請が必要となります。申請理由としては、当該のお客様が為替相場を良く理解している。大口の外為持込先である。他行取引防衛のため必要。等々でした。

要は銀行のロジックでは取引が難しい。こう結論づけるわけです。本部の方も心得てましてこの手の申請はまず認可になりました。この認可を根拠にシステム上にフラッグを立てます。「市場実勢相場適用先」と呼ぶことが多かったです。このフラッグの取引先は金額や時間を問わずその場の実勢相場で、取引が成立していました。ただそれでも不満が出ることがあり、通常もう一工夫していたのも事実です。

すなわち複数持込があった場合は、合計金額で相場を押さえてしまい、それからおもむろに個々のオペレーションに入っていったのです。これも後々のクレームえの回避を考えての事でした。

このように「市場実勢相場適用先」になれば、マーケットレートでの取引は可能になります。但し一つだけ留意点が有りました。それは公表相場との選択適用は認められないと言う点です。これは自由に適用相場の選ばせないと言うことであり、相場操縦取引の禁止にもつながるものです。

以上「マーケットレートで外為取引をしたい!」でした。

2022/02/13

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自己精査の勧め

自分自身で精査する

以前の本欄で事務の基本は「正・速・美」とお話ししました。中でも大事なのが一番目に挙げている「正確性」です。しかしこれをお題目として唱えても何も正確には出来ません。

正確な業務にはその正確性を担保するものが必要なのです。それが「検証」と「精査」です。銀行業界と他ではこれらの言葉の意味するところが違うようですが、銀行内部では担当者の行った業務を権限者が内容確認して、それを承認し正当化することを「検証」或いは「検印」と呼んでいます。

一方「精査」とは処理をした担当者以外の第三者が、内容を確認してその確認事実を記すものです。「検証」は「精査」を兼ねますので「精査」が表に出ないこともあります。

今回はこのうち精査について、皆さんの日常に役立てられるように、少し変わった視線からお話しします。

この「精査」は担当者のミスを軽減させる働きがあります。そのため銀行業務では当たり前のように行われています。事故やミスは「うっかり」に起因することが本当に多いからです。銀行業務で起こる事故やミスを第三者が点検することにより、トラブルや損害に繋がらないようにしようというわけです。これを日常生活にも応用する。これが今回のお話しのポイントです。

とは言っても何かする度に第三者を探して回って右往左往し、「精査」をお願いするわけにも行きません。そこで私が実行しているのが「自己精査」です。これは文字通り自己(自分)が自分のやった事を精査します。自分で自分をチェックしますので誰にも迷惑は掛けません。自分で精査するから「自己精査」というわけです。

しかしこんな単語は辞書にはありません。全くの造語です。さてこの「自己精査」ですがやり方は至極簡単です。何かをしたときに普通はそのままで終わりです。第三者に見て貰うなんて事はしないと思います。そのままで終わらせるはずです。しかし「自己精査」ではもう一度自分でチェックをします。なので「自己精査」なのです。

但しやり方に少々コツがあります。単純に自分の跡をなぞってもう一度見直しても、間違いは先ず見つけ出せません。当然だと思います。ではどうするのか、自分で自分を疑います。性悪説にたつのです。つまり「本当にそうか?」「大丈夫か?」「おかしく無いか?」こう頭で無理無理仕切ってしまうのです。言うほど簡単ではありませんが、やればやっただけの効果は出てきます。私はこのやり方で何度も自分のミスを救いました。

そこが皆さんにお勧めする所以です。但し一つだけ注意することがあります。慌てている時、忙しい時、面倒と感じる時。こんな時があります。ここで「自己精査」をサボると天罰てきめんとなります。かなりの確率でミスを引き起こします。つまり「自己精査」の効果を実感させられる事になるのです。こうなっては大変です。

自分は絶対大丈夫と言う人は別ですが、そう言えばミスが多いなあ。こう思われる人はだまされたと思って、「自己精査」をやってみて下さい。意外に効果があることを実感されると思います。

2022/02/04

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L/Cパックについて(東京限定)

東京港レインボーブリッジ

「L/C pack」という商品が有ります。商品と言っても物ではありません。東京信用保証協会の輸入業者向け保証制度です。今回はこの保証制度についてお話ししたいと思います。

東京以外の方は直接この制度の適用はありませんが、似たようなやり方で保証を受けることが出来ることがあります。後ほどその点にも触れたいと思います。

さて信用保証協会(以下保証協会)ですが皆さんはご存じでしょうか。保証協会は全国の都道府県と一部の市に設けられています。その役割は中小企業(一定の資格要件あり)への銀行融資に対して、「信用保証」をするという信用補完機能です。そして保証協会はその機能を持つ公益法人と言うわけです。簡単に言うと保証人の役割を果たしてくれるのです。

もちろん外為をやっている事業者でも保証協会は利用出来ます。特に今回お話しする「L/Cパック」は外為専用とも言える制度で、上手く利用すれば大変重宝する制度と言えます。詳細はぜひ保証協会発行のパンフレットを見て頂きたいのですが、簡単に言いますと銀行が輸入L/C関連として認識する取引を、一通り保証協会が保証してくれるものとなります。

手順としては保証付の証書貸付か手形貸付を銀行に実行して貰います。そしてその実行代わり金で担保となる定期性預金を作成します。銀行はこの定期預金を担保としてL/Cを開設します。さらにその後行程となる輸入ユーザンス(本邦ローンとも言います)、跳ね返り金融までの一連の流れもこの定期預金がカバーします。つまり一連のL/C取引を保証協会に面倒を見て貰うというわけです。

最長一年という縛りがありますが継続利用も可能となっています。やり方は旧保証を一旦返済して新規保証を実行します。更に少し細かい話ですが万一の時この担保性定期預金は、銀行のプロパー債権に対しても相殺適用が可能です。(勿論L/C関連与信や他にある保証付融資が優先ですが)

このように妙味のある制度ですが一般の協会保証と同様に、借入資格とか取引金融機関が保証協会利用可能かとか、事前に確認すべき点はいくつかあります。それらが満たされるのであれば一考の余地はあると思います。

ここまでお話しますと「じゃあ東京以外では出来ないのか」と、お尋ねが来そうですが実は何とかやる方法はあります。実際に私がやっていた方法はこうです。まず通常の運転資金の保証申込を行います。保証協会から実行OKの返事を貰います。その保証を基に貸付金を実行し、お客様は支払等にそれを充当します。

十分貸付金が流出しきったのを確認して担保預金を作成して貰います。その後はこの担保預金を基にL/C開設を行って行きます。その後の流れはL/Cパックと同じです。実際に成約に至った例は少なかったのですが、当行はこんなことも出来ます。と、提案することはお客様に好評でした。

今回はL/Cパックについてでした。

(注)似たような名称に特定信用状関連保証があります。これは海外子会社の現地資金調達を容易にするために、親会社取引銀行が発行するスタンドバイ信用状向けの保証です。全く機能が違いますので保証協会に相談する際には注意が必要です。

参考サイト:
L/Cパックについて「東京信用保証協会」
https://www.cgc-tokyo.or.jp/cgc_201902monthly40-02.pdf

海外展開サポートデスク「東京信用保証協会」
https://www.cgc-tokyo.or.jp/assistinfo/cgc_KTsupportdesk_leaf.pdf

2022/01/20

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他金融機関からの研修生を受け入れる

研修を受けている様子

私のいた研修部では、他機関からの研修生もよく受入れていました。(他機関とはここでは銀行、信金、信組、生損保を総合した意味です。)これは当行では研修部(教育部門)と外為センター(実務部門)が、同じ本部ビルで仕事をしていたからです。派遣する側からみれば、研修生はずっと同じ所にいる事になります。本人の所在をいちいち確かめずに済みます。

これは好評でした。こちらも研修期間中、すべて同じビルで行うことが出来ます。当方にももってこいの環境でした。つまり当事者双方にとって、この体制は好都合だったのです。そんな外為研修ですが、具体的にはどんな人が来ていたのか。派遣側の思いも含めて、お話ししていきたいと思います。

1.研修の流れ
まず派遣希望元から本部に研修生派遣の打診が入ります。既に受入実績のある先でしたら、そのまま研修部に話がつながります。しかし初めての金融機関からですと、本部で一連の折衝が行われます。同時並行で研修部にも本部から受入要請が来ます。ここで研修内容や研修期間の希望を相手に聞くことになります。

この聴取結果を基に研修内容を組み立てていきます。その後研修生のプロフィールが来れば外為の現場にも伝えます。具体的な研修内容は、「座学」と「実習」の組み合わせで行います。期間は最短で一週間、長くて三ヶ月ぐらいでした。本当はオーダーメイドなのでもっと幅を持たせることが可能なのですが、先方の希望を満たすと大体こんな期間になるのでした。

2.初心者研修
ここからは受入れ研修生のタイプ別のお話です。最も多かったのがこのタイプです。やってくる研修生も殆どが若手でした。このタイプは研修部としても力が入ります。こちらの力量が問われます。研修初日から1週間はマンツーマンでみっちり座学です。この点が特に派遣する側からの評価が高い点の一つでした。

外為研修と言えば普通何人かまとめてです。塾みたいなもんです。しかし当方の講師は専属です。(家庭教師みたいなもんです)その後の現場実習もお客さん扱いはしません。こちらの担当者に混じって実際の業務をやってもらいます。文字通り「習うより慣れろ」です。数日もすれば本人も現場に慣れてきて、電話口で「○○銀行△△でございます!」と名乗るなど、端で聞いていてもやる気が伝わってきていました。

現場でもある程度の期間受入れるため、お客様扱いはしてませんでした。これもまた研修生本人にも派遣した金融機関にも好評を博していました。

3.専門研修
このタイプの研修は、恐らく他所では実施されていないと思います。研修概要は簡単に言うと、既に一定の外為スキルを持つ人が、派遣金融機関の特命を帯びて当行のノウハウ獲得にやってくる。こう言った位置づけです。特定分野の集中研修です。研修期間もごく短いもので、せいぜい一週間程度でした。たった二日間もありました。(尤もこれでは日が足りず再度来てましたが)

この専門研修は短期でしたが、内容はかなり高度且つ緻密でして、派遣する側からすれば割高なコストを払っても惜しくない。そう思わせるだけのメリットを含む内容でした。

今期は他金融機関からの研修生についてお話ししました。

2022/01/10

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銀行との担保交渉はどうすべきか(後編)

銀行の不動産担保ローン
(中編)からの続きです。

6.不動産担保(主に根抵当権)
担保と言えば不動産担保。そう私も思います。しかしいろんな意味で難しいのがこの不動産担保です。銀行が担保交渉してきた場合、不動産担保を持ち出してきたら、一旦立ち止まって考える必要があります。

不動産担保の設定・解除には、手間と費用が多くかかります。しかも一度設定すると取引解消し無い限りは、銀行は担保の解放には応じてくれません。担保のハードルはえらく高いものになります。この不動産担保固有も言うべき不可逆性(オーバーでしょうか)。これを考えずに担保交渉に応ずべきではないと考えます。

不動産担保を考えるとき、銀行は当然のごとく根抵当を出してきます。しかし根抵当は一度設定されると、その銀行と取引解消でもしない限り、半永久的に引き継がれていきます。銀行が合併して名前が変わっても、登記権利者の名義変更で対応します。根抵当権は銀行の様々な取引の担保となり得るので、一対一対応の抵当権よりは利便性が高いとも言えます。しかしその有効性は強烈です。他の担保の一段上を行くものと言えます。銀行が不動産担保に言及した場合は、本気度が強いと言えます。しかし「時価設定」したい。「同順位設定」したい。と銀行が言ってきた場合は留意する必要があります。

先ず「時価設定」についてですが、これを持ち出してきた場合の狙いは、ずばりその不動産の価値の独占です。通常は掛け目後の価格(時価一億円の物件であれば例えばその80%の八千万円のこと)の範囲内で根抵当権を設定します。対して時価設定とは、時価一杯である一億円で設定することです。

ここからはチョット横道にそれますが、バブルの頃は時価の120%で設定していた銀行もありました。こうなると無茶苦茶です。希望価格設定とでもいうのでしょうか。時価以上の設定です。当時我々の間ではあんなやり方続けられる訳が無い。きっと破綻するに違いない。と、良く噂していました。案の定その銀行は5年後破綻しました。無茶は無茶の証明です。

本題に戻ります。

担保とする不動産の価値を独占しようとする場合に、時価目一杯に根抵当権金額を設定すると他社(銀行に限りません)は、当該不動産を実質的には利用できません。これが時価設定の狙いなのです。また既に根抵当権が相当金額設定されている場合に、後順位に設定するべき時に、銀行から同順位設定の話をしてくる場合があります。

これの狙いは先順位(既に設定している)他社と、同様の担保価値を受けようというものです。本当は根抵当権の譲渡という荒技もあるのですが、これは相手に喧嘩を売るに等しいので、通常銀行は肩代わり以外では用いることしません。

そんなこんなで不動産担保は大変です。しかし不動産担保は当該物件の使用収益権(用益権)は、会社に残りますので、その意味では使い勝手は良いといえます。銀行から見ても根抵当権を一度設定すれば、適宜担保洗い替えの必要はありますが、有価証券と異なり、現物確保の必要も無いので楽と言えば楽でした。

その他には動産担保(船舶、自動車、機械etc.)もありましたが、動産担保を設定したという事実そのものが全行紹介されるほど、事例が少なく私も残念ですが経験は無しでした。

以上、銀行が担保を要求したときの、銀行の思惑とそれに対する企業の対応について概説しました。

2021/12/25

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銀行との担保交渉はどうすべきか(中編)

有価証券
(前編)からの続きです。

2.他行円定期預金
他銀行の円定期預金も担保となり得ます。(かなり面倒ですが)担保価額も取引銀行の円定期預金(自行定期と言います)と同じです。ただ違うのは質権設定契約(確定日付も付ける)を締結するのと、当該他行から質権設定の承諾を引き出す必要がある点です。

この他行承認を引き出すことは、実は大変な事なのです。ちょっと考えて見て下さい。その銀行にしてみれば自行定期預金へ、いきなり他行が質権設定を要求してきたらどうでしょうか。その銀行の考えることはこうです。「質権設定を要求してきた銀行は、自らの保全確保に汲々としている。あろうことか他行定期まで確保に走っている。」こう思われてしまったら大変です。もしその銀行がその会社に融資をしていたら、真剣に引き上げを検討するでしょう。(少なくとも私はそうします)

なのでこんな時、無理は通さずに他行の定期は解約してもらいます。そしてその資金は自己資金として使ってもらいます。これが現実的な対応だと思います。

3.外貨定期預金(自行に限る)
外為をよく知ったお客様の中には、自社の外貨決済の多さに着目し、USDやEURで外貨定期を組み、それを預金担保にしたいと申し出てこられる場合があります。為替リスクの回避を念頭に置いたお申し出だと思います。

しかし外貨預金を担保とする場合は、掛け目と呼ばれる厄介なものが発生してしまうのです。掛け目とは担保価額の計算で、一定割合(掛け目)を減額するものです。例えば百万米ドルの外貨定期を担保として用意した場合、担保としての評価方法は、まず当該外貨定期を円に換算してしまいます。(換算レートはその月の適用レートを銀行が決めています。)その換算額に9割とか8割を掛けて一定額を出します。

これが担保価額になるわけです。結果として担保金額は減ります。加えて円に換算するレートは毎月変わっていくので、不足した時には追加担保が必要になります。これではお客様の納得は得られません。殆ど実例が無かった所以です。

4.有価証券(主に公社債、上場株式)
銀行が担保とするのは、主に国債・地方債や上場会社の社債・株式です。不動産に比べて担保の取得・解放が容易で、金銭的負担もありません。但し確定日付まで取ると、若干ですが費用が発生してしまいます。この有価証券担保は一時的な担保として利用されていました。(もちろん恒久的な担保にも使えます)

しかし有価証券も担保価額では掛け目が存在しており、国債といえども額面通りの評価とはいきませんでした。この辺り難しいところで、不動産担保が良いと考える向きも有りました。加えて手持ちの有価証券を銀行に差し出す形になるため、いわゆる財布の中に手を突っ込まれる。こう考えるお客様も多かったです。結局実際の利用は今一つでした。

しかし銀行に取っては預金担保ほどではありませんが、取扱は豊富で有り、企業としても検討に値すると考えます。なお注意すべきは非上場株式です。ごく稀に提供の話がありましたが、銀行の規定では担保不適格となっており、丁重にお断りしていました。

5.ゴルフ会員権
項目立てをして見ましたが、実際どうなんでしょうか。今では担保として歓迎している銀行は無さそうな感じです。理由は有る意味簡単で、ゴルフ会員権は有価証券では無いからです。最も例の多い預託金方式で考えてみましょう。

この方式での担保対象は、ゴルフ場に預ける一定金額(預託金)に対する返還請求権です。これを銀行が担保化するのであれば、債権譲渡の形式をとります。譲渡担保契約を結んで担保とするわけです。バブルの頃は、銀行もゴルフ会員権価格は年々上昇している。いざとなれば転売も簡単にできる。こんなコンセンサスで有価証券並みの扱いをしていました。(世間一般の風潮もそんな感じでした)

現状ではその面影はありません。ゴルフ会員権担保は無理筋のようです。

以下(後編)に続きます。

2021/12/19

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銀行との担保交渉はどうすべきか(前編)

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外為に限りませんが銀行取引をしていると、取引銀行から担保を要求される場合があります(特に融資取引)。信用取引(無担保取引)残高が一定限度を超えた場合に、銀行から保全措置として担保が求められる場合が多いようです。場合によっては、新規取引でも「担保を」となる場合もあります。(ここ言う担保とは物的担保のことを指します。)

さてこのような銀行からの要求ですが、どう答えるべきでしょうか。今回から3回シリーズで、言ってきた銀行の思惑や、言われた当事者の対応について、考えていきたいと思います。

まず銀行からの担保要求へどう反応するかです。「担保は出したくない。」と拒絶することがパッと思い浮かびます。初手の回答としてはこれも十分に有りです。しかし重ねて銀行が担保を求めてきた時はどうでしょうか。その段階で、この回答に固執するのは余りお奨めしません。なぜなら銀行は、取引には担保が必要と判断しているからです。

全面拒否回答は、この判断に対する真正面からの反応となります。全面拒否では銀行を、取引自体を見直す方向に追いやってしまいます。つまりその銀行と取引が出来なくなる可能性も出てくるのです。取引を切られては元も子もありません。ここは思案のしどころです。

まず頭に浮かべるべきポイントは担保の最小限化です。そこでこの延長として、「担保は(渋々ですが)応諾する」と回答します。ただここで留意すべきは、二つ返事で担保提供を申し出ないことです。銀行が担保として受け入れ易いものを提示すますが、あくまでも最少額とすべきなのです。これが上策となります。

では担保として何が受入れやすいのか。具体的に見ていきましょう。【お願い】以下の記述については筆者の知見を基にしています。判る範囲で現状も述べていますが、制度運用は銀行によって異なります。詳細はお取引銀行に、お問い合わせされることをお勧めします。

1.円定期預金(取引銀行に預入分)
最も銀行が担保として評価するのは、自分の銀行にある円定期預金です。名義は会社でも社長でも構いません。第三者が提供する場合もあります。要するに取引銀行の定期預金であれば、担保として効果を発揮します。但し二重設定は出来ません。この点注意が必要です。

銀行では定期を担保とする取引を、預金担保取引と呼んでいます。略して預担(よたん)です。ここでは定期とお話ししましたが、実は預担は定期に限りません。通知や貯蓄、積立預金でもあり得ます。さてこの預担取引では担保と評価額は、額面金額の100%です。これは銀行が担保に100%の価値を認めたと言うことです。

実際の取引場面でも、L/C開設やD/P・D/Aの買取などの、恒常的な取引に際して、与信極度枠の担保に定期預金を、入担(担保に入れること)していた取引先があります。どうせ使わない(使えない。。)資金ならば、担保提供も一法です。

なお取引銀行の支店と定期預金の預入店は同一が通常ですが、違っていても同一銀行であれば問題ありません。銀行としては担保対象が債務者或いは保証人名義自行預金で有れば、いざというときに相殺することも可能です。(むしろこちら優先のハズ)

つまり相殺の有効性からも、定期担保がまず俎上に上がると思います。(中編に)続きます。

2021/12/10

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「システム障害」みずほはどうすべきだったか

みずほ銀行のシステム障害

2021年11月26日にみずほ銀行に対し、財務省と金融庁から、外為法違反に係わる命令が発出されています。これは9月30日に発生したシステム障害に関してのものです。実はこの日、同行は本年8度目のシステム障害のただ中にありました。この障害により外国送金約400件が遅延状態に陥ってしまったのです。

同行はこれらの送金処理を急ぐ余り、決定的なミスを犯します。マネーロンダリングのチェックを、後回しにしてしまったのです。これは外為法では認められていない処理方法です。幸いこれらの送金に問題はなかったようですが、結果オーライが違法性を阻却するわけがありません。結果として今回の厳しい措置につながってしまいました。

そこで今回は自分が当事者だったらどう対応しただろうか。これを考えてみたいと思います。先ず公表されている事実関係から、当日の現場をフォーカスします。当日は9月30日。これは月末。しかも半期毎の期末日です。猛烈に忙しかった事に間違いありません。オンラインが正常稼働していても、送金依頼の山は中々減りません。

そんな日のシステムダウン。これは絶望的としか言いようがありません。関係者全員の暗澹たる気持ちは、察して余りあるものがあります。それでも現場は頑張って殆どの送金処理を終えたのだと思います。そして問題の400件弱が残りました。ここで誰がゴーサインを出したのか分りませんが、「マネロンチェックを後回しにして対外発信する。」こう判断したのです。

これは絶対に止めるべき判断でした。「それは不味い!」「金融庁から一発ですよ!」「財務省に怒られる!」何でも良いと思いますが、誰かがそう言って止めるべきでした。振り返って我が身に置き換えると、こんな判断が降りてきたら、本気で本部に確認を取ります。それほど異常な話なのです。しかし実際はどこの段階でも歯止めは効きませんでした。その無制御振りを金融庁も財務省も問題としたのです。もっともこのお話し真逆の可能性もあり得ます。殆どの送金を止めて、400件弱だけ取り組んだのかもしれません。しかしこれでは別の意味で大問題となってしまいます。このパターンでは無さそうです。

ここまで述べてきて、「代行送信」の可能性に気づきました。「代行送信」とは文字通り他行に代行で発信してもらうものです。過去私も頼んだり頼まれたりしたこともあったのですが、その際送金内容は全て依頼銀行側が責任を持ちます。とすれば今回マネロンチェックがされてませんので、みずほ銀行は送金内容については大丈夫。間違いない。こう言えません。無理筋のお願いとなります。(更に言えば400件も頼めません)

やはりここは400件弱の送金は未発信分として、お客様にお詫びして、翌日以降の発信でご諒解を得るしか有りません。もし発信遅延で実損が出た場合は、当然賠償の問題となります。誠意を持ってお客様に対するしかありません。以上、私なりの考えをお話ししました。

最後に金融庁の業務改善命令に注目したいと思います。この命令の第九項に述べられている、
(3)顧客影響に対する感度の欠如、営業現場の実態軽視
(4)言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢
この二点は非常に重たく、顔から火が出るくらい恥ずかしいものです。

みずほ銀行の外為担当者にとって信頼回復への道のりは、相当に困難を極めると思います。信用は一瞬で消え去りますが、回復には年単位が掛ります。が、この二点を忘れずに、基本に忠実に対応して貰えればと思います。

参考サイト:
財務省 みずほ銀⾏に対する⾏政処分について(令和3年11月26日)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/press_release/20211126.html

金融庁 みずほ銀行及びみずほフィナンシャルグループに対する行政処分について
https://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20211126/20211126.html

2021/11/29

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銀行員の出張

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いつ行ってもお店の中にいるイメージが強いのが銀行員。しかし営業担当は、日中殆ど店内にはいません。(ある意味当たり前?)彼等、彼女等は、担当先・新規先を積極的に訪問しているのです。多くの取引先は自店テリトリー内です。遠くても半日で往復できます。しかし全く遠出(出張とも)をしないかと言えば、そうでもありません。

銀行本部主催の東京での全国会議や本部集合研修などは、ほぼ終日or宿泊で出張をしていました。(これは典型的例です)
これとは別に、お取引先からお声掛かりで出張することもありました。今回はこの辺の所をお話ししてみようと思います。

私が新米担当者の頃、外為基幹先だった機械メーカーのお話しです。この会社は主に中国・東南アジア諸国向けに輸出をしていました。本社は大坂でしたが、主力工場は滋賀県にありました。銀行に持ち込む輸出書類は本社で作っていたのですが、製品そのものは滋賀から直接輸出していました。

この会社の方針として、取引銀行には自社製品を理解して欲しい。そのためには自社工場まで足を運んで貰うのが一番の良策。こう言った考えから、年に一度工場見学に招待してくれていたのです。或る年、そのお鉢が私に回ってきました。候補日は幾つかあって、選べるようになっていました。いずれも土日ではありません。その時私は思いました。これこそ正に公務出張ではないだろうか。何やら自分が一段の高みにアップしたような、取引先からも一人前として認められたような。そんな気になったのです。

当日朝、勇躍そのお取引先本社に参上しました。実を言うと、そこにいたのは私一人ではありませんでした。招待されたのは支店長と私の上司、そして私の三人。要するに私は鞄持ちだったのです。しかしここで私は気を取り直しました。相手から見たら、銀行の看板を背負っているのは三人一緒。なら卑屈になる必要は無い。喜んでおもてなしを受けよう。なんとも都合の良い結論ですが、これで気が楽になりました。

さて我々の相手をしてくれるのは、先方の専務と経理部長です。こちらはお二方共に普段からよく知ってますし、何より自分はその会社を店の誰よりも分っている。こう自負していました。その辺の事情が明確になると、この日は大変楽しい出張となりました。工場では工場長さんから製品の説明を受けて、実際に製造されている工程を見せて貰ったりすると、今まで船積書類でしか出会えていない商品達が、実に生き生きとして迫って来るようでした。

工場見学自体も大変有意義だったのですが、工場の食堂でご馳走になった昼食。これが大変美味しく、普段多忙で昼食難民の身としては、少し羨ましくなってしまいました。午後は近場の名所・旧跡を案内して貰い、まるで大名旅行のようでした。夕刻は近くの割烹料亭に招待されました。地元の特産品に舌鼓を打ちながら、懇談に相勤めていると、よしこの会社のために、一肌脱ごうと思えてくるのでした。バブル華やかなりし頃とは言え贅沢な話です。

しかし翌日からは一転、多忙な日々が戻ってきました。そして二度とこのような出張は有りませんでした。今となっては遠い記憶の片隅の出来事です。懐かしい反面、不思議な気持ちがする出来事でもありました。今でもこんな話はあるのか。現担当者に聞いてみたいものです。

2021/11/20

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事務の基本は「正・速・美」

事務の基本は正・速・美

研修講師のとき、新入相手に良くこの話をしてました。枕に「事務の」とありますが、別に事務に限りません。営業の場面でも大いに役立ちます。研修生には「憶えておいて損の無い話だよ。」こう言って話してました。今回はこの「正・速・美」についてのお話しです。

1.「正」とは、とにかく「正確」であること
ここでも何度となく触れていますが、銀行はお金を扱う商売です。銀行が間違っていては、文字通り商売になりません。しかも一度間違うとそれを正常にするには、当初の三倍の時間がかかってしまいます。つまり間違った処理や対応を「1」とすると、それを訂正するのに「1」、正しい処理や対応に又「1」かかります。つまり「1+1+1=3」となるわけです。

実際にミスが発生すると当人は狼狽してしまい、なかなか正しい手順戻れません。思った以上に時間がかかるのです。その意味でも「1+1+1=3」上手い表現と言えます。

2.「速」とは手際のよいこと。単にスピードの問題では無い
二番目は「速」です。これも言うは易く行うは難しです。日々の業務から一例を挙げたいと思います。営業店では日常業務(多くは午後3時まで)終了後に、店全体の勘定を合わせます。現金勘定と振替勘定の両方がゴメイ(勘定一致)となれば、基本的には終業体制となります。つまり帰れるようになるのです。

しかし「速」が失われると、この勘定合わせに異常に時間がかかります。各課、各係の締め上げ(当日勘定照合のこと)が中々揃いません。正しいのですが歩みがのろいので、何時までも店全体が合いません。このように単に「正」だけでは目的が達せられないことが多々あります。「速」あっての「正」と言えます。

3.最後は「美」です
これは前の二つに比べて理解が得にくいものです。「美」といっても勿論美的センス云々ではありません。言い換えると、「乱れなく整っている」と言えば良いでしょうか。なんでこんなことが重要かと言いますと、例えばお客様のご依頼を処理した場合を考えます。正しく早く出来上がっても、見るからに乱れて整って無ければ、お客様は何と思われるでしょうか。頼むからもう少し丁寧にやってよ。こう思われると思います。

これでは「正」「速」が出来ていても、評価はガタ落ちです。或いはこれは良くあったのですが、本部の臨店検査や金融庁検査などで、過去の取引記録を提出することがあります。これらの資料が「美」の条件を満たしていると、言い換えれば「乱れなく整っている」の状態であれば、検査官の心証は良好ですし検査結果も上向きになります。しかしその真逆の資料を出したらどうでしょうか。検査官の心証も真っ逆さまです。これではいけません。

こうならないためにも「美」の意識は持つべきだし、それを心掛けるべきなのです。如何でしたでしょうか。「正・速・美」。よかったら一度考えてみませんか。

2021/11/07

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「B/L」の代わりに「FCR」は有りか?

輸出書類にB/L(船荷証券)の代わりにFCR(貨物受取証)

今回は輸出書類にB/L(船荷証券)の代わりに、FCR(Forwarder’s Cargo Receipt:貨物受取証)を添付した場合に、銀行は買取に応じてくれるか。この点を検討したいと思います。(恒例のAIBA論壇からになります)

このFCRですが邦語表示が示すように、有価証券ではありません。受取証に過ぎません。つまり担保価値はないのです。銀行は船積書類を買い取るときに留意するのは、当該貨物を担保として取得できるかどうかです。担保として取得可能であれば買取も可能と判断します。しかし取得不可であれば買取も出来ないことになります。

それでは実際に貨物を担保に出来なくても、買取に「応じている」「応じていない」どちらでしょうか? ここからがいかにも銀行らしいのですが、その判断基準を与信判断にリンクさせているのです。買取を依頼してきた顧客に信用扱いの与信が打てるのであれば、買取に応じているのが実際の所です。この場合結論としては買取には「応じる」です。

逆に信用扱いの与信を打てそうもない顧客に対してです。これはL/CベースとD/PD/A(L/C無し)での場合分けをします。D/PD/Aベースでは具体的な保全がなければ、信用扱い(すなわち無担保)での買取は、かなり高いハードルになります。何らかの保全が買取の前提条件となるでしょう。

ではL/Cベースはどうでしょうか。ここは議論が分かれるところです。原則論から言えば無担保与信が取れない先柄であれば、買取は否定的なニュアンスになっていきます。しかし以下の理由により私は買取もありと考えます。

理由その一
信用状統一規則にはFCRに関する規定はない。信用状統一規則にはB/L、海上運送状(Seaway bill)、傭船契約船荷証券(Charter Party B/L)等の規定はありますが、FCRの定めはありません。こういった規定のない物は、当事者間での取り決めとなります。つまり銀行を含め関係当事者全員で了解すれば、FCRでの取扱は可能と考えます。

理由その二
実際のL/Cには、担保権が確保されていないB/L条件もある。L/C条件の中には「B/L一部直送の許容」や「サレンダードB/L(元地回収B/L)許容」といった担保権の無いものもあります。信用状統一規則に定めの無いこういったB/L条件でも、L/C条件にそう定めてあれば邦銀では買取に応じています。となるとこれらが良くてFCRは駄目という。議論はかなり困難です。むしろ実務上は買取に応じるのが素直と感じます。

理由その三
L/C開設における煩雑さは僅か。もしFCRを認めるL/Cを考えた場合でも、敢えて条項を新設しなくても、B/Lに関する条項を全て普通に整えた上で、その他条件欄でFCR許容文言を追加すれば、顧客の要望は充足されます。例えばA FCR(Forwarder’s Cargo Receipt) is acceptable.(I/O original B/L).と表示すれば良いと考えます。ちなみに I/Oはinstead of の略です。

以上FCR に関する銀行の対応についてでした。

参考サイト:JIFFA - 一般社団法人 国際フレイトフォワーダーズ協会
JIFFA FCR (Forwarder's Cargo Receipt)
https://www.jiffa.or.jp/documents/fcr.html

2021/10/31

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「現金その場限り」を実感したとき

現金の束

銀行業務の原則の一つに、「現金その場限り」というものがあります。これは文字通り、現金の授受はその場で関係者全員が確認する。後で「多い」「少ない」と言っても駄目。という当たり前のような原則です。

銀行員なら誰でも耳にタコができるくらい言われます。実際に仕事をしていると、この原則が身に染みる場面が多々有ります。銀行はお金と縁が切れませんので、時代を超えての原則と言えます。今回はこの「現金その場限り」を、違ったニュアンスで実感したお話しです。

時は今から30年ほど前、バブル景気華やかなりし頃です。お取引先のデベロッパーが、総額60億円で宅地開発を行いました。ほぼ全額を銀行借入で賄った上で、開発後の商業ビル売却で一括返済。こんなスキームの話です。

その当時既にバブル崩壊の懸念が出ていた時期でもあり、銀行としても複数行で協融体制を取ってリスク分散を図りました。さていよいよ売買取引と融資実行という段階になったとき、このデベロッパーから珍しい依頼がありました。それは取引当日に現金で3億円用意して欲しいというのです。

売買当日に手数料名目で、現金が授受されるのは良く目にします。しかし3億円というのは総額が60億円とはいえ大きな金額です。事情を聞くと売主側からのたっての依頼のようです。そこで現金は当日取引時間に間に合うように手配しました。不動産売買では銀行が融資をして担保を設定するため、取引場所が銀行の応接室になる事があります。今回は参加人数が20人を超えそうだとの情報で、店の会議室を用意しました。

現金はそこに持ち込むことになりました。売買当事者が全員揃ったところで、銀行依頼の司法書士が所有権の移転登記と、抵当権の設定登記書類の完備を確認しました。ここでデベロッパーに対し融資金が交付されます。と同時に現金も受渡がされました。私と言えば当日はヘルプで隣の部屋に控えていたのですが、チラ見したところ用意された現金は日銀封のものでした。

少し説明すると、日銀封とは日銀が同一金種を100枚ごとに数えて、束にしたものをさらに10束まとめたものです。普段見る機会は全くないと思いますが、大変に信用力あるものなので、我々も日銀封緘印があるものは、まき直しをせず使っていました。一方他行封緘の束はそのままとは行きませんので、すべて数え直して自行の封緘印を押していました。これをまき直しと呼んで正直大変な作業で、窓口担当の悩みの種でした。

さてこの日銀封の現金がどうなったのか。この後は売主側に渡ったのは間違いないのですが、銀行担当者は席を外して欲しいとの依頼だったので、詳しくは分りませんでした。しかし小一時間が経過して20人ほどいた関係者が、三々五々紙袋を大事に抱えて会議室から出てきました。入れ替わりに入ってみると現金は綺麗になくなっており、大封紙(おおぶうし)と呼んでいた日銀封緘印のある、札束を結束していた紙だけが机の上に残されていました。

文字通り現金その場限りだったのです。3億円という一生涯かけてもお目にかかれないような現金でも、20人が相手では小脇に抱えられる程度になるのか。そんな不思議な感覚を持ってしまいました。

参考サイト: 銀行見学 | 商業科(課題研究) | 一般社団法人 全国銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/education/support/support03/sakaidesho-h/shogyo/report02/

2021/10/24

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輸出書類の買取と取立

銀行に輸出書類を持ち込む

輸出を扱う皆さんは銀行に輸出書類を持ち込む際に、買取で依頼しますか?それとも取立の依頼でしょうか?

特に調べたわけではありませんが、多くの場合L/C付の書類は買取、D/P・D/A(L/C無)は取立。こう区分けしている会社が多かったようです。実はこの区分け、銀行から見ても意味がありました。今回のお話しはこの辺りになります。

さて買取とはなんでしょうか。一言で言えば銀行が輸出者から債権譲渡を受けることです。銀行はその対価として買取代わり金を支払います。ここを捉えて買取と呼んでいます。この効果は輸出者から見ると不渡り等がなければ、銀行の買取を持って資金回収終了と見なすことも可能な点です。(正しくは最終決済までの期間金利が追加請求されますが)

次に取立ですがこちらは銀行に対して取立の委任をするだけです。若干の手数料は払いますが、債権譲渡は発生しません。輸入サイドから入金があって初めて資金回収となります。このことから銀行から見ると与信を起こすのが買取、起こさなくて済むのが取立という区分けになります。

では銀行は買取と取立をどう考えているのでしょうか。まず買取ですが、これは取引形態と輸出者の信用状態がポイントです。L/C付(信用状付)であれば、L/C発行銀行の支払の確約が有ります。輸出者に少々難があっても、発行銀行に乗っかれば対応できます。良くあったのが年商相当のL/C買取が持ち込まれても、発行銀行が一流銀行で書類もクリーン(条件違反無し)であれば、そのまま応じる。と言うものでした。これなど国内融資と外為の違いが良く出ていると思います。(国内融資では年商相当の貸金など打ちませんので)

D/P・D/A(信用状無し)の場合は少々異なります。輸出手形保険で保全を補強しても、輸出者自身の与信状況がポイントになります。多くの場合D/P・D/A(信用状無し)では、取立が第一選択となります。以上が銀行サイドの考えなのですが、これらを理解すると、顧客サイドとして対応が見えてきます。

L/C付であれば先ずは買取が大前提となります。もし資金繰りに余裕が有り、立替金利を払いたくない。こう考えるのであれば買取では無く、プリテンドネゴという方法もあります。このプリテンドネゴですが銀行によって呼び方が違うので、内容を説明して銀行に検討を依頼して下さい。ポイントは銀行との間では取立処理なのですが、対外的には買取表示をして貰うと言うことです。

次にD/P・D/A(信用状無し)の場合は、輸出手形保険も一法ですが、キチンとした担保を提供するの有力候補になります。不動産や有価証券がその代表例です。もしそれでも上手くいかなければ奥の手があります。それは預金担保です。最初からこの話を持ち出す必要はありませんが、第三者名義の預金や他行の預金でも担保になり得ますので、どうしても買取に対して銀行がネガティブの場合使ってみて下さい。担保設定期間もa/s物(一覧払い)であれば、1ヶ月有れば何とかなります。

今回は買取と取立についてでした。

2021/10/18

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B/L(船荷証券)裏書は全通に必要か

B/L(船荷証券)の裏書サイン

今回は裏書きが必要な銀行経由のB/L(船荷証券)に、裏書もれが有ったときの銀行対応についてです(AIBA論壇の最近のトピックスより)。例によって具体的な説明は無いのですが、銀行対応を知りたい企業担当者からのようです。

それでは、まずなぜB/Lに裏書が必要なのかですが、これはB/Lの有価証券性が大きく影響しています。一般に有価証券の譲渡には裏書が必要です。B/Lも有価証券ですから、裏書が無いと譲渡出来ません。(記名式B/Lのように裏書不要の場合もありますが)

次に裏書漏れがどこで発見されたかです。輸出国サイドでなら、何を於いても裏書補記に全力集中です。「裏書は同じ人がしなければならない。」とのたまう、銀行があると聞いたことがあります。しかし私は寡聞にして、そんな規定聞いたことはありません。(所詮はインハウスルールでしょうか?)信用状統一規則にもそこまでの決めはありません。よって正当なサイン権限者であれば、その内の誰かが裏書をして、形式を整えれば良いことになります。

これを裏書補充優先の原則と呼ぶことにします。次に輸入国サイドで発見された場合です。これは輸出国のチェックを、何らかの理由で通り抜けたことを意味します。そこで受け取った輸入国銀行の対応が問題になってきます。銀行としての実務対応は、大きく二つに分かれます。

一つ目は全通裏書漏れの場合でなければ、つまり一通でも裏書きがあれば、輸入者の了解を前提に、そのまま手続きを進めてしまうやり方です。ご承知のようにB/Lは一通で貨物は引き取れますので、他のB/Lの不備には影響されないからです。また輸出国銀行に裏書漏れを通知するかどうかは、やや考慮すべき事項となります。

過去微細な不備を先方に通知したところ、先方銀行からB/L全通の返却を要請されました。こちらは顧客に確認の上それに応じたのですが、再入手に手間取り通関が遅れてしまいました。やむなくL/G(荷物引取保証)を発行したのですが、顧客にその部部分での追加負担をお願いすることになりました。それ以降はこのことは、注意点として皆で共有しました。

二つ目の方法は輸出国銀行に電信で裏書漏れを通知して、先方からこちらでの補記訂正の了解を取り付けることです。しかしこの方法はいくら先方の了解の得るとはいえ、銀行自身で裏書をすると言うことです。事務規定に何も定めなんか有りませんでした。当然でしょうね。異例事項ですから。本部協議です。

私は常にこの可能性も頭に置いてました。しかし本部と協議して説得できる自信はありませんでした。つまりこの方法は画に描いた餅だったわけです。よって実務上は一番目の方法に全力投球でした。懸念があるとすれば船会社からのクレームでしたが、
船会社にしてみれば全通回収できて、その内一通にも裏書があれば他は気にしない。こう判断していたのでしょう。

一回もクレーム騒ぎにはなりませんでした。今回はB/L裏書漏れについてのお話しでした。

2021/10/07

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みずほ銀行への「業務改善命令」を憂う

pic_bank_20210929

つい先日、みずほ銀行及びその持株会社のみずほファイナンシャルグループに対して、監督官庁である金融庁から「業務改善命令」が発出されました。銀行業界の末席に連なりその禄を食んだ者として、この業務改善命令について大いに感じる所があります。その感じるところとは一言で言えば大いなる憂いです。今回はこの点についてお話ししたいと思います。

今回の業務改善命令は言うまでも無く、今年に入ってから大小取り混ぜて7回に及ぶ、同行のシステム障害に起因するトラブルへのものです。古くは大蔵省の時代から、銀行に対する監督官庁からの指示指導は絶対でした。今回の命令もみずほ銀行に取っては絶対のものと言えます。しかも金融庁のHPに掲載された命令の中を見ると、かなりの特異性が見られます。これが私の憂鬱の原因なのです。

以下が私の気づいた点です。

その一. 業務改善命令を出すタイミングが早すぎる

通常の業務改善命令では、発出前に金融庁の検査が行われます。そしてその結果を基に改善命令が出されます。もちろん今回も金融庁の検査は行われています。但し検査は未だ終わってません。それは金融庁自身が認めています。しかし改善命令が出されました。これは異例と言わざるを得ません。それだけ金融庁が本件を重く見ていることと言えます。

その二. システムの安定性・継続性を優先して求めていること

次に気になったのは金融庁がみずほ側の一連の対応について、強い危機感を持っていることです。改善命令の中に、業務継続上必要なシステム更改及び更新であっても、新たなシステム障害が発生しないように管理体制を整えること。このように表現された部分があります。

この表現はかなりきついです。対メガバンクとしては異例と思います。かつての「護送船団方式」の行政指導で、船足の最も遅い銀行に対してのそんな言い方をしていました。何やらそれを彷彿させる物言いです。極めて不名誉な言われ方です。

この点に関して麻生大臣は「みずほ銀行を管理下に置くのか?」との質問に対して明確にそれを否定していました。しかしこの書きぶりは、銀行を管理下に置いた。こう考えてしまいます。銀行基幹システムの安定運用に対してそこ迄言うのか。そう感じます。

最後に最も気になった点です。それはみずほ銀行の役職員のモチベーションです。ここまで言われて、みんなの気持ちは現在どうなっているのでしょうか。背水の陣を敷いて全行一丸となっている!いま「みずほ」が熱い!こんな話は寡聞にして聞こえてきません。

システムの不具合はある程度どこの銀行にもあるもの。システム部門の人が足りないのでやむなし。こうなったら足らずを補いつつ日々の業務をやっていくしかない。こんな気持ちではないでしょうか。もしそうだったら間違いなく同じような問題に出くわします。

ここは是非全員が一丸となって、一日も早いシステム安定化を、目指して欲しいと思います。それこそが最短ルートの解決策だと思います。

参考HP:金融庁 みずほ銀行及びみずほフィナンシャルグループに対する行政処分について
https://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20210922.html

2021/09/29

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「アザカレ」を安定的に調達する方法

外国通貨 Other Currency

タイトルが少し判り難いので説明をします。「アザカレ」とは、米ドル・ユーロ以外の外国通貨を総称するものです。Other Currencyの略語と言えます。豪ドルや英ポンド等も含みます。今回は、この「アザカレ」調達に悩むお客様からのご相談を紹介します。

当時こちらのお客様は手工業品の輸入をされていました。目利きに優れた方だったのでサンプルを輸入されて、国内で試験的に販売した後は、継続的に輸入をして外国送金で順次決済をされていました。販売実績に見合った海外発注を心掛けておられたので、在庫が膨らんで資金繰りがショートすることはありませんでした。銀行としては安心してお付き合いが出来る方と言えます。

このお客様の悩みの一つが送金する通貨でした。殆どの場合、米ドルで二つ返事のOKが来るのですが、結構な割合で現地通貨を要求されるそうです。そんな時は、国内円預金で現地通貨を調達し送金されていました。この時の使われる換算レートがいつも変動していて、その変動幅が米ドル・ユーロより大きい気がする。何でこんなことになるのか。これがご相談の内容でした。

私がなぜそんなことを思われるのかとお尋ねしたところ、同じ品物を複数回注文して、代金をそれぞれ送金しようとすると、米ドルやユーロに比べて送金換算レートが大きく違うことがある。理由は有るのだろうけれど、これでは実務上大変困ってしまう。何とか安定的に送金できないだろうか。こんなお返事でした。

実はこのお話し中々に鋭いのです。日本では銀行が外貨建ての取引を行う場合は、ほぼ全て米ドルを基準にして行っています。つまり「アザカレ」であっても、直接日本円と「アザカレ」を交換するのでは無く、一度米ドルと交換した上で「アザカレ」と交換しているのです。(ちなみに米ドルと「アザカレ」の交換レートをクロスレートと呼びます)

つまり二重交換とも言える状況なのです。その「アザカレ」と米ドルは固定比率でもない限り、為替変動はそれぞれの通貨で発生します。ダブルで通貨変動リスクが発生するのです。お客様が適用相場の変動が大きいと感じられるのは、こんな仕組みが背景にあるからなのです。

ではこの変動をどう防ぐか。お客様の関心は正にここあったのです。ここでの最適解は、銀行としては儲けの減る話ではあるのですが、交換相場の適用回数を減らすしか有りません。具体的には、日本円から交換し始めるのでは無く、米ドルから交換を始めるのです。

これはお客様に米ドルの外貨預金を開いて頂いて、ここに米ドルをプールしておき、必要に応じて米ドルを出金して、「アザカレ」を買って頂くというやり方です。元々米ドル建ての送金が多くあるお客様でして、銀行チャージ削減の観点と、為替リスク回避の観点から、米ドルの外貨預金を活用されていました。

ですから私の提案はお客様の理解を簡単に得られ、早速外貨預金から送金され始めました。実はこの方法はドルクロスの活用と言うことなのですが、銀行にとってクロス取引の手数料は1%です。(ここはあくまでも私が勤務していた銀行の話です)このお客様の優遇は80%(つまり手数料を20%頂いてた)でしたので、1%%ですと銀行としては大減収となりました。

おそらくお客様も利益実感が相当あったと見えて、それから後は(出がらしちっく)「お茶」から(喫茶店)「珈琲」に、もてなしの内容が格上げになりました。これだけだと「何やってるんだ!」みたいな話ですが、こちらのお客様には後日談があります。

為替リスクヘッジのご相談から大きな為替予約に結びつき、銀行も大変儲けさせて頂きました。結局、「損して得取れ」の要領でしょうか。そのお話しは別の機会に譲りたいと思います。

2021/09/20

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神戸と横浜。意外な共通点?

神戸ポートタワーと横浜マリンタワー

日本を代表する港町。神戸と横浜。私は外為担当として、どちらの都市も走り回っていました。この両都市。今思っても意外に似た点があるのです。今回はそんな両都市の意外な共通点を、お話ししてみたいと思います。

1. 同じ地名がある
何よりもこれが一番目に来ます。銀行の営業担当も店を出れば街中を走り回るのですが、地名が同じだと勘違いを起こします。例えば「海岸通り」「元町」「山手」など、どちらも似たような場所にあります。似たような場所にありますので、地番を頼りに走り回っていると、神戸と横浜を混同してしまい、目出度く「大人の迷子」になってしまいます。(今ならGPS機能がサポートしてくれますが。。。)

2. 税関が身近な存在である
銀行員の宿命として、新規先を開拓し続ける必要があります。このネタ探しに毎日頭を悩ませるのですが、ここで登場するのが税関です。各税関に置かれた資料室を覗けば、今当地で旬の貿易商品は何かが直ぐ分ります。これをヒントに扱い業者にアプローチを掛けるわけです。また既存先にもここで仕入れた情報を教えてあげれば、通関業者とはひと味違ったサービスが提供でき感謝されました。

更に税関関係で分らないことがあれば、「税関相談室」という便利な部室が有り、銀行員のど素人丸出しの質問にも丁寧に説明してくれていました。東京や大阪で営業していたときは、税関は場所的に遠いので、何かあっても直ぐ税関に飛び込むわけにも行きません。両都市は税関が非常に身近でした。(物理的にも心理的にもです)これが第二点です。

3. 華僑取引が大変だった
神戸には「南京町」、横浜には「横浜中華街」という、一大華僑集団が存在しているのは皆さんもよくご存じと思います。実はこれら中華街の企業と取引をするのが大変に難しいのです。それぞれ窓口機関としては南京町商店街振興組合(神戸)、横浜中華街発展会協同組合(横浜)があるのですが、窓口を訪問して会員企業を紹介して欲しいと言っても、別に銀行のために紹介の労など取ってくれません。(当たり前ですが)

そこで個別にお店や雑居ビルに当たりを付けていきます。しかしほとんどの場合上手くいきません。上手くいかない理由は様々です。
・実権者に面談が出来ない
・会社事務所が別の所にある
・会社組織になっていても社長に利益を集中していて、会社のB/S(貸借対照表)を見てもスカスカで何も無い
・華僑系金融機関が既に取引している 等々
こんなに阻害要因があるので、中華街取引は既存先企業の紹介を貰ってアプローチする。これぐらいしか出来ませんでした。

4. よそ者に優しい
最後にこれは声を大にして言いたいのです。銀行員には転勤がつきものです。その多くは出身地以外の勤務です。いわゆるよそ者状態での仕事になるわけです。この時。よそ者扱いをされると、大変につらいものがあります。しかし、神戸も横浜もこの点では実に立派なものです。どんな人でも受け入れてくれます。その度量の広さは特筆ものです。私は秘かに幕末の開国以来の素晴らしい文化とみていました。

以上、神戸と横浜の意外な共通点についてでした。

2021/09/12

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「為替リスクヘッジ」他社の状況は?

為替がダウンするリスク

最近ある論文が目にとまり、そこに興味深い記述が有りました。今回はそのご紹介をしてみたいと思います。

貿易担当者にとって決済代金の通貨を何にするか、どのような方法で決済するかは大変悩ましいことです。もちろん輸出であれ輸入であれ100%日本円で決済できれば、このような悩みは全くないと言えます。しかし実際は、そんな奇跡的な話は存在しないと思います。

そこで決済時点で発生する為替リスクをどうするかが、この対処法が企業として必須の永続的なテーマとなってきます。我々外為担当は顧客企業からこのような相談を受けたときには、先物為替予約をメインとした幾つかの対策をお話しします。しかし正直言って先物為替予約関連以外は、銀行にメリットが余りありません。そんなことから他の対策は、教科書的な説明に止まってしまいます。

また同時によく出るのが、「他社(よそ)さんはどうでしょうか?」です。こっちとしては「他社動向は気になるのだなあ」と思いながらも、具体的な数字が手元にあるわけでも無いので、「予約する人が多いみたいです」と当たり障りのない話をします。

今回ご紹介する論文はこの漠然とした銀行員のヘボ解答に、一定の解決法を提示してくれるものといえます。

さてこの調査論文ですが、発表したのは独立法人経済産業研究所です。2017年11月現在の数字を基に2018年9月に発表されました。(但しこの論文はあくまでも執筆者の見解を示すものであり、同研究所の見解を示すものでは無いとの注が付いています。)

この論文の調査対象は日本の上場企業(製造業)から、貿易取引があると思われる1,006社にアンケートを送付し、回答を得た151社を分析したものです。(項目によって社数は減少)

まず気になる為替リスクヘッジ策で「先物為替予約」の利用状況ですが、98.2%の企業が利用していると回答しています。これはほぼ全社とも言える数字です。銀行としても顧客企業から照会があれば、まず先物為替予約をお勧めするという方法が、大筋では間違っていないと言える数字だと思います。

それ以外の方法では通貨オプションが12.6%、為替関連デリバティブが約7.2%でした。(複数採用している企業があるので総和は100%になりません)

この2者に関しては銀行も顧客企業の理解状況や社内体制を見て、お勧めするので納得感があります。その他ではマリー(自社内で外貨債権を外貨債務に充当)や、ネッティング(自社内で相殺勘定を起こす)が留意されます。
マリー・ネッティングは導入企業と非導入企業は約4:6の割合でした。

この2者は企業規模が大きいと導入メリットが上がるため、大企業の方が、多く導入しているという数字が出ています。ただ同一企業内の本支店間では企業規模を問わず、導入企業が7割を越えており、それなりの数字となっています。

以上、ほんのさわりの部分ですが為替リスクヘッジについてでした。為替リスクヘッジに妙案はありません。先物為替予約を中心にして、自社の特性に応じた策を組み合わせる。こう言った合わせ技が引き続き対策としては有効と思われます。

2021/08/26

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消えゆく「銀行の突き出し看板」

銀行の看板

皆さんが考える伝統的な銀行と言えば、「金看板を背負った商売」をしているイメージでしょうか。今回のお話しはこの「金看板」と結びつきやすかった、街中にデカデカと出ている銀行名の入った看板についてです。(これを「突き出し看板」と言います)

実は街中を歩いていると、この突き出し看板が妙に少ないのです。確かに都心のターミナルで辺りを見回しても、突き出し看板は影を潜めてしまっています。一体なぜ消えて無くなったのでしょうか?恐らく理由は以下の各点に有ると思われます。

1.そもそも銀行の営業店が少なくなってきている
諸々の理由が相まって銀行そのものの数が減ってきています。銀行が合併すると真っ先に実行されるのが、店舗統合による効率化です。「人・物・金」全てを減らせるのですから、これをやらない手は有りません。結果としてお店が無くなったところからは看板が消えてしまいます。

2.路面店(地上に接して道路に面した店)が減っている
銀行の店舗はその設置状況から、路面店舗と空中店舗に大別されます。圧倒的多数は路面店舗です。(ビルの一階などで大通りに面している)通常銀行員を含め、銀行の店舗と言えばこちらを考えます。つまり空中店舗は地方銀行の東京支店のように、近隣に営業店を置かずに単独で出店する場合のように、店頭業務を考えていない時に用いられる店舗形態です。他にはATMコーナーを一階に残して、店自体は二階以上になっている。こんな営業店も増えています。こんな時店舗改装に併せて、突き出し看板を撤去しているようです。

3.営業体制が変化して、フルブランチが無くなってきている
銀行が突き出し看板を派手に掲げる理由は、銀行に用事がある人は、すべてこの看板を目印にして欲しい。こんなメッセージを看板に込めているからです。ところが銀行の営業体制が変化してきているのです。法人の営業拠点と個人の営業拠点を全然別の場所にしたり、個人でも預金や為替を利用する顧客と、資産運用やローンの顧客を、別の場所や時間で対応する等、同一店舗内ではやらなくなっています。この結果、従前のフルブランチ(営業店に全ての銀行業務がある)は、どんどんその姿を消していっています。フルブランチでも無いのに今までの大きな看板を出していたら、違った用の顧客まで呼び込みかねません。よって看板は無しになります。

4.収益構造の変化で、預金を集める必要性が薄れてきている
これが一番の原因かもしれません。つまりこうです。嘗て銀行収益は、「貸金―預金=利鞘」に大きく依存していました。つまり沢山の預金を集めた銀行が大きく貸金を打てて、その結果として大きな収益を獲得できていたのです。この原資となる預金を預けてくれるのは主に個人の顧客でした。(法人は預けも多いのですが、貸出も当然多いのです。)個人客を呼び込むには、目立つ看板があれば便利です。そんなこんなで、駅前に看板が林立したのです。ところが低金利が続いてもう25年以上が経ちます。利鞘商売はとうの昔に成り立たなくなっています。銀行はもう預金集めはやってません。

必然的に突き出し看板も不要となってしまいました。以上、銀行の突き出し看板にまつわるお話しでした。

2021/08/19

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船積書類のスピード化を考える

コンテナ荷物を船積みする

言うまでも無く、外航貨物の主流はコンテナ輸送です。一方で船積書類は相変わらず紙ベースで動きます。

コンテナが輸出者から輸入者に渡るまでに、船積書類の方は輸出者⇒買取銀行⇒輸入者取引銀行⇒輸入者と、丁寧に受渡をされていきます。これでは貨物の動きと、船積書類の動きに差が開くのは当然です。

そこで銀行もこのギャップ解消にアレコレ考えています。究極の解決方法は船積書類の完全電子化と思いますが、今すぐ移行するわけにも行きません(つらいところです)。では銀行がどうやってスピードアップを図っているか、これを見て行きたいと思います。

銀行によっては顧客と銀行間の書類のやり取りについて、一部電子化を行っているところもあります。これですとB/L(船荷証券)とI/P(保険証券)以外は、瞬時に銀行に送り込むことが出来ます。これに船会社(通関業者経由)からのB/L、保険会社からのI/P(保険証券)が到着すれば、銀行は内容チェックしての買取が可能になります。

もし電子化されていなくても、直接顧客から外為センターのような、集中業務セクションに書類が送付出来れば、営業店を通さないので同じような効果が期待できます。実はこの方法は銀行にとっても、営業店に外為スタッフ配置せずにすみ、人員面で効率化が計れることになります。実際にこの方法を採れば、大体丸一日は短縮出来る印象でした。

次に勘定処理の短縮です。銀行は顧客から船積書類を受領して、内容を点検します。そして問題がなければ買取処理を行います。この内容点検から買取処理まで、タイミングが悪いと二日かかります。そこで内容点検を買取に必要な部分にとどめ、そのまま買取処理を行えば、勘定処理が早まります。

顧客から見れば銀行持込当日に買取して貰えるわけです。誰にでも適用出来る方法ではありませんが、与信上懸念無い外為先には、充分に対応可能でした。ここは銀行のスピードアップというよりは、顧客サービス向上が大きかった印象です。

さて買取処理が終わった船積書類を海外発送する場合に、多くの銀行では郵便局の持ち込むのでは無く、DHLやOCSのような民間宅配業者を使います。メガバンクではこの様な宅配業者が外為センターに常駐しており、専用の部屋で銀行処理済の書類を受け取り、海外発送の手続をします。銀行からの持込時限は16時頃が多かった記憶があります。

ここからの処理の速さは尋常では無く、17時頃には自社の車に載せ終わって、そのまま都内近郊のデポ(サービスセンター)に持ち込まれます。そしてその日の夜には成田空港に到着し、そのまま専用便で香港に送られていました。(香港がハブでしたので)

これが顧客持込の翌日ですから、相当のスピード感です。この方法でやれば本当の近場以外は、書類が貨物の動きに大きく遅れないですみました。その点からも銀行の外為部門が集中化されていったのが、分るような気がします。

2021/07/30

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大臣の発言を残念に思う

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このコラムで政治向きの話題をすることは無いのですが、今回は特にお許しを願って、一言書かせて頂きたいと思います。

既にメディア等で大きく報道されましたが、残念な発言が現内閣の閣僚から出ました。それは新型コロナ対策(休業要請)に応じない飲食店に対し、取引銀行からの(休業の)働きかけを要請する。と言うものです。

この発言を聞いたとき正直唖然としてしまいました。この人は「銀行の優先的地位の濫用は許されない。」と言う、銀行として最も神経を使っている点を理解した上で、「要請する」と発言しているのだろうか?理解しての発言であれば、看過出来ませんし、知らないのであれば、大臣の発言としては問題があります。

銀行が何か取引先に言えば、その影響力は大きいものです。特に融資が絡んでいる取引先には、さらに大きく影響します。借り手は圧倒的に弱い立場なのです。貸し手である銀行からある種の「要請」を受ければ、借り手としては無視できません。もし従わなければ、融資を引き上げられてしまうかもしれない。こう考えてしまいます。当たり前だと思います。

もし大臣がこの効果を期待して発言したのであれば、法規制に基づく指示命令よりたちが悪いと言えます。この発言に至った経緯は明らかではありませんが、この発言そのものが突然の思いつきであったとは思えません。事前に周囲の人との間で話が有った筈です。

であれば、要請は「優先的地位の濫用」に結びつきかねない。こう気づくブレーンはいなかったのでしょうか。或いは銀行への要請であれば、事前に全銀協(全国銀行協会)に、コンタクトしてみよう。の一言は無かったのでしょうか。

その何れも無かったのであれば、大変残念なことです。長年銀行にお世話になってきた者としては特にそう思います。1997〜1998のジャパンプレミアムが発生した頃、短期市場で金利を上乗せしても、米ドルが調達不可能な事がありました。米ドルが調達できなければ、海外銀行と決済が出来ません。いわゆる資金ショートと呼ばれる状態です。

そんな時、銀行の窮状を見かねて、数億ドル単位の外貨預金を預けてくれた融資取引先がありました。この一報が入ってきた時に、思わず各店の外為担当者は、これで外貨決済が出来ると、本当に喜んだものでした。(当時大口の輸入決済は、本部が直ぐに決済させてくれなかったのです。)

そんな過去もありますから、融資先に対しては慎重な発言・対応をしていました。今回のこの発言。これらの経緯が無視されたようで残念さがひとしおです。幸い発言は翌日撤回されましたし、発言趣旨のご説明もありました。

大臣は2009年には自民党総裁選挙にも出馬され、その知見・見識は折り紙付きと考えています。引き続きの陣頭指揮を大いに期待したいところです。

2021/07/19

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3メガバンクの取締役構成を見て

銀行の看板

日本を代表する3メガバンクは、何れも毎年3月が決算月です。そして3ヶ月後の6月は、各行共に株主総会の月となります。日本企業はこの株主総会を持って取締役が交代する事が多く、今年も3行共にその例にもれません。

今回は新しい3メガバンク取締役の顔ぶれを見て、そこから各銀行の行風を見てみたいと思います。(なおここではそれぞれ持株会社を見ることにします。三菱UFJ銀行は三菱UFJファイナンシャルグループ、三井住友銀行は三井住友ファイナンシャルグループ、みずほ銀行はみずほファイナンシャルグループとなります。)

では早速始めます。一番目は三菱UFJ銀行です。三菱UFJ銀行が現在の形となったのは2006年1月なので、今年で15年目となります。流石にこの時間経過では三菱UFJ銀行になってからの、プロパー行員はまだ取締役にはなっていないようです。実際に業務執行担当としての取締役は5人なのですが、全員旧銀行の出身者の方のようです。

さてその出身行ですが5人の内4人が三菱銀行、1人が三菱信託銀行となっています。東京銀行出身者がいないのはある程度想像できましたが、UFJ銀行出身者(三和銀行・東海銀行)が1人もいないのはビックリです。この銀行の主導権は、今やはっきりと三菱銀行でしょうか。とすると取引は「組織の三菱・人の三井」で謳われるように、何時でもどこでも組織的な対応をしてくれる、伝統的な三菱流が主流となっていくはずです。

これは聞いた話なのですが三菱UFJ銀行と取引すると、転勤などで担当者が代わっても、次の人が同じように接してくれるので、安心して取引出来る。(担当者が没個性という意味ではありません)こう断言できるそうです。

二番目は三井住友銀行です。こちらは現在の姿となったのは、2001年4月なので20年が経過したことになります。ひょっとしたらと思ったのですが、やはり業務執行担当役員全員が、住友銀行の出身でした。(全部で8人です)これも有る意味すごい話です。ご承知のようにこの銀行が発足したときには、三井財閥と住友財閥の合併と大きな話題となりました。

しかし20年経った現在では完全に住友主導となったと言えます。となると行風は住友色が濃くなってくるはずなので、個人の力が大きく影響してきます。ここに人の三井も少し影響してくるかもしれません。住友色に関しては好みの分かれるところで、はっきりした個性的な取引を望むのなら、この銀行が一番だと思います。

最後はみずほ銀行です。同行は2000年9月に3(第一勧銀、富士、興銀)で、持ち株会社を作りそれぞれがその傘下に入り、2002年4月にみずほ銀行とみずほコーポレート銀行になりました。さらに時が下って2013年7月に上記二行が一緒になって、現在のみずほ銀行が出来上がりました。

さて取締役の構成ですが、実は開示資料ではこれがよく分りません。他の二行は堂々と開示しています。調べるのは簡単でした。しかし、みずほ銀行は開示していないのでよく分らないのです。一応分る範囲で調べたところ業務執行担当5名の内、興銀出身が2名、第一勧銀出身が1名でした。残りは分りませんでした。しかしファイナンシャルグループ傘下のみずほ銀行の新頭取は、富士銀行出身らしいので、「たすき掛け」の色は残っているようです。となると行風は断言できません。今後の様子見が基本となります。

以上取締役の出身行という点からだけですが、各行の実態を垣間見てみました。

2021/07/07

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過労死レベルの残業、銀行・外為では?

過酷な残業による過労死

一般的に過労死レベルの残業とは、80時間/月と言われています。週休二日制であれば土日はしっかりと休んだ上で、残りの5日間一日当たり4時間の残業をすると、このラインに到達することになります。

銀行は労働集約型産業の典型みたいな印象がありますが、確かに過去はその事実は厳然としてありました。振り返ると一番労働集約していたのが、バブル景気の時代でした。今回はこの時の勤務状況を見てみたいと思います。ちなみに今は流石にこんな事はありません。あくまでも過去のお話です。

当時の就業規則で定められていた就業時間は、開始が8時40分(8時50分の時期もありました)で、終了が17時でした。(24時間制で書いています)昼食休憩が1時間とすれば、実働は7時間チョットになります。残業はこの時間帯を越えて就業する事で発生するのですが、ここで注意点が一つ有ります。

時間外勤務=残業とすると、残業=終業後と思い込みがちです。しかし始業時刻以前にも時間外はあり得ます。現に当時は鍵番と呼ばれる担当者が銀行の通用門を解錠し、機械警備を解除して入店し、金庫のダイヤル解錠も行っていました。これを始業時間にやっていたのでは、到底開店時間に間に合いません。

私も「出納元方」を担当していた時期は手の遅さもあって、金庫から現金を出しての預払機への詰め。大口出金の事前取り置き。各担当者への手元現金の配分。前日作成の現金資金繰り表による現金センターとのやり取り。これらを行うのに正味1時間は必要でした。ちなみに「出納元方」は「すいとうもとかた」と読みます。店の金庫番です。

外為担当となっても開店と同時に店頭に来られるお客様も多々あり、準備しながら顧客対応をするわけにも行きません。つまりどのポジションであっても1時間ぐらいの早出はあり得ました。つまり既にお話した4時間の内業務終了後に回せる時間は、いいとこ3時間となるわけです。3時間となると17時終業から数えて、20時がその時間となります。この時間皆さんどう思われますか。

当時の自分を振り返ってみると随分早い時間だな、という印象です。当時帰店が18時頃でしたのでそこから1時間程度は、持ち帰り物件の整理をしていました。そして机の上に残されているメモ。これに基づき本部照会に回答したり、顧客問い合わせに対応していれば、更に1時間ぐらいはあっという間に経ってしまいます。

そこから会議や打合せがあると、もうそれだけでゲームオーバーです。しかしそこで「お先に失礼します!」とは行きません。稟議や顧客プレゼン書類の作成、そして上席へ当日報告があります。最も忙しかった時期にはとにかく深夜残業の手前で打ち切り!!

これが営業担当全員の合い言葉になっていました。当時の記憶がおぼろげなのですがこの時間が22時だとすると、17時からの残業は5時間。朝1時間と併せて6時間/日となります。これに20労働日を掛けると120時間/月。なんともすごい数字です。

今は朝も夜も残業は思いっきり短くなっているようなので、この数字はあり得ないと思いますが、当時の感覚では土日が完全に休めるのなら特に問題なし。こう考えてました。流石に土日出勤は頭に来てましたが。
やはりこのような問題には時代の流れが大きく影響するようです。過労死レベルの残業についてでした。

2021/06/27

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銀行に「あいみつ」作戦は有効か

見積書

皆さんは「あいみつ」という言葉をご存じでしょうか。「あいみつ」とは「相見積もり」の略称です。商品売買や役務の提供・享受など多くの場面で使われています。一定の条件の下で最も自分にとって有利な相手と取引する。そんな時に最適な交渉方法と言えます。

その特徴は、複数の相手に同条件で見積して貰うことにあります。その見積を比較して、自社に最も有利な相手と取引します。これが「あいみつ」の大まかな説明ですが、問題はこのやり方が銀行取引で使えるのか。使えたとしてその効果は如何ほどのものか。この辺が皆さんの関心事になると思います。そこで今回はこの点について考えてみたいと思います。

実は銀行との接点が余りない方は、「あいみつ」作戦は無理では。そもそも銀行との条件交渉は殆ど不可能ではないか。こう考えておられると思います。しかし銀行取引には、交渉の余地がある場面が多々あります。勿論箸にも棒にもかからない対応をされる場合もあるのですが、銀行がこちらのことを取引先と認識するようであれば、個別交渉の余地は大いにあります。

外為の場合は交渉の俎上に上がるのは、金利・手数料・為替売買益の大きく分けて三つのカテゴリーです。金利は主に輸出入為替の割引利息が該当するのですが、国内金利が超低金利のまま推移している現在では、金利選好の強いお客様は割引に回さずに取立扱いとして、その間の資金は別途調達していますので、銀行との交渉にはなりません。

次に手数料ですが、郵便電信料のように実費相当分のものや、信用状の通知手数料のように銀行に取って、それ以外に収益機会が無い場合などの場合は、条件交渉向きでないため、「あいみつ」を取っても上手くいかないようです。

最後の為替売買益ですが、これは大いに交渉の余地はあります。それは為替売買益は銀行サイドの取り分が多い点と、ボリュームを確保出来れば実収益が確保出来るからです。

まず銀行取り分ですがよく知られているように、USDでは売買でそれぞれ1円の利鞘が銀行にはあります。つまりUSD10千なら一万円。USD1百万なら百万円の収益になります。またボリューム確保の点では、年間USD5百万の外為が確保出来れば、年間収益は5百万円となります。

このように為替売買益(為替手数料とも言います)は、銀行にとって有難い収益減のため、まず銀行からサービスしましょうとは言ってきません。そこで「あいみつ」を取る際にいくら優遇してくれるのかを、各銀行に出して貰うのです。

銀行の立場からすればどうしても取引したければ、相当思い切った数字をぶつけてくるはずです。例えば私は80%優遇を最初に出して、それ以上も含みを持たせました。80%はかなりの好条件ですが、他行も同条件提示の可能性が有り、含みを持たせることにより他行との差別化を図ったのです。

なお「あいみつ」を取ったときに、単純に最も好条件の銀行と、取引するのも良いと思いますが、逆に取引したい銀行に、
その好条件をぶつけて譲歩を迫るというのも、銀行としては大変に手強く感じる交渉術で有り、ここぞと言うときに用いるというのは大変に効果的と言えます。

2021/06/20

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銀行にとっての「シーウェイビル」と「サレンダードB/L」

海上輸送中のコンテナ船

お馴染みのAIBA論壇ですが、今回も興味深い議論がされてました。「シーウェイビル」と「サレンダードB/L」が俎上に上がっていたのです。

この「シーウェイビル」と「サレンダードB/L」はいずれも、海上貨物運送に用いられる輸送状とも言うべきものですが、両者の性質の違いから、銀行はその扱いに悩まされる部分があります。今回はその辺の機微についてお話ししたいと思います。

まず「シーウェイビル」ですが勿論日本語由来では無く、「Sea Waybill」と綴り「海上運送状」と訳される英語由来のものです。意味するところは「流通性の無い海上運送書類」という具合になります。銀行が取扱根拠としてるのは信用状統一規則(UCP600)の第21条以下の条項となります。銀行としては保全確保の見地からB/L(船荷証券)が望ましいのですが、航空貨物では「Air Waybill」が圧倒的な地位を占めており、その影響も有り「Sea Waybill」は、 採りあげ容易となっています。

またいわゆる船荷証券の危機を考えた場合、銀行としては明確な根拠が無い「サレンダードB/L」を常用して欲しくない。このような思いもあり買取依頼者の信用性に重きを置く、信用状無し取引ではその姿を見る事が多いといえます。但し銀行としては「Sea Waybill」は発行後であっても、「コンサイニー」(受取人名)を含めて変更が可能な点が悩ましく、B/Lの全面的肩代わりを推進するまでの意思がないのが実情です。

一方「サレンダードB/L」は Surrendered B/Lと綴ります。日本語では元地回収B/Lと呼んでます。意味するところは、本来輸入者に送るべきB/Lを、元地(すなわち輸出地)で船会社が回収してしまった。そしてそのことをB/Lに「Surrendered(回収済)」と表示した。更にコピーとして当該サレンダードB/L を輸出者に手交した。これが一連の流れとなります。
 
この「サレンダードB/L」は実務上の要請から生み出されたものであり、実際に目にするようになったのは、ここ20~30年位です。出始めた頃はその根拠が分らず、本部に問い合わせても判然としない、よって手探り状態で書類を受付して海外へ発送していました。しかし作成根拠こそ不明でしたが、外見も記載内容もB/Lそのものです。(当たり前ですが)よって買取依頼人に問題がなければ、そのまま買取に応じていました。

また信用状付き買取であれば、L/C本文の中にSurrendered B/L acceptableとあれば、無条件でスルーさせていました。これはサレンダードB/Lでも、L/C条件でそれを認めるのであれば、発行銀行の支払の確約は存在し、輸出債権は確保されている。こう言った判断を優先させたからです。

結局の所、銀行での両者の取扱はどちらかに収斂するのではなく、限りなく今の状態が継続すると思います。もし決着が付くとしたら、それは劇的な変化の結果でしょう。それが船積書類の完全電子化なのか、貿易決済における銀行の役割終了かは分りませんが、
そんなときが来るまでは、銀行は今のような対応を続けるのだと思います。

参考記事:JETRO サレンダードB/Lと海上運送状(Sea Waybill)の違い
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04C-070301.html

2021/06/13

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「英文字」の聞きまちがえを防ぐ

フォネティックコード

今回のお題は「英文字」聞きまちがえの防ぎ方です。「英語」の聞き間違えの防ぎ方。ではありません。ややこしいですが。これどういうことかと言えば、文字の羅列(意味の有無は不問)を音声で相手に伝えたい時に、確実に伝えるにはどうやれば良いかについてです。

一番良いのは文字そのものを相手に見せることですが、それが出来ない場合も多々あります。一例を挙げて見ます。「PMS」(ぴー・えむ・えす)と言う3文字を、口頭で相手に伝えようとします。この時、話者がどんなに大きな声や、一文字ずつ区切って発音しても、「P」が「T」に聞こえたり、「M」が「N」、「S」が「F」に聞こえる場合があります。これは話者の滑舌や、その場の騒音状況、聞き手の思い込みなどが誤伝の原因と考えられます。

しかし原因が何であれ、間違って伝わってしまうのでは困ります。L/C(信用状)やB/L(船荷証券)番号が間違って伝わることを、想像して頂ければ、正しく伝える重要性がおわかり頂けると思います。そこで外為現場では正しく伝えるために、言い換えを用いてました。この言い換えのことを「フォネティックコード」と言います。日本語では「通話表」と呼んでいるようです。(今回初めて知りました)

この「フォネティックコード」を使うと、相手にかなり正確に伝わります。前述の「PMS」の場合は、「ペキンのP、メキシコのM、スペインのS」と、主に国名・都市名を用いて表現していました。実際に使っていた感想では日本国内は勿論ですが、海外とのやり取りでも、今からスペルアウトすると言った上で、フォネティックコードを使えば、回線状況が悪くても何とかなっていました。

面白いのはそこで出てくる国名や都市名です。欧米系の銀行が相手ですと圧倒的に欧米の地名・都市名が良く、アジア系の銀行では、日本の地名でも非常に良く通じました。そしてどちらの場合でも「Y」は「ヨコハマ」の一択でした。こんなことからも港ヨコハマの知名度は高いんだ。こう思いました。

ちなみに今改めて各種のフォネティックコードを見てみると、英文字の表現は様々で有り、自分たちが使っていたのは、限りなく我流仕様だったんだなーと、やや赤面するものがあります。ちなみに当時は得意げに使っていました。

ここまでお話ししていると、和文の場合が気になってきました。じつは和文を言い換える場合には、総務省令に定めがあります。(総務省令無線局運用規則別表第5表)中を見てみると大変懐かしい気持ちに襲われました。遙か昔学生の頃、郵便局でアルバイトをしていました。担当は郵便窓口で書留や速達・小包等の受付・発送をしていました。

この郵便窓口では電報も受け付けたのです。受け付けるために、お客様に電文内容を頼信紙に書いて貰いました。そしてその頼信紙を手に、電報センターに発電依頼をかけます。そのときまさしくこの通話表通りに言い換えていたのです。「金頼む」だと「為替のカ、鼠のネ、煙草のタ、野原のノ、無線のム」と、言い換えながらセンターに電文を依頼していました。

今回、このコラムを書いていてこの二つが結びつきました。何とも言えない妙な気分です。こんなこともあるのですね。ではまた。

参考サイト: 通話表(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E8%A9%B1%E8%A1%A8

2021/06/09

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銀証連携が進めば

銀証連携とは銀行と証券会社の連携のこと

今回は「銀証連携」と呼ばれるものについて考えます。この「銀証連携」ですが、「ぎんしょうれんけい」と読みます。意味するところは、文字通り銀行と証券会社(以下証券と略)が、連携して効果的な商売をしていこう。こんな意味合いです。

「顧客紹介」、「共同店舗の運営」、「金融商品の共同開発」などが、銀証連携の具体例に良く挙げられます。どの施策も銀行単体・証券単体でやるよりお互いに連携してやった方が、人・物・金すべての面で上手く行く。このような経験知を基にしています。一方、日本には「銀証の壁」(ファイヤーウオール)も存在しています。このファイヤーウオール規制と言う言葉を、皆さんも一度は耳にしたことがあると思います。

これは今から約30年前の1993年に設けられた規制で、銀行が証券子会社を持って証券業務を行う場合に、銀行の顧客情報を勝手に証券子会社に使わせてはならない。必ず顧客の同意を要する。こう言った規制です。確かに当時は銀行の優先的地位が現在よりも明確で、銀書連携には専業の証券会社から大きな反発が出たのも事実です。しかし今やこの壁の存在は、時代遅れとなっています。(私の意見です)

そこで2020年の7月に閣議決定された政府の成長戦略フォローアップには、「国内顧客を含めたファイヤーウオール規制の必要についても、公正な競争環境に留意しつつ検討する。」と明言されました。つまり銀証連携の障害となるファイヤーウオール規制は、今後更なる緩和や撤廃が見えてきたと言うことです。

ところでこの銀証連携の利用者側にとってのメリットは何でしょうか。やはり大きな所では、従来からの商売では銀行は銀行の守備範囲、証券は証券の守備範囲でしか何も出来ませんでした。つまり企業の資金調達や資金運用、個人の資産形成などで、利用者には限られた選択肢しかなかったのです。

しかし銀証連携が進むと複合的な提案が可能になります。銀行、証券、顧客すべてが最大メリットを追求できるようになるわけです。今までの銀行・証券別建てに比べて、大きく前進することが想像できます。

既にネット専業銀行では先行しています。楽天銀行と楽天証券、SBI証券と住信SBIネット銀行の組み合わせは、利用者から見て全く銀証の障壁を感じさせません。翻ってメガバンクでも三井住友銀行とSMBC日興証券、三菱UFJ銀行と三菱UFJモルガンスタンレー証券が、一歩先んじているような印象を受けます。

特に三井住友グループは都心の大型店では銀行店舗と証券店舗が同一フロアに入居しており、受付も実質一体となっています。利用者感覚では銀証同一店舗です。また双方に口座を開設していれば、資金移動は即時に行えるため、いちいち実店舗に行く必要もありません。

今後銀証連携が進めば、更に実店舗の必要性は低下するのでは?こんな感想をも持ってしまいます。今回は銀証連携についてお話ししました。

2021/06/02

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人の壁とエコー作戦

クレーマーの対応

今回は銀行のトラブル・防犯対策を見てみます。今から思えば銀行員生活の日々は、トラブル・防犯との日々でした。人間はお金が絡むと簡単にトラブル・事件になる。これは身に染みました。

出来ればトラブルや事件は起こしたくは有りません。今回はこの気持ちをお伝えすべく、お話を進めていきたいと思います。最初は人の壁についてのお話です。

○○の壁というと某国前大統領を思い出します。ホント。しかしこのお話は前大統領とは全く関係ありません。トラブル回避対策で銀行が良くやる対策です。クレーマーの決まり文句に「責任者を出せ!」があります。要するにお前ら下っ端に話をしても、何のたしにもならない。責任者と話をして、キチンと対応して貰う。こんな意図だと思います。

ここで窮地に陥った担当者をサポートするのが、責任者と呼ばれる管理職です。大抵のトラブルはこの二人(稀に三人)で解決させてしまいます。つまりクレームに対して人の壁を二重(or三重)で対処するわけです。そして極々稀にですが、更に上位者の出馬を仰ぐ場合があります。これは銀行に元々落ち度があり、初期対応も間違えてしまった場合です。

こうなるとお客様は頭から湯気状態です。(こちらも当初のクレーマー扱いは吹っ飛んでます)こうした非常事態への対応として、更にもう一つ人の壁を重ねるのです。この一連の対応を人の壁を作ると言っていました。あくまでも冷静な人を増やすことで、問題解決させるのが狙いでした。

次はエコー作戦です。このやり方は他業態でも行われています。その狙いは不審者に対する犯罪抑止効果です。銀行の店の中に入ると、中に居る行員やロビー係から声が掛ります。「いらしゃいませ」がほぼ鉄板かと思います。これは勿論お客様の来店を歓迎する意味も有りますが、来店目的へのスムーズな誘導の意味もあります。そして何より重要なのが、万一不審者が店内に入っても、声を掛けることによって、その存在を認識したとの明確なシグナルを、その不審者に送る効果があることです。

そしてこの声掛けは、複数人で行うのが望ましいとされていました。つまり店内に入るといろんな方角から「貴方を認識した」との声が、掛かることにより、不審者にその気をなくさせようというわけです。

この声掛け。山彦のように響くことから、エコー作戦と呼んでいました。ここで大事なのが、単に声掛けに終わっては駄目なのです。ロビー担当者の歩み寄りや、窓口担当者の目線合わせ、このような合わせ技も駆使して、防犯対策を完璧にする。このような指導も併せて行われていました。

如何でしたか、この二つのお話。もし皆さんも使えるようでしたら、是非一度試みて下さい。意外にお役に立つと思います。

2021/05/24

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突然。「TREASURY CHECK」が来た!

米国財務省小切手

先月頃から突然シニアに向けて、英語の封書が到着しています。開封しても説明文も何も無し。英文小切手が入っているだけ。(「TREASURY CHECK」は米国財務省小切手のことです)今回はこんなちょっと「ビックリ」するお話しです。

実はこの封書、シニアであれば誰にでも来るのではありません。米国での勤務経験がある、米国政府の年金受給者宛なのです。金額はUSD1,400.00(約15万円強)。結構な金額です。思わずガッツポーズが出そうになります。しかし残念ながら折角受け取っても、殆どの方は受給対象外となります。

そもそもこれは何のお金なのか?実はこのお金はバイデン政権の政策に基づく交付金です。米国財務省発行の新型コロナウイルス対策の給付小切手(Economic Impact Payment)と呼ばれています。1人当たり最大USD1,400.00支給されるものです。ではなぜ日本に送られて来るのか?

どうやら年金受給者であれば米国内外を問わずに、登録住所に送っているようです。(海外にも米国市民はいますので)なので折角の小切手ですが、受け取れる人は限られています。もし自分が受給対象者であれば、すぐに換金手続きを取りましょう。

ただ日本の銀行は、原則として海外小切手の取扱を停止していますので、個別に取り扱うようにネゴする必要があります。取扱可能な銀行としてSMBC信託銀行(下記Url参照)があります。

一方、自分が受給対象外であれば小切手の有効期間は1年なので、何もせず放置しておくのも一つの手です。放置するのが嫌ならば、小切手券面にVOID表示(無効表示)の上、(米国)内国歳入庁(IRS)に返送する必要があります。若干とはいえ郵送料が発生するのが業腹ですが。。。

これからも年金を貰い続けるため已む無しでしょうね。ここまで書いていて日本の「特別定額給付金」(去年の10万円)は、どうなっていたのか気になったので調べてみました。当時の報道を見ますと、海外在住の日本人は対象外のようです。その後支給を検討するにステータスが変わったようですが、それ以降のことはよく分りませんでした。

その代わりに昨年12月3次補正予算で91億円を捻出し、各日本人会で役立て貰う。こう言う記事を見つけました。建て付けが変わったようです。

参考サイト
米国大使館:
新型コロナウイルス対策給付金小切手
https://jp.usembassy.gov/ja/services-ja/eip_checks_ja/

SMBC信託銀行プレスティア:
米国財務省発行の新型コロナウイルス対策の給付小切手(Economic Impact Payment)のお持込みをご検討のお客さまへ
https://www.smbctb.co.jp/contacts/us_treasury/index.html

2021/05/20

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銀行のセールス攻撃を考える

銀行の投資信託商品

銀行取引をしていると、頻繁にセールス攻撃に遭うことがあります。これが正直なところ「うっとうしい」です。しかも「しつこい」です。ホント。

これが嫌でネット銀行としか取引しない。こんな人もいます。ただ対面式の銀行では、こちらの意向をくみ取ってきめ細かく、
サービスしてくれる場合もありますので、無闇に切るわけにも行きません。そんなこんなで対面式の銀行取引は残したい。しかしセールス攻撃は勘弁して欲しい。こんな二律背反のような状態を解消する方策はあるのか。これが今回のテーマとなります。

具体的な対応策の前に、なぜ銀行はセールス攻撃を仕掛けてくるか。これを考えてみたいと思います。銀行は高い公共性を持つ組織です。とはいえ民間企業でもあります。利潤を上げなければ行員を養えませんし、株主に配当も出せません。そこで利益のために、いろいろな商品をセールスしてくるわけです。

伝統的な銀行業務では、預金を集めてそのお金で融資をすれば、預貸の利鞘で十分な収益を確保出来ました。しかしここまで低金利が続くと、この方法は最早使えません。そこで別の方法を採ったのです。

例えば投資信託販売を見てみます。投資信託は皆さんに購入して貰うと銀行に手数料が入ります。この手数料が銀行収益なのです。販売額の3%貰えるものもあります。これだと10百万円販売すれば、300千円!が入る計算になります。実はこんな銀行の思いが、セールス攻撃となって現れて来るのです。

ではこれにどう対抗していくか?方法は以下の通りです。

1. セールス商品に興味なし。断りたい。
セールスを受けたときの気持ちは、このパターンが一番多いと思います。しかし対応が難しいのもこのパターンです。しかこの場合、一番はあっさりと断ってしまう事です。これで一向に構いません。別に後に影響は出ません。せいぜい当日の面談記録に「セールス不調」こう書かれる位です。

それでも心配ならば、銀行からの話しかけには返事をせずに、ひたすら「ウーン」とか「そうでしょうけどもねー」といった、曖昧語をつぶやくのが良いと思います。そして適当なときに「生憎と次の予定がありますので失礼します」これで締めれば、それ以上の深追いはしてきません。

2.興味はあるが決めかねる場合
ポーズで良いので聞く振りを。そうすれば担当者は熱弁を振るいます。しかし結果として話が長くなりがちなので、話のイニシアチブを渡さないためにも、「デメリットは何か?」とか、「リスク(この場合は危険の意味)や不利益はあるのか?」を聞いて下さい。このフレーズは相手の話に大きくブレーキを掛けられます。お勧めです。そして即断即決はせずに、持ち帰り検討すると言い込むようにします。

3.興味はあるし、決めても良いと思っている。
相手のペースでも構いませんが、前記2のような質問は必要です。そしてその場では手続きせずに「検討します」とか、もう少し気持ちを込めるなら「前向きに検討します」と言って下さい。

以上、場合に分けてお話ししました。最後に強調しておきたいのは何れのパターンでも、銀行のペースで話が進むと、後で問題が発生したときに、解決に難儀する場合があります。出来ればすべての場合で、一旦検討のため持ち帰りを原則とする、これで丁度いいと思います。

2021/05/11

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銀行からのDM。封筒に押されたハンコの意味

DM ダイレクトメール

昔に比べて郵送されるDM(ダイレクトメール)は激減しています。しかし未だに銀行からはDMが届くことがあります。しかもご丁寧に「親展」表示付きも珍しくありません。「親展」とは何事だと、慌てて開封される方も多いと思います。

しかしこの手のDMには、共通したある特徴があります。それは封筒にある印鑑の存在です。しかもご丁寧に二カ所も。場所は銀行支店名の後ろと、封筒の封緘部の場合が殆どです。これは何を意味するのでしょうか。気になると妙に気になります。

現金封筒なら割印(署名でも可)が必要なのは分るのですが、普通郵便ならば印鑑不要です。二カ所も押す必要なんかありません。しかも押されている封筒を開けてみても、担当者交代の挨拶とか、資産運用セミナーのお誘いとかです。これで「親展」扱い。ン!?本当にそう思います。さらに不可解なのは二カ所の印鑑。

気にしなければそれまでですが、なぜなんだろうと気になります。実はこの印鑑、受取人の為に押されているのではありません。銀行が自分たちの身を守るために押しているのです。なぜでしょうか。大いに気になりませんか?この疑問解く鍵は発信元にあります。

この手の封書に共通する特徴は、発信元が営業店なのです。つまり本部からやセンターからのように大量発送する場所からではなく、一通毎に手作業で出された封筒達なのです。本部やセンターで有れば、圧着ハガキや窓付き封筒での対応でしょうが、営業店であればこの部分は手作業にならざるを得ません。

手作業になった場合に、銀行が最も嫌がるのは個人情報の漏えいです。要は封筒の宛名と中身が違っていた場合です。こんな封書を受取人が開けてしまえば、それで一件事務事故発生です。銀行の一方的ミスで、個人情報が第三者に漏れるわけです。言い訳なんか出来ません。これは最も避けるべき事態なのです。それへの防止策が二カ所の印鑑なのです。

具体的には、まず封筒と中身をセットした人間が印鑑を押します。次に精査を頼まれた別人が、中身と封筒の宛名の一致を確認して、中身を封入してのり付けします。この時自分の印鑑を押すのです。これで誰と誰が当事者なのか明確になるわけです。何ともモヤモヤしたシステムですが、相互牽制を効かすことにより、事務事故を未然に防止するためで仕方有りません。

外為の場合更に厄介で英文表示が表に出てくるので、英語と日本語の一致を確認する作業が加わります。他課の人に精査を頼むと間違えやすいので、今一つ評判が良くありませんでした。そんな封書ですが現在でも一定数が届くので、「銀行の現場では相変わらずなんだなー」とつぶやくこの頃です。

2021/04/24

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貨物が来たのに輸入書類はまだ!解決策は?

輸入貨物のサンプルワイン

初めての輸入商談で、正式契約前に先ずはサンプルを輸入する。これ良くある話だと思います。この場合決裁は送金でしょう。多分。

しかしごく稀に、ドキュメンタリーベースの決裁になる事があります。つまり海外の輸出業者が、船積書類一式をこちらに送りつけて、書類と引替に何らかの形で資金を回収しようとするのです。この場合問題となるのが、相手業者がこちらの意向とは無関係に、荷受人(Consignee)を(勝手に!)銀行としてくる場合です。

L/C(信用状)取引ではL/C条件がそうであれば問題なしですが、L/C無しの取引ではこの状態は大変に困ってしまいます。ではなぜこの取引が大変に困るのか。

この点を解決法にも触れながら、お話ししたいと思います。銀行が困ってしまう理由。

その1 海外の銀行からの指図が不明
例えばD/P(支払渡し)なのかD/A(引受渡し)なのかも分らない。特別な条件があるのかも分らない。指示がなければ動きようがない。この状態は非常に困ってしまいます。

その2 船積書類が本当に到着するのか不明
相手が銀行経由で送ったと言っても、来ないと本当かどうか分りません。もっと言えば、そもそも銀行に持ち込んだかどうかも分りません。銀行を通さずに日本に送ってくる場合だってあり得ます。(ビックリする話ですが、長く外為をやっていると一度は経験します。)

その3 他人の物を引渡す指図なんか本来出来るわけない
L/C(信用状取引)なら銀行は支払の約束をしてますので、到着した貨物の荷受人が銀行なら、銀行の所有権を主張できます。しかしL/C無しでは、銀行はそんな約束を誰にもしてません。しかし到着した貨物をB/Lなしに引き取るためには、船便であればL/G(輸入貨物引取保証)が必要ですし、航空便であればRelease Order(貨物引渡指図書)が必要となります。

何れも荷受人(Consignee)が銀行の場合や、荷受人がTo orderで銀行に送られる予定であれば、銀行発行のものが必要になってきます。そこで銀行に発行してくれと頼むことになるのですが、銀行としては船積書類が手元に無い状態で、はいそうですかと、簡単には引き受けられません。貨物の所有権は未だ海外の銀行か輸出業者にありますので、素直に応じるわけにはいかないのです。早い話。他人の貨物を第三者に引き渡す指図書なぞ作れない。こういうことになります。

そこでこんな四面楚歌の状態から脱出する手立てですが、一にも二にも銀行の協力が必要となります。そのため輸入者は次の二点を早急に打つ必要があります。

一点目
海外銀行から取引銀行に大至急指図を送ってもらう。これは輸出業者に頼んで海外銀行に動いて貰います。貨物は到着してますので、大々至急ぐらいの対応が必須です。

二点目
輸入決済に見合う金額を預金する。銀行としては異例な取扱であってもその必要性に納得し、具体的な手続面での問題が無ければ、後は決済資金の問題だけです。なので決済資金を予め用意しておき、銀行を安心させるのです。ここまで段取りすれば銀行の方で内部決裁を取って、発行に応じてくれると思います。

ただし事前に銀行と外為の取引してない場合は、時間的にこの話は無理です。この点はよく気をつけるようにしてください。

2021/04/15

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銀行は文書照会にどう対応しているのか?

国税局

銀行は個人法人問わず、膨大な取引データを持っています。通常このデータは、本人の了解無しでは一切他人には開示しません。よく耳にするのが、預金者が死亡したり判断能力が衰えたりで、家族が銀行に取引の有無などを、照会しても何も答えて貰えない。

こういった事態です。とりつく島もない状態に追い込まれます。本当にお気の毒と思いますが、これはご本人の承諾なしに、情報を開示することに対して、銀行は権限がないのです。しかし何事にも例外はあるもので、銀行はある条件下では、照会に対して回答をすることがあります。今回はこちらをご紹介してみたいと思います。

1.税務署から聞かれた時
皆さんにも大変関心のあることと思います。税務署は納税申告(所得税・法人税・相続税等)に関連して、当該納税者の資産状況調査の照会を銀行に掛けてきます。主に文書の照会なのですが、結構これが神経を使う物でした。文書には通常、根拠条文として国税通則法の関連条項が記載されています。これがいわゆる「質問検査権」です。この権限は強制では無く、あくまでも任意なのですが、いい加減な回答をすると罰則が適用されるので、銀行としては丁寧な対応を心掛けていました。

ちなみに罰則の内容は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。そのような経緯があるので、皆さんの所に税務調査が入って、銀行取引について質問があった場合は、既に銀行情報は持っているという前提で対応することをお勧めします。

2.警察署から聞かれた時
警察からの照会は、犯罪捜査に関連してのものです。「捜査関係事項照会」という名称で文書が送られてきます。これは税務署の照会とは異なり、回答義務が銀行には有ると考えられています。但し罰則はありません。これが送られてきた時は、銀行は一件ごとに案件ファイルを作成します。(ちなみに税務署からのものは、日付順にまとめていました。)

通常は、紹介書の到着時と回答書の提出時に、本部に報告していました。警察からの照会は税務調査に比べると件数が少ないので、実際に照会書が届くと、大変な騒ぎになり鳩首協議を良くやりました。

3.弁護士会から聞かれた時
実は上記照会と良く似たものに、通称「弁護士照会」があります。これは弁護士会名義で、銀行にくるものです。(弁護士会とは弁護士の団体です。ここに所属しないと弁護士活動が出来ない仕組みになっています。)照会内容は税務署や警察署とよく似ています。

しかし銀行の対応は異なっており、前二者に回答拒否はありませんでしたが、「弁護士会照会」に対しては、個人情報保護の原則を全面に出して、回答を保留して照会書を返却することもありました。現在では最高裁判所の判例も有り一部の弁護士会とですが、本照会に対し全店照会を含め回答をする旨の協定を結んでいます。その限りに於いて前二者と同様に回答がなされています。

以上が銀行照会に対する簡単な説明です。上記三点の照会はそれらがあったとの通知は、どこからも皆さんに行きませんので、それぞれの機関から問い合わせがあった場合は、既に銀行の調査は済んでいる。この前提で対応されることをお勧め致します。

参考サイト:

税務署関連
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/02.pdf

警察署関連
捜査関係事項照会書の適正な運用について
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/310327-20.pdf

弁護士会関連
日本弁護士連合会:弁護士会から照会を受けた皆さまへ
https://www.nichibenren.or.jp/activity/improvement/shokai/what.html

2021/04/08

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銀行のOB会はどんなとこ?

銀行のOB会
銀行には退職者を中心としたOB会があります。参加資格は文字通りその銀行のOBで有ることです。今回はこのOB会についてお話ししてみたいと思います。

まずOB会の位置づけですが、学校の同窓会みたいなもの。こう言えばおわかり頂けますでしょうか。実際入会してみて同窓会との類似性を強く感じました。

OB会への入会とは、銀行を退職することです。(当たり前ですね)これまでのOB会では入行同期のメンバーが、そのまま定年になって仲良く一斉に入会する。このパターンでしたが、現在は定年が延長されたり、早めに退職したりで、年当たりの人数も年次もバラバラになっています。

さてそんなOB会ですが、どんなメリットが用意されているのでしょうか。まずは年に1回送られてくる「会報」の存在があります。内容は鉄板の同型で、巻頭言に続き懇親会の紹介、新入会員紹介、退会者のお知らせ(要は訃報)と続きます。最初は新入会員ばかり気になりますが、じきに退会者欄にも目が行くようになります。万事已む無しです。

次のメリットは会報にも掲載されている懇親会です。一流どころの大手ホテルで行われるもので、会員であれば費用負担無しで参加できます。ただ出席すると現役時代の諸々が、一辺に想起されますので、毎回出席者は少数派の気がします。(昨年はコロナ禍でぼつでした)

三番目のメリットは銀行施設の利用です。銀行の厚生施設にはOBにも、その門戸を開いている場合があります。OBが利用可の場合は、現役行員に混じって利用が出来るのです。設定料金は行員向けですが、OBも同料金で利用出来ます。しかも料金は福利厚生の観点から低く抑えられています。

この制度は中々優れものです。銀行は施設の維持管理のため、行員に利用を勧奨しているのですが、実際には業務多忙日などは、閑古鳥が鳴いているときもあります。しかしOBは時間が自由になるので、そんな日でも早い時間帯はOBで満席の場合もあります。

最後のメリットは会員名簿です。これは現存会員すべてを閲覧できる大部な資料となります。頭取経験者を始めとする役職員すべてが掲載されているため、保管には非常に気を遣うものとなります。ただこんな宝の山なのですが、元々名前が分っている人は、住所等も分っている場合が多いので、改めて名簿を見る必要は無く、知りたいなと思う人はフルネームが分らない事が多く、名簿に同姓の人が複数いたらもうお手上げです。

そんなこんなで二年に一度頂くのですが、正直扱いに困ります。古くなった名簿の処分は裁断しますが、これも多大の時間がかかります。如何でしたか銀行のOB会。正直もてあまし気味なのですが、

皆さんはどうされているのでしょうか。気になるところではあります。

2021/03/29

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日付通りに銀行勘定は動いていなかった!

銀行の勘定取引の日付

銀行取引は大きく分けて勘定取引と非勘定取引があります。まず非勘定取引ですが、これは文字通り勘定無関係なので、「取引日」はそのままです。日付通りで例外はまずあり得ません。

一方、勘定取引は、「取引日」が実際の勘定が動いた日とは言えません。ではどういうときにズレるのか。今回はこちらをご紹介します。説明に正確を期すべく、項目分けをしてみます。なお名称や内容については、あくまでも私の知見がベースである点。お含み置き願います。ではまず通常の動きを見てみます。

営業店勘定は本部のホストコンピューターの指令により、午前八時頃に一斉に立ち上がります。営業店側の操作は不要です。以後午後三時を過ぎて当日起票を終えて勘定を締め上げるまで、起票(勘定を動かすこと)すれば、自動的に当日付けとなります。つまり「取引日」=「勘定日」となるわけです。

但し外為は為替相場が絡むので、当日付け取引は公示相場が立つ午前十時頃からとなります。ではこの前後の時間帯に受け付けた場合や、業務量が膨大となり時間内に処理できなかった場合はどうなるでしょうか。ここから取引日と勘定日の関係が微妙になってきます。

1.締後取引(しめごとりひき)
最も多く用いられる取引形態です。当日締後と前日締後に分かれます。締後とは総勘定締上後の意味で、その日の勘定(締前勘定)とは別建てになります。まず当日締後は総勘定元帳作成後の起票となります。また前日締後は翌営業日に前営業日付で起票する物であり、前営業日の当日締後と合算されます。締後取引は締前取引を補完するものであり、繁忙日などはよく使っていました。

2.起算日取引
日中の時間帯に過去の日付で取引する場合に用います。極めて例外的な取引の位置づけで、取引日は当日でなくても可です。勘定上はあくまでも当日ですが、証票上は過去日付となります。日付操作が可能となる取引なので運用は厳格になっていて、一件ごとに取引理由(なぜ起算日扱いなのか)を明らかにして、上席の決裁を仰ぐ必要がありました。またその操作結果は別途監査対象となり、本部検査や、日銀考査、金融庁検査などの重点点検項目となっていました。

3.勘定修正
今までの二つと異なり、勘定修正は営業店勘定そのものを、前営業日起票できる状態にする起票を言います。そしてそこで行われた起票はすべて前営業日のものとなります。有る意味これも「受付日」=「勘定日」です。ただ個店勘定が動くので銀行全体に影響が及ぶことになります。そのため実行には必ず本部承認が必要でした。実感としては個別の起票のためでは無く、システム移行など銀行全体の事情で、一斉に行っていた記憶があります。

最後に「預かり」という制度も触れておきます。これは得意先が外訪中に預かった要起票物件を、オンライン終了後にお店に持ち帰った際に当日分として、翌営業日にまとめて前日締後で対応していたものです。その意味では1.締後取引の派生形と言えます。

以上お話しした中で「起算日取引」が最も注意を要する取引で、もし銀行から起算日で取引をしたと言われた場合は、金利計算や対外的表示日など確認することをお勧めします。

2021/03/23

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仕事でパニクっている貴方に

仕事を進める整理方法

自営であれ会社勤めであれ当たり前の話ですが、仕事はこちらの都合通りは来ないし、勝手に止める事も出来ません。
リモートワークのご時世ですが、その点は今までと一緒です。では諸々の仕事が降ってきた時に、我々はどう立ち向かうべきでしょうか。

今回はこれを考えてみたいと思います。私的にはこの災難に立ち向かうには、次の二点がポイントと感じます。実はこの二点にまつわるお話しは、私が研修部に所属していた頃、参加していた研修生を相手に研修生共通の話題として、適宜研修の中で話をしていました。

いわゆる「アイスブレイク」ネタです。この手の問いかけには研修生なりの回答が返ってくるのですが、そのどれもが特効薬ではないようで、私の話でも大きなヒントになると、感想を寄せてくれる人もいました。では以下に紹介してみたいと思います。

第一点 仕事には「MUST」と「MAY」がある。一日の仕事がスタートする時に頭の中にも手元にも全く何もない。早い話「すっからかん」という人はまずいません。昨日分の持ち越しや、今日の新規分。これらが混在している筈です。そして雑然とした仕事殆どが、自分でやるべきものです。

この状況で何となく手近にある仕事から始めると、少し経つと更に新しく仕事が入って来るようになります。こうなると収拾が付かなくなってきます。そこでこれら仕事の整理法を考えてみました。あまり細かく決めると、仕事前に仕事をすることになるので、あくまでもサクッと仕上げます。

コツは時間軸と自分軸です。これは言い換えると、「急ぐ物or急がない物」これを時間軸と言ってました。「自分でやる物or他人がやって良い物」これは自分軸です。仕事をこれらに分けるのです。最初は時間軸で、次は自分軸でわけます。
この選別作業で残った物が「MUST」な仕事なのです。それ以外は「MAY」な仕事とします。「MUST」から取り組めば、混乱しないで仕事が進められる。こう言える状況でした。

第二点 10分で出来る仕事は、優劣を考えずに片付けてしまう。これは第一点とは矛盾する部分もあるのですが、実際に自分がやってみて実効有ったと思える仕訳なので、これも研修生に示していました。このやり方の肝は、その仕事が何であれ10分で片付くならサッサとやってしまう。

この点です。やることの内容は問いません。実際始めると分るのですが、10分もあるとかなりのことが出来ます。メールを打つ。電話を架ける。ショートミーティング。金庫整理(ン!?)簡単なL/Cのドキュメント・チェック。近所の取引先への顔出し。これらが10分で片付けてしまうのです。

このやり方の利点は、とにかく一件でも仕事が片付く点です。更に相手のある仕事の場合、相手を待たせることがない点です。相手にしてみればそんなに時間のかかる話でもないのに、私からの反応が遅いとなると、「何でこんなに遅いのだ!」こうなります。大変心証を悪くすることで、その後の取引にも響きかねません。

この手の仕事は、時間が経つにつれて10分では済まなくなったり、後続の仕事が付いてしまい結局大仕事に化ける事があります。これは大いに警戒しなければなりません。以上、パニック防止策を二点お話ししました。

2021/03/15

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今回も障害発生!みずほ銀行を残念に思う

銀行のATMを操作する

みずほ銀行の障害発生で多くの預金者が大変な目にあった。こう各社が一斉に報道していたのを、皆さんはお聞き及びでしょうか。

当事者であるみずほ銀行の頭取がその後記者会見を開き、不手際を謝罪していたのも大きく報道されていました。その席で頭取が、システム面は問題なく運用面に問題があったとして、再発防止に全力を尽くす旨述べておられました。この件は既にシステムは復旧して、ATMが一旦取り込んだ通帳やキャッシュカードは、順次連絡の上返却していくとのことなので、終息する方向と思います。

さてこの出来事を目にして、今回は思うところを記してみます。まず気になったのは、障害が発生したのが「みずほ銀行」だったことです。同行は過去2回大規模なシステム障害を起こしています。一回目は同行スタート時(2002年4月)に起きています。そして二回目は2011年3月に起きました。

今回は前二回と異なりシステム面には問題が無かったとのことですが、正直「またか」感は誰でも持つのではないでしょうか。次に気になるのは、この障害の原因がシステムそのものではなく、運用面だったと説明されている点です。前二回と異なりハード面ではなくソフト面に問題があった。こう言いたいのでしょうが、逆に思い出してしまうことがあります。

それは2005年12月のみずほ証券(同行系列)の誤発注事件です。この事件は「1株61万円で売り」の注文を「1円で61万株売り」と、担当者が東京証券取引所に誤発注したことに端を発した、主に誤発注というヒューマンエラーが脚光を浴びた有名な事件です。この事件のことを考えるとあまり運用面を強調するのは、変な連想する人が続出し、全体のイメージダウンになりかねません。

さて最後に別の切り口を見てみます。別の切り口とは「ミスやエラーをやらかすと3倍手間が掛る。」 このフレーズの存在です。これはどこの職場でも言い継がれているのではと推察するのですが、銀行でも先輩がまず教えてくれる言葉でもありました。この言葉の意味は、ミスやエラーをすると正確に完了した時に比べて、3倍手間が掛るので良く考えて行動するようにとの戒めです。

ではなぜ3倍になるのでしょうか。これは次のように分解できます。1回目はそもそもの誤った取引です。2回目は誤った取引の訂正です。3回目は正しい取引です。この一連の流れで3倍が出てくるのです。今回の障害はこれに直接当てはまるわけではありませんが、復旧には相当な手間だったのは容易に想像できます。しかも利用者はほぼ完全放っておかれたようです。

こうなると怖いのは「みずほ銀行」に対する信頼が揺らぐことです。銀行は命の次に大切なお金を扱います。その銀行に取って信用はかけがえのない物です。一定の間隔を開けて発生した、何とも残念なこの手の障害が、文字通り企業発展の障害にならぬように、切に願いたいと思います。

参考サイト:みずほ銀行
https://www.mizuhobank.co.jp/retail/index.html

2021/03/06

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30年経って30千円に戻した日経平均を見て

日経平均株価のチャート

この所の巷間を賑わすことに、日経平均の大台乗せの話があります。実に30年ぶりとのことで、30代以下の方には???のことでしょう。思い起こせば30年前は、いわゆる「バブル景気」と呼ばれる時代でして、世の中全体が何とも騒然とした状況だったのです。

今回はこの時代に銀行業務の最先端を担っていた、ではなく、末端の末端を担っていた外為担当者のお話です。

「バブル景気」は1985~1991(昭和60年~平成3年)の状況を指します。この時点での状況を一言で言えば、「持たざるリスク」に踊らされていた。こう言えると思います。当時は不動産や株を持っていれば、ドンドン上がっていく。そう皆が信じて疑っていない時代だったのです。(勿論、そうでない人もいましたが、大勢は圧倒的にこちらでした。)

このような人は「銀行に預金していても利息は僅かだ。」と確信していて、もっと有利な資産を持たねばならぬ。ひとに遅れを取ってしまう。この気持ちで脳内が一杯になっていたのでした。もっとも僅かな利息と言っても、1年物の定期預金だったら、年利5~6%は有りましたから、今から見れば夢みたいな話です。

さて人に後れを取るまいと考える人が手に取るのは、銀行が配っていた各種ローンのチラシです。当時は職域セールス真っ盛りでして、外為担当者も暇を見つけては、担当先を訪問してチラシを配って、各種ローンの借入を勧めました。(ここはS地銀の○ぼちゃの馬車事件がなぜか浮かぶ所です。)そんな中で店頭にチラシを持った、取引先の社員がやってきます。もちろん要件は各種ローンの借入です。一応各種ローンは、融資対象として自宅が想定されているのですが、当時はバブル景気真っ最中、いろんな便法が駆使されていました。

居宅以外の不動産投資であれば、「アパートローン」を投入、株式投資などで有れば、「フリーローン」を用意してました。これらのローンは、保証会社の保証付と言うことで実質青天井でした。この保証会社は若干曲者でして、銀行子会社の場合が多く、これで第三者保証といえるのか。疑問を口にする担当もいました。

しかし私も含めて殆どの人間が、保証付なら「GO TO」のスタンスでした。しかも不動産評価は通常時価ではなく掛け目をして減額するのですが、これが減額せずに100%まで特認でOKとなっていました。当時も通常80%が掛け目ですから、時価相当まで評価しよう。この強気はいかにもバブル真っ盛りといえます。

他行はもっと強気で、110%や120%で評価も有りました。(ウワッ)万一返済不能になってもすぐに不動産価格が上昇して、貸金は回収できると踏んだわけです。なので件の社員さんも勤務先は問題なく、返済能力も問題なし。融資対象物件も評価も良好。こうなり審査はOKとなっていました。めでたしめでたしです。

ところが程なくバブルは崩壊していきました。銀行も大きく傷つきましたが、ローンを組んでいた人もかなり痛手を受けていました。私が担当したローンは長い人でも、もう終了していると思いますが、順調に返済できたのでしょうか。今更ながら心配になっていきました。

結語に代えて:
日経平均が一日で1,200円も下落し、29千円をも割ってしまいました。
今後の展開次第では30千円相場も雲散霧消となるのでしょうか。

参考記事:
カボチャの馬車にシンデレラはいなかった?
https://www.rakuraku-boeki.jp/boueki-ginkou-gaitame/2018-05-21

2021/02/28

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銀行との戦いが上手な輸出業者(後編)

カーゴでの輸出貨物の積み込み

前編では輸出業者(以下輸出者)の立ち位置についてお話をしました。後編では具体的に戦上手振りを見ていきます。

今回のお話しでは輸出者にとって最大の強みは、L/Cを手中に収めたことです。L/Cの存在は仕入れ先に対して、如何に自分の商売が確実であるかを、L/C原本を元に最大限強調出来ます。そして取引銀行に対してはL/Cと一緒に持ち込む外為が、如何に良質で銀行収益に貢献するか誇示できるのです。

あとはどう料理していくかです。具体策を見ていきましょう。

1. 委任状を付けてL/C原本を仕入れ先に渡す
所謂、委任状付き買取と呼ばれる方法です。委任状を自分で作成するだけで取引銀行とやり取りもなく、簡単極まりないのですが、L/Cを渡すので商売内容が丸わかりです。戦上手の輸出者にとってこの選択肢はあり得ません。

2.L/Cを仕入れ先に譲渡する
譲渡を許容するL/Cを入手するのが大前提です。L/C接受銀行(受付銀行とも)に、仕入れ先への譲渡手続きを依頼します。海外の相手方や本来の商売金額を隠しても譲渡L/Cを作れるので、輸出者の中にはこれにこだわる人も多い印象です。

仕入れ先はL/C原本が入手できますので、問題なしとするようです。一方銀行は譲渡手続きが煩雑な上に、仕入れ先と輸出者の二者に書類作成者が別れるために、信用状条件不一致が起きやすく、ひいては不渡りとなる可能性があるため、大変嫌がります。この手は戦上手とは言えないようです。

3.振込依頼
銀行によっては取扱自体がない場合もあるのですが、銀行が輸出者の名前で仕入れ先に振込をする方法です。勿論その資金はL/C買取代金です。この事務手続きを、銀行は事前に受け付けた旨の書面を出します。出された書面には受取人(=仕入れ先)と振込金額が記されています。

これには請書的な雰囲気で、銀行のゴム判と押切印が押されています。輸出者はこの書きぶりに注目しました。この紙は仕入れ先にとっては十二分に魅力的な物と判断するだろう。こう思ったのです。(どう説明したかは分りませんが)しかし輸出者に渡す書類には、どこにも保証文言もありません。表題にも保証とはどこにも書いてはありません。単なる依頼書です。しかしこれを上手に使った輸出者がいたのも事実です。

そのせいでしょうか事務手続きが改定された時、この仕組みそのものが消えていました。事務手続きに無いことは出来ませんので、結局この方法はやがて使えなくなっていきました。

しかし今考えても、この方法を依頼してきた輸出者は大変な戦上手。こう思ったのも事実です。

関連サイト:
銀行との戦いが上手な輸出業者(前編)
https://www.rakuraku-boeki.jp/boueki-ginkou-gaitame/2021-02-06

2021/02/26

貿易と銀行実務いろは一覧

銀行との戦いが上手な輸出業者(前編)

輸出のため船積みを待つ自動車

外為を分類すると、貿易と貿易外そして資本の各取引になります。各取引での銀行立ち位置は、大きく二つに分かれます。

一つ目は銀行自身の持つ機能を提供するだけの場合です。これは貿易外取引と資本取引で多く見られます。ここでの銀行は、資金決済「場所」として機能するだけです。

二つ目は貿易取引の場合です。ここでは銀行も当事者として参加します。これは業者にとって銀行は、商売相手と同じくらい重要である。こんな意味を持ちます。(なおここで言う貿易は輸出入、貿易外は仕向・被仕向のことです。)

更に輸出業者と輸入業者を比べると、面白いことが分ります。輸入業者の多くは、銀行申し出を基本的に認めます。お願いベースも含めて、銀行の意向が反映されるのです。これはL/C取引が銀行与信となるため、銀行のご機嫌を損ねられない。こういった判断が働くからのようです。

L/C取引は銀行手数料が高めで、好評とは言いかねるのですが、L/C条件通りの船積書類を銀行に持ち込めば、確実に銀行から資金回収が出来る。こう言った大きな利点があります。(正確には買取銀行は立替払いをし、後に発行銀行から回収します。)そのため輸出業者は新規取引の時は先ず全額前金を目指しますが、全額前金が駄目なら次善策としてL/C確保に全力を注ぎます。首尾良くL/Cを確保出来たら、それを最大限に活用します。早い話、銀行の信用力も自分の商売道具にしてしまうのです。

輸出業者の最大L/C活用法は、素直に銀行に買い取って貰う事です。しかしL/C金額が大きくなると(例えば年商と同じくらい)、銀行は二つ返事では買取には応じてくれません。かといって自社製造でも無い限り、仕入れをしなければ商売できません。つまり仕入代金を手当する必要があるのです。

仕入が船積に先行しますので、現金が先に入り用になります。そこで輸出業者は銀行に輸出前貸しを申し込んできます。ここで銀行が応諾すれば一件落着ですが、そうは問屋が卸しません。L/C買取が出来ないような先に、単純に貸金は打てません。輸出業者にすれば船積みすればすぐに返済するので、何の問題も無い。よくこう言われました。

上手くいけばそうなのですが。もし何かあったらどうするのですか。こう聞きたいのです。でもそんなこと聞けません。とにかく難しい顔をして返事を渋ります。そこで輸出業者も知恵を絞ります。

ではどう知恵を絞るのか。ここからは次回にお話ししていきたいと思います。

関連サイト:
銀行との戦いが上手な輸出業者(後編)
https://www.rakuraku-boeki.jp/boueki-ginkou-gaitame/2021-02-26

2021/02/06

貿易と銀行実務いろは一覧

コールセンターには尊敬の念しかない

コールセンター

その昔年号を省略して数字だけ書いても、誰も不審に思わなかった時代がありました。今回はその頃のお話しです。

当時銀行営業日はカレンダー通り。ATMコーナーも土日はお休みでした。しかし時代は大きく変わっていきました。ATMコーナーを土日に稼働させることになったのです。そこで困ったのがATMコーナーにくるお客様への対応です。普通の営業日であれば、店内に担当者がいるので問題なしです。しかし土日の店はお休みなので当然誰も居ません。

そこで急遽本部に問い合わせデスクが設置されました。この問い合わせデスクが問題でした。所管は本部なのに、顧客優先の御旗の下、対応は第一線の人間があたったのです。かく言う私にもお呼びが掛かりました。何の事情も知らない私は、休日出勤のご褒美は代休と聞かされて、それなら悪くない話だと、ホイホイと本部に出社しました。

当日は同じような境遇の銀行員が4人。今一つ不安げな表情で参集です。用意された机の上には内線電話が一つだけ。電話の先は各店のATMコーナーです。段々不安が頭をもたげてきます。そのうちに9時になり不気味な沈黙が時を刻んでいきます。このまま何もなければ「イイナアー」などと考えています。しかしそう思った瞬間、いきなりベルが鳴ります。普段から徹底して早取り訓練を強いられているので、争って受話器を取ります。

「もしもし」
「・・・・・(相手)」
「はい、そうです!」
「・・・・・(相手)」
「いや、こちらでは分りません。」
「・・・・・(相手)」
「そうおっしゃってもこちらでは無理です。」

この繰り返しが何度か続きます。相手の要求は何か分りませんが、こちらではどうしようもないこと。これは明らかなようです。やがて電話は切れます。電話を取っていた担当者がポツリ。

『「出金したいのに残高不足。」「入金が入ってない。どうして入ってないんだ!」こう怒鳴られたよ。』

それを聞いて我々は顔を見合わせました。振込がされているかどうか。これは受取銀行では分りません。相手に確認するしかないのです。何ともはやの出だしです。営業終了までまだ8時間近くあります。全員早くもげっそりです。代休ぐらいで安請合いした自分が恨めしいです。その後も頻繁ではありませんが、電話は掛ってきました。内容は出金操作(これは簡単)やお釣りは出るのか(出ません!)、道案内(ここは交番では無い!)、暗証を忘れた(教えられません!)etc.

何とか4人で手分けしてやっていると、有る1人の電話先がヒートアップ!隣の私にも相手の声が聞こえてきます。「ここに出てこい!」こう言っているようです。その担当者「ここは本部。その店には居ない。」こう返事しているのですが、興奮して聞いてくれる様子はありません。終いには「本店に電話する。」こうなったのですが、そもそも今電話の出てる先が本店(=本部)です。困りました。

それでも粘り強く対応していると、相手は諦めてくれたようです。電話が切れると全員大きなため息が出ました。最初は打ち上げでもと話していたのですが、そんな気にはなれません。這々の体で帰途につきました。こんな経験からコールセンターの皆さんのご苦労には。尊敬の念しか有りません。本当に大変なお仕事と思います。今回はにわかコールセンターのお話しでした。

2021/01/29

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何故?コンテナ輸送にFOB・CFRを使うべきでは無い

輸出貨物がコンテナヤードに搬入された

過去本欄でインコタームズのお話しを何度かしました。

外為にはインコタームズの知識は必須ではない。ただし船積書類を扱うドキュメンタリー担当者には、インコタームズの知識は有益であると述べてきました。

今回はこの流れでお話をしようと思います。我々はお客様から貿易に関するご質問を良く受けます。外為担当者は外為の専門家であって貿易の専門家では無いのですが、大切なお客様からのお問い合わせです。出来る限り丁寧な回答を心掛けています。(これ本当です)

その中に「なぜ銀行ではコンテナ輸送の場合に、FOBやCFRは止めた方が良い。」と言うのか。こんな質問があります。勿論一義的な回答は、インコタームズにその旨記載が有るからなのですが、しかし重ねて「インコタームズは守らなければならないのか。」「守らないと何か不都合があるのか。」このようなご指摘も受けます。

確かにインコタームズは法律ではありませんので、守らないからと言って罰則が適用されるわけはありません。そこで出来れば止めた方が良い例としてお出ししていたのが、コンテナヤードでのコンテナ罹災です。

殆どのお客様はコンテナヤードに貨物が搬入されれば、それで自社としての輸出は終了と考えます。確かに何もなければそれで問題はありません。しかし天災によってコンテナが罹災した場合はどうでしょうか。

FOBやCFRの場合は輸入者側が海上保険を掛けていても、その保険が効力を持つのは貨物が本船に積み込まれた後のことです。つまりコンテナヤードにある間は無保険状態となっているのです。しかもそこでのリスク負担は輸出者にあります。これは看過できません。そこで用いられるのが「輸出FOB保険」です。

この保険は「内航貨物海上保険」の一種です。この保険は輸入者にリスク負担が移転していない時点での、貨物事故発生に伴う損害を補償する保険です。この保険を掛けておけば通常であれば、何らかの損害が発生した時に、保険会社が損害を補償してくれることになります。台風による損害もこれでカバーされることになります。

ここまでお話しするとお客様から「じゃあそれで行こう。」となるのですが、実はこの保険ではカバーされない部分があるのです。それが地震・噴火とそれに関連する津波・火災による損害です。輸出FOB保険ではこれらを保険金支払対象から外しているのです。

阪神大震災や東日本大震災でのコンテナヤードでのコンテナ被害は、たとえ輸出FOB保険を掛けていても損害カバーはされなかったのです。つまりFOBやCFR条件で輸出する場合には、輸出者側にこのようなリスクが残ることになるのです。

このような事情でFOB・CFRはお勧めしないというお話になるのです。なお同系列のCIFでは本船積込前の段階から保険を掛けますので、このような問題は起きないことになります。

またFCAやCPTのようにコンテナ輸送をも含む貿易条件であれば、リスク移転時期が運送人への貨物引渡し時点となりますので、コンテナヤード上の貨物リスクは、輸入者に移転済と言えるのです。

2021/01/15

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船積書類が電子化されるには

船積書類の電子化、ブロックチェイン

コンテナ輸送や航空機輸送の普及により、貨物の移動は圧倒的な速さを持つようになっています。一方外為の現場では船積書類はその多くを紙に頼っており、その移動の速度は殆ど早くなってはいません。

このギャップが「B/L(船荷証券)の危」と称される事態を生んでいます。これへの根本的な解決は、船積書類の電子化しかありません。では電子化の現況はどうなのか。これを簡単にまとめてみました。なお私は貿易書類電子化については、全くの門外漢でして、今回の文章は取得した情報をまとめて、皆様にお示ししています。疑問点等は適宜文末の関連情報をご参照願えれば幸いです。

1. 法制度の整備
一昨年成立の「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」により、海上運送上の電子化は「契約当事者間の合意」があれば、取扱が可能になっています。日本の船会社でも既に取扱はしています。

2. e B/Lについて
SWB(Sea Way Bill)は既に電子化されていますが、B/Lは電子化による原本性の確保が大きな問題でした。これについてはブロックチェーン技術の進展により、金銭価値のコピーが出来ない仕組みが普及してきており、e B/L(電子化されたB/L)が既に実用段階に入っています。

3. e B/Lは裏書可能か、指図式e B/Lは可能か?
この2点に関しては何れも可能となっているようです。これらが不可能のままだと、権利の移転やスムーズに行われず、実用にはならない可能性がある事柄です。

4. 銀行の対応状況
対外発表などが余りないので、状況把握に苦心するところですが、3メガバンクはそれぞれ新興企業と組んで独自開発を続けており、まもなく市場に投入されるようです。ただ市場投入を機に大きく状況が、変化するかについては大いに疑問は残ります。また一部外銀では、既に実取引での利用も開始されているようです。

5. 信用状統一規則、インコタームズはどうなるのか
貿易書類が完全電子化されると、信用状統一規則やインコタームズは、大きく変容するのではと言われています。しかし全く人間の手を経ない状況とならない限り、形を変えても残るという意見が多数派のようです。

6. 私の考え
以上から船積書類の電子化は、実現一歩手前と考えます。しかし何でもそうですが新しいことをやるのは、先ず以て必要なのは関係者のやる気と十分な資金です。この点から見ると邦銀は、つい周りや当局の顔色を窺って進める。この習癖から抜けきっていないように思います。

結果としてある程度の外圧を感じながら、3メガバンクあたりが先陣を切る。この線が濃厚なような気がします。その時期は分りません。

参考サイト:
TradeWaltz(株)、NTTデータ他出資による「貿易プラットホーム」の提供・運用会社
https://www.tradewaltz.com/

法務省、商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00219.html/

2021/01/04

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信用状輸出取引で不渡りを防ぐ4つのポイント

信用状にもとづき輸出の船積みをするコンテナヤード

お客様の所で勉強会をすると、決まって聞かれる質問があります。それが今回のテーマに挙げた事柄です。これの意味するところは、船積を終えた輸出者が、商売最後の段階で、書類の不備で相手から資金を回収できない。

こんな理不尽な状態は絶対に嫌だ。何とかして欲しい。こうなります。この状況。質問者の思いはすごく良く分ります。しかし答える方としては「んー」と唸る、大変難しい質問なのです。オールマイティーに使える答えはありません。つまり質問者に的確な解答を示せないのです。

しかし当方も一応外為のプロです。これではいけません。質問者に共鳴して、一緒に困っていたのでは洒落になりません。何とかしなければならないのです。そこでいくつかひねり出して、答えに代えていました。それを順番にお話しします。

1. 船積後、輸出書類は速やかに銀行に持ち込む
船積書類を輸入者に送る場合、相手に書類が到着しないことには、決済は絶対にして貰えません。半日でも早いに越したことはありません。特にお互いに連休等が控えている場合は、早く送らないとその間に市場価値が激変して、マーケットクレームにあう。こんな可能性だって有ります。

2.輸入者の変化を見逃さない
国内取引と違って海外取引では、相対での決済は困難です。国内でも隔地取引(離れた場所での取引)はあり得ますが、 国内取引では時差は無いし使用言語も日本語です。決済通貨も日本円の一択だと思います。つまり国内取引では遠隔でも実質相対といえます。

翻って海外取引では全てが離れた状態です。この状況で常に良好な決済ばかりを期待できません。いつ手のひら返しになるか分らないのです。良好な決済維持は、輸出側の不断の注視によると言えます。輸入者の対応が変だと感じた時は最悪を想定して、輸出貨物の所有権確保を決済督促に優先させる必要があります。

3.素直な書類作成を心掛ける
ここからはややテクニカルなお話になります。信用状取引に於いて、確実に輸入者に決済してもらうには、銀行持込みの船積書類の信用状条件との一致が必要です。この一致の意味ですが、本来は厳密な一致が必要なのですが、お客様の中には信用状条件の方がおかしいと判断して、自らの信じる条件を記載される場合があります。これをやると相手銀行(信用状発行銀行)のチェックに引っかかります。結果としてスムーズな決済が望めなくなるので、ここはグッとこらえて信用状通りとすべきでしょう。要は素直にです。

4.作成書類相互間の不一致に留意する
前記3.にも関連するのですが、信用状条件との一致に注力の余り、船積書類を相互にぶつけると、矛盾を起こすような記載になっている。こういう場合が結構見られます。これも立派な条件不一致で、不渡りになる可能性が大です。良くあるのが船荷証券と保険証券の不一致です。両者ともに自分で作るものではありませんので、受け取った物をそのまま銀行に持ち込みがちです。注意しすぎてもしすぎることはありません。

以上不渡り防止についてお話ししましたが、先方との良好な関係に勝るものは無い。これが正直なところです。

2020/12/21

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「用の無い時こそ顧客訪問せよ」を考える

お客さんと一緒にコーヒーを飲む

銀行員のあるあるに、顧客訪問スタイルの「べき論」があります。ご承知のように銀行員は店の外でも営業活動を行います。

外為担当者は得意先(取引先とも)ほどでは有りませんが、預金や融資担当よりは、この店外活動が多い傾向にあります。この営業活動を行う時の黄金律に挙げたいのが、私が心掛けていた掲題の言葉です。これを今回のテーマとします。

この言葉を会得したのは、入行6年が経過していた頃のことです。外為に配属されて既に3年が経っていました。このキャリアであれば立派に稼げる銀行員の筈ですが、私の場合、実に清々しいほど(勿論皮肉です)、稼げない銀行員でした(私の上司の苦労が偲ばれます)。

スキルやノウハウに関して何も持ち合わせがありません。なので顧客の所へは用事のある時とか、銀行からのお願いがある時に、アポイントを取って訪問する。こんな方法でしか営業できなかったのです。幸か不幸か外為は事務処理も忙しく、店頭は千客万来状態。これらの対応も担当者の仕事です。こんな日々の連続でも、ま、それなりに充実していたと言える毎日でした。

ところがこのやり方では、段々外為の実績が頭打ちになってくるのです。よく考えたら当たり前の話なのですが、前と同じにやっていたのでは、数字が伸びるわけがありません。ところが当時の私には理由がサッパリ分りませんでした。一生懸命やっているのに。これは店の環境が良くないのだ。こう誤解して毎期、毎期、文字通り数字あわせに明け暮れていました。

そんなときに大手商社の子会社へ行った時のことです。たまたま目が合った経理部長さんから、「たまにはコーヒーでも飲んでけや」とお声掛けがありました。応接に通されてコーヒーカップを片手に約15分。四方山話のお付き合いをしたのです。

が、私の頭は当日予定が一杯で、思いはこのロスタイムをどう挽回するか。これだけでした。(スイマセン)これでは折角のお話しも、うわの空になるのは自明の理です。部長さんは別れ際に、「お客さんの所に用が有って来るのは当たり前。本当は何もない時にこそ来るべきだよ。」と諭されたのです。

当時この意味が分らなかったのです。分ったのは大分後のことです。その頃、銀行では提案型営業の推進を大きく打ち出していました。つまり用が有るから顧客訪問するのではなく(これはご用聞き型です)、こちらから用事を作って訪問しようというわけです。

当然、用が無いのに訪問するのですから当方の話にメリットがなければ、相手が耳を傾けてくれることはありません。ここに至って経理部長さんのお話が身に染みてきたのです。「折角、当社を担当してくれるならご用聞きにならずに、当社を良くしてくれる提案をしに来て欲しい。」この意味を読めなかったのです。

遅まきながらそこに気づいて、その後提案型営業もやったのですが、「言うは易く行うは難し」の連続でした。結局は従来のご用聞きの亜流。これって今思っても恥ずかしい限りです。

更に取引先の倒産事例を身近で体験したことで、普段の会社の様子を知っておくことが、どんなにか大切なことか、これも身をもって知らされたのでした。

2020/12/11

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JETRO(ジェトロ)のオンライン講座を受講した

JETROのWEB講習会

皆さんもJETRO(ジェトロ)はご存じのことと思います。 正式名は「独立行政法人日本貿易振興機構」といいます。銀行の外為業務とは直接の接点はないのですが、貿易に関する引き出しの多さから、みんなに頼りにされている存在です。

今回、貿易実務オンライン講座を受講する機会が有り、HPを訪問しましたので、その感想方々お話しをしたいと思います。このコロナ禍で集合研修や対面授業は、大きくその数を減じています。しかしこの講座のようなオンライン形式のものは注目されています。類似の貿易実講座は他にもありますが、ジェトロ講座はひと味違います。

ちなみに今回受講した講座のテーマは「輸出の基礎」です。所要時間は30分。更にお試しと言うことで、無料で受講できました(但しジェトロ・メンバーに登録が必要)。さて実際に受けてみての感想ですが、一言で言えば、よく出来ていると感じました。全94枚の学習シートで外為関連は一枚だけでしたが、この一枚に主な輸出決済方法は、全て網羅してありました。更に最も輸出者に有利な手段は特筆してあるので、初学者の人にも、ポイントがはっきり分るようになっていました。

ちなみに最も輸出者に有利な代金回収方法は何かというと、予め代金を送って貰うやり方です。いわゆる全額前受けの方法です。実際問題としては、この方法でいつも輸出出来るわけではありませんが。更にここがある意味ポイントなのですが、講義の流れに中に、ジェトロの業務を上手く組み込んでいるのです。

受講していて疑問や興味が出てくれば、そのままHPを参照すれば良い。このような作り付けにしてあるのです(座布団一枚クラスです)。HPで紹介しているジェトロの支援業務は、無料のものも多くあります。疑問や不安がある場合は先ずジェトロに。これが可能になっています。

私も直接ジェトロにお世話になったことはないのですが、やはりHPに収められているジェトロの貿易投資Q&Aには、大変お世話になりました。このQ&Aは大変コンパクトにまとめてあります。私が外為研修の講師をしていた時に、受講生に項目説明するときも、口頭説明の後に、ジェトロのQ&Aを紹介すると言った具合に、大変に活用させて貰っていました。

如何でしたか私がジェトロをご紹介出来る分野は、ジェトロ全体から見れば本当に微々たるものです。しかしそれでもその充実振りには圧倒されます。皆さんも食わず嫌いにならずに、是非ジェトロのHPを訪問してみて下さい。

JETROのホームページ:
https://www.jetro.go.jp/indexj.html

2020/12/04

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銀行はなぜ相場優遇を渋るのか

為替の相場優遇

過去のコラムで、銀行からの相場優遇の獲得方法をお話ししました。今回はなぜ銀行は相場優遇を渋るのか。この点をお話しします。

なお相場優遇のことをレート・サービスと呼ぶ人も居ますが、銀行側のスタンスでは為替相場は銀行が定めたものであり、優遇は顧客取引深耕のため、やむを得ない場合にすると考えています。結局レート・サービスと同じ事なのですが、銀行は相場優遇としますので、本稿でも相場優遇を使いたいと思います。
さてなぜ銀行が外為収益に執着するのか。

実はこれへの答えは簡単明快なのです。大変に儲かるからです。具体的に例を挙げて見てみましょう。月商10百万円ほどの輸出業者が有ったとします。通貨は米ドル建て。輸出代金の決済方法は100%送金決済。回収金はそのまま円転(円転とは外貨を円貨に交換することです)。また1米ドル=100円とします

この条件で銀行収益を見てみます。先ずUSDベースの貿易為替量を計算します。月10百万円を米ドルに換算して12倍します。計算式:10百万円÷100円X12ヶ月=USD1.2百万/年、年商1億円強なので、法人管理先としは一番小さい部類です(与信先はこれより小さくても個社で管理します)。

次に収益を見てみます。資金決済は被仕向送金なので、海外から入ってきた米ドルを円に交換する際に発生する為替売買益が銀行収益となります。これが1円/ドルです。計算式:USD1.2百万X1円=1.2百万円、これは大きいです。実はあんまり大きな声では言えませんが、新規顧客を獲得する場合、半年間の実績として、貿易為替10万米ドル又は外為収益10万円を基準にする場合が多いようです。これと比較すれば120万ドルと120万円は大きな数字です。

しかし相場を優遇してしまうと状況は一変します。一部の大手企業には99%優遇が存在します。これは1米ドルについて0.01円が収益となる計算です。つまり本件の事例で言えば取扱高は変わらないのに、収益は12千円に激減するのです。これでは銀行は自ら相場優遇を持ちかけません。普通は。しかも銀行が、外為に固執するのはその収益力の高さです。国内の一般融資でスプレッドを1%確保出来たとして、同金額の収益を挙げるためには120百万円の投入が必要です。

このような億を超える与信実行には、それなりに与信判断が必要です。取引したいと言われても二つ返事で「ハイ」とは行きません。しかし本件のような被仕向送金は、単に海外からの入金を待てば良く、何の与信も要しません。到着資金を円転するだけです。

こうして外為収益が計上されます。こんな状況なので銀行は外為獲得に血眼になりますし、虎の子の外為収益が減りかねない、相場優遇を渋るわけです。今回は銀行が外為優遇を渋るわけをお話ししました。

2020/11/23

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外為に役立つ資格はなにか?

外為の業務

今回は銀行の外為をやっていて、業務に役立つ資格はあるか。ここを見てみたいと思います。

資格というと「弁護士」とか「公認会計士」のような国家資格、様々な分野、様々な業務に即した民間資格があります。一口に業務に役立つと言っても「自動車運転免許」のように、持たずに運転すると、後ろに手が回るようなものもあれば、その銀行でしか通用しない内部資格もあります。そして外為業務は運転と異なり特段の資格は不要です。つまり銀行に所属する者はだれでも外為が出来るのです。

しかし何も要らないかと言えばそうでもありません。持っていると役に立つ資格も有ります。中でも一番銀行員に馴染みがあるのが、「銀行業務検定」です。この試験は主に金融機関の役職員を対象として行なわれます。内容も様々で銀行員(特に若手)であれば、必須に近い存在です。

外為では「外国為替2級」「外国為替3級」が実施されています。少し中身を見てみます。「外国為替3級」は営業店での日常業務に必要な外為知識を持っているか。これが試験されます。銀行によって受験対象は異なるでしょうが、外為初任者のイメージです。

次に「外国為替2級」です。こちらは役席者(管理職のことです)や専担者(外為を専門に担当するの意味です)が対象です。内容も少し高度になって、単に知識を問うと言うよりも、事例に対する対応力を試験する。こう言った意味合いが強くなります。試験の内容も○×や択一ではなく、記述式で10問しっかり出されます。

私は両方受験しましたが、3級は知っていればOK!の世界でした。しかし2級は違いました。単に結論だけ書いても点は貰えません。起承転結がある文章を書かねばなりません。そこで無い知恵を必死に絞ります。先ずは期待される答えです。次にそこまでの前提条件(設問になければ自分で作る)を置きます。そして起承転結を展開していきます。これを10回繰り返す訳です。

180分の試験時間では、相当にキツかった記憶しかありません。最後の問題などは竜頭蛇尾で仕上げてしまいました(お恥ずかしい)。こんな苦労して取った資格ですが、銀行によって扱いは様々です。「外国為替2級」取得を管理職登用資格の一つとする。と事実上の行内検定扱いする所もあれば、行内履歴書の資格欄への記載を認める(余りメリット感じませんが)。諸手当に反映させる(といっても雀の何とかです)。などと様々でしたが外為スキルのホルダーとして、本部、上司、周囲に認めて貰えたのは事実でした。

さてそれ以外の資格ですが、金融機関向けではありませんが、貿易実務検定協会が行っている「貿易実務検定」や、貿易アドバイザー協会(AIBA)の「貿易アドバイザー試験」などが、試験内容に外為業務を掲げており、関連する資格と言えます。今回は外為に関する資格についてでした。

参考サイト:

銀行業務検定協会
http://www.kenteishiken.gr.jp/

貿易実務検定
https://www.boujitsu.com/
      
貿易アドバイザー試験
https://trade-advisers.com/examination

2020/11/16

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心底ビクッとした「電話」

電話をビクッとしながら受ける
若い人を中心に、電話を嫌がる人が増えているそうです。確かに電話は、こちらの都合とはお構いなしに掛ってきます。そこで今回はそんな電話のお話です。

外為の電話は大きく分けて三種類あります。外線電話と内線電話そしてホットラインです。ホットラインは内線電話ですが専用電話機があって、受話器を取り上げると、「マネー・フォレックス」セクションにつながりました。このセクションはいわゆる為替と資金を扱う本部組織で、ディーラーと呼ばれる人達と、話が出来るようになっています。

しかし今回のお話しは、こちらではなく内線電話の方なのです。一般に内線電話は組織内をダイレクトに結ぶので、いわば身内同士の通話であり、受話器を取るときの気持ちも楽です。着信音も外線とは異なるので、その点もプラスに働きます。

しかし中には心底ビクッとする電話がありました。朝の7時半に掛ってくる内線電話がそうなのです。この時間は始業時間前なので、出社している人間は限られています。まだオンラインも立ち上げてませんので静寂そのものです。そんな中で突然内線電話が鳴り響くのです。最初は一体どこからなのか、不審の固まりで受話器を取ります。

すると「ニューヨーク支店の○○と申します」と言うではありませんか、この声を聞くと、執務室に一気に緊張が走ります。ニューヨークと日本の時差は、サマータイム中で13時間です。つまりこちらの午前7時半は、現地の前日夕刻の18時半です。こんな時間までニューヨーク支店の担当者は居残って、こちらの出社を待っていたという訳です。

こんな状況での電話が楽しい筈がありません(当たり前ですが)。時差も顧みず国際電話を掛けてくるのですから。緊急性が高いのか、すぐに指示や判断が欲しいのかどちらかです。こんな場合の多くは、こちらからの海外送金の不備についてです。10百万ドルを超えるような送金に不備が見つかった場合とか、金額に関係なく、米国の規制に抵触した送金が見つかった場合です。

特に恐ろしいのが後者で、最悪は資金が凍結されてしまいます。勿論仕向ける場合に十二分に内容点検は行います。が、悲しいかな、人間のやることに完全無欠はありません。何年に一度かはこのような状況に陥ります。こうなったら兎に角、最善を尽くすしか方法がありません。幸いニューヨーク支店は、経由地であって最終目的地はありません。万一最終目的地であっても受取人には未払いの状態です。こちらからは当該送金の処理中止を依頼します。そして送金依頼人の連絡を取って、送金内容を訂正したり、場合によっては組み戻し処理を行います。

早ければ此処までの処理が午前中に終わることが出来るのですが、早朝から振り回されると、その日一日は全く仕事になりませんでした。

今でも思い出しますが、朝の内線電話は本当にビクッとしたものでした。

2020/11/05

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至福の時。「味匠厨師」が降臨した!

外為担当者の梁山泊
サラリーマンにとって、昼食は大変楽しみなイベントです。銀行員とて一緒です。私なんか毎日お昼が鼻先のニンジンでした。今回はたった一年でしたが、日々の至福に包まれた時があります。

その時のお話しを是非お伝えしようと思います。なお表題の「味匠厨師」は私の造語です。至福に導いてくれた調理師への尊称です。他意はありません。

さて時代は20世紀から21世紀に移ろうとする頃です。当時私は、60人ほどの外為担当者ばかり集めた部署にいました。銀行から三階建ての小さなビルを与えられており、そのビルはさながら外為担当者の梁山泊のようでした。そして至福の時をもたらすその場所は一階にありました。

差配するのはTさんとおっしゃる調理師でした。ご専門は中華でしたが、和洋イタリアン何でもOKの手練れでした。そんな頭領の元、我々がなぜ日々多幸感に包まれたかと言えば、それはひとえにT調理師の料理が抜群だったからです。勿論銀行の食事ですから一食当たりの金額は決まっています。確か350円(内自己負担は半額の175円)でした。

こんな低予算から日々の献立が生まれてくるのです。しかも喫食数60人程度は先ずあり得ないのですが、セカンドメニューも備えてあり、メインメニューが食べられなくても、救済して貰える仕組みになっていました。中にはセカンドメニューなのに評判が評判を呼んで、メインメニューに昇格したものもありました。
加えてT調理師は日々の予算から幾ばくかを捻出し、

デザートやドリンクを用意してくれることもありました。我々は文字通り、心ならぬお腹を鷲づかみにされていたのです。それでは有る週のメニューを覗いてみましょう。これを見れば私たちが如何に心待ちにしていたか、分って頂けると思います。

月曜 回鍋肉、春巻き、杏仁豆腐
火曜 ロールキャベツ、ツナサラダ
水曜 生サンマの塩焼き、南京煮、季節のフルーツ
木曜 にぎり寿司盛り合わせ、小田巻蒸し
金曜 チキンソテーバーベキューソース、冷や奴なめ茸かけ

如何ですか、これが11月のとある週のメニューです。これにご飯に味噌汁(orスープ)が付いているのです。これ以外にもセカンドメニューがあり、しかもどれも美味しいのです。評判を聞きつけた本部の役員が、昼食時を狙って来訪されて、そのままパワーランチになると言うこともしばしばでした。こんなイレギュラーな場合でも、T調理師は予め何人分か、多めに用意してくれており、何の問題も発生しないのでした。やがてこの梁山泊は、より大きな館へ宿替えとなりました。

そこでももちろん社食は用意されていました。ですが、確かにメニューは複数ありそれなりに美味しいのですが、余りにもそれまでが幸せすぎました。その反動がでたのか、当時社食でメンバーと顔を合わせる度に、あの頃は良かったと愚痴りあったものでした。

2020/10/28

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銀行再編で自社の与信枠はどうなるか?

地方銀行の再編
菅政権が発足して新しい政策が打ち出されています。今後はその中に菅首相の持論である「地銀再編」が、俎上に登る可能性が大いにあります。今回は時事ネタとして、銀行与信取引における、合併や統合の影響について考えてみます。

先ず問題にしたいのが、銀行合併で店舗はどうなるかです。とりあえずは全店舗残す方法もあります。いきなり店舗統合に入る場合もあります(こちらが多数派です)。いずれにしても、人も物も重複したままでは合併効果はありません。必ず縮小してきます。多くの場合は合併後一年以内に動きが起きます。

その時に例えば輸出買取の枠とか、L/C(信用状)開設の枠といった、与信関連の枠を銀行がどう扱うか見てみたいと思います。先ず合併前に片方の銀行としか与信取引がなかった場合です。この場合は、そのまま存続した店舗に引き継がれます。与信残高は勿論、与信枠そのものも引き継がれます。

次に旧両行に共に与信があった場合です。この場合でも原則はそのまま引き継がれます。但し片方の店の枠に吸収出来る程度であれば、そちらに一本化するのもありです。ここでの注意点は以下の通りです。

一つ目は旧両行で与信に対する考えが異なる場合です。例えば先物為替予約は外為与信そのものとする場合と、外為与信に準ずるものとする場合が有ります。この場合、与信に準ずる場合であれば残高算定や、運用が与信に比べて簡素化されています。ところが新銀行で先物為替予約が、与信そのものになる場合は、統合後は何らかの制限を受ける可能性があります。

二つ目は旧両行の与信枠を合算すると、継続店の取扱権限額を超過してしまう場合です。実は銀行の営業店は迅速かつきめ細かな対応のため、支店長に金額や期間を定めた与信権限を付与しています。この権限内であれば、支店長は本部承認なしで与信が実行できます。ところが統合で与信合算となると、その限度を越える場合があります。

この場合、顧客にとって最悪のシナリオは与信の圧縮です。しかし統合直後に与信圧縮を言ってくる場合は稀です。与信期限が到来し、銀行が継続を検討するタイミングで言ってきます。しかし顧客の業績が良好で、銀行に収益が落ちていれば黙ってます。

自社がどう扱われるかは、銀行の合併発表から店舗の統合発表など、一連の銀行説明の中で、与信枠の存続に対する銀行担当者の態度で、
判断が付きます。もし与信圧縮対象であれば、与信枠利用について、歯切れが悪くなります(自分がそうでしたので)。

いずれにしても取引銀行が合併するのであれば、与信面はどう変わるのか。じっくりと説明を受けることをお勧めします。

2020/10/20

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インコタームズ2020オンラインセミナー受講!

インコタームズ2020のオンラインセミナー
恥ずかしながら、今回初めてオンラインセミナーをフル受講しました。タイトルは「インコタームズ2020の概要」と言います。ICC日本委員会が所属の会員限定で実施したものです。

講師は国際商取引学会会員で、貿易アドバイザーの高橋靖治氏です(ICCは国際商業会議所の略)。全部で2時間弱だったのですが、一気に聴講させて貰いました。今回はその感想を書いてみたいと思います。

私はこの手のセミナーに出会うと、つい講師に肩入れをしてしまいます。要は講師になった気分で聞いてしまうのです。受講者ならレジュメを見ながら聴けばいいのですが、講師役に肩入れすると聞き方がガラリと変わります。例えば、登壇場所の環境は?セミナーの趣旨・目的は?受講者のレベル感は?etc.です。

オンラインセミナーは初めてなので余計に興味が湧きます。経験のないことに対しては興味津々になるものです。文字通り箸の上げ下げまで見てしまいました。さて聴講しての実感ですが、無人講義は思った以上に大変。これでした。恐らく高橋講師も戸惑っておられるのでは。そんな場面もありました。しかし時間内にレジュメの全てに言及し仕上げられました。これには脱帽するしかありません。

しかし「良かった」「良かった」では私のコラムになりませんから、自分ならどうするかこれを幾つか考えました。以下はそのご紹介です。

1. 全体を通して海上輸送がメインのお話しでした。私なら航空貨物にも入れたいです。今や物流では空運は必須です。

2. 輸出FOB保険にも触れたいところです。実際コンテナ輸送でもまだFOB系の場合が有ります。CY(コンテナヤード)に貨物を置いている場合、船積前にコンテナが損傷すると、無保険の状態がありえます。これを防ぐために言及します。

3. 売主から買主への費用・危険負担の移転については、詳しく説明がありましたが、なぜインコタームズでは、所有権の移転時期について言及してないのか。説明が欲しい気がします。軽く触れたいです。

4. 代金決済の部分の説明をもう少し膨らませたいところです。特に船荷証券を銀行経由で相手に送って、輸出代金を回収するという説明の部分。これで一向に問題は無いのですが、銀行実務では取立と買取を峻別していますので、ここの説明でも買取の説明も加えれば、売主の代金回収は、実質買取の時点で終了している。と理解することができます。

以上が縷々申し上げましたが、翻って私が講師ならどうなのか。

恐らく皆さんの反応がないので、軌道を外れてもそのまま。時間だけが経っていく。そんな悪夢が脳裏をよぎりました。やはり講義は聴いてくれる人がいてなんぼの世界のようです。

2020/10/15

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それって独禁法違反では!?

独占禁止法を運用する公正取引委員会
独禁法とは独占禁止法の略称です(正確には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)。この法律はご承知のように、公平・公正な商取引を守るために設けられたものです。

これまで数多くの不公平や不公正を是正すべく、公正取引委員会が排除措置や課徴金納付を命令しています。この法律。別に大企業限定でもないのでしょうが、大企業が話題になる事が多いようです。今回はこちらのお話しを少ししてみようと思います。

銀行が独禁法で話題になるのは、多くは優先的地位の濫用です。預金・融資・外為など多くの場面で、銀行が優位な場合が多いのは、認めざるを得ません。我々もこの点を戒めるべく、「我々は銀行の金看板を背負っている」、こんな言葉を上司や先輩から言い聞かされていました。職務中の言動は自分が発したものと思いがちですが、実はお客さまから見れば、後ろに銀行の金看板が見えているので、主体はその担当者ではなく銀行そのものになる。

こうした優先的な地位に安住するな。こう言った意味合いです。そこで我々がお客様へお話しをする際には、顧客メリットだけでなく、デメリットやリスク(顕在、潜在問わず)も余さず説明する。この姿勢が大切になります。この点をおろそかにすると、お客様が不確実な或いは誤認したまま、取引が成立してしまう。しかもお客さまは断わり難い。

これでは公平・公正な商取引とは言えません。そこで公正取引委員会としては、「銀行はその立場を利用して、商売をしてませんか。もししたら独禁法違反ですよ。」こういった警告を発しているのです。勿論、単なる警告ではなく、法律の裏付けを持った強い規制です。それでも過去には営業停止処分を受けた銀行もあります。

銀行の優先的地位の濫用は、ある意味永遠のテーマかもしれません。ここまで書いて、ふっと思い出したことがあります。今から30年以上も前のことです。同じ店に俊敏な融資担当者がいました。仕事ぶりに俊敏はおかしいかもしれませんが、彼は情報収集を始めとした立ち回りの早さ巧さが光り、他行動向も良く把握して、重要案件でも容易に本部承認を得ていました。

そんな彼がポロッと「他行の情報も入ってくるんだ。」と言ったのです。聞いたその時はフーンでしたが、よく考えると入手先によっては、ヤバいのでは。後になってそう思うようになりました。もし直接他行と情報交換しているなら、「談合」と取られかねません。これでは独禁法違反になってしまいます。漏れ聞いたところでは、情報源は取引先の同業他社のようでした。

分ればなーんだの世界ですが、当時は一瞬公取(公正取引委員会)に、ウチも入られるのかと、心底心配になりました。皆さんも一度、公正取引委員会のページを見ることをお勧めします。

公正取引委員会:
https://www.jftc.go.jp/dk/

2020/10/01

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外為顧客の満足度は、事務スキルに有り!

外為の事務スキル

「外為推進は、事務と営業が両輪である!」外為をやっていると必ず聞かされるフレーズです。これはどこかの偉いさんの格言などではなく、上司や先輩・誰かしらが、言い続けるいわば常套句と言えます。

しかしこの言葉、外為を生業としていた者からすれば、言い得て妙のところが有ります。今回はこのご紹介をしてみます。

さてこのフレーズですが、意味するところは簡単に言うと、銀行の外為推進には、営業面でのマインドやスキルだけではなく、事務知識も必要である。こう言った意味になります。

しかし、私から言わせると少し違います。「事務知識も必要」ではありません。「事務知識は必須」なのです。事務知識が無ければ、外為の話は全く出来ないのです。そこに必要なものは外為法を始めとする諸規制も勿論ですが、行内事務手続きのように、銀行内の決め事も必要です。
さらには外為センターや店内他係とのハウスルールも然りです。お客様との折衝ではこれらの知識を総動員する必要があります。具合的な例で見てみましょう。

例えば、新規先で首尾良く実権者と面談できたとします。あれやこれやの流れから、「この会社、輸出信用状取引が有るようだ。」こう感じ取ったときの想定です。これはチャンスです。何とか取り込みたいですね。こんな時の定石は、現状取引に不満がないかのヒアリングです。どんなお客様でもそうですが、100%満足している人はまず居ません。銀行員から今の銀行に対する希望や不満について聞かれれば、何かしら不満或いは愚痴が出てくるものです。もしなければ、それは満足なのではなく、こちらと取引したくないだけです。

さてその発言の中身は曰く
・「信用状が中々入手できない」
・「信用状の内容について質問しても満足のいく回答がない」
・「買取に時間がかかりすぎる」
・「金利や手数料が高い」、
・「アンペイド(不渡りのことです)の対応が不親切である」
等々。いろいろ出てきます。

例えば「信用状が中々入手できない」という不満の場合です。私はこんな話が出てきた時には、頭の中で次のように考えます。「オープニングバンク(信用状開設銀行のことです)はどこだ。」「コルレスがあれば、ダイレクトにアドバイスが来るのに。」(直接信用状を自分の銀行に送って貰うの意味)「(持込を条件に)通知手数料を免除するのに」これらのアイデアは事務知識が無いと、考えつかないことばかりです。

逆に事務知識があれば、これらの問いかけには即答できますし、無ければこちらから質問を装ってセールスもできます。またこんなやり取りすれば、その場で主導権を握れます。

皆さんもご経験がお有りと思いますが、相手が自分に一目置いてくれると、交渉事は上手く行くものです。つまりセールス成功につながるわけです。

さてこの事務知識。丸覚えしたくてもとても出来ません。かといってその都度調べるなんて、お客様の前で出来るわけありません。結局が場数を踏むこと。そこで得た教訓を元に必要な知識を仕入れる。陳腐ですが是に尽きると思います。

今回も紙幅も尽きたようです。他の話題は稿を改めて。

2020/09/22

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銀行の引っ越し

銀行の引っ越し

かつて本欄で銀行員の転勤について触れたことがあります。本当に転勤は銀行員の宿命みたいなものです。翻って勤務する場所である、銀行の店舗自体の引っ越しはどうでしょうか。

今回はその辺についてお話しします。そもそも銀行の引っ越しする理由は、
1. 店舗統合(銀行合併の時など)
2. 廃店(業績不振などにより)
3. 店舗新改築による移転などが挙げられます。

私はこの全てを経験したことが有ります。「どれも大変だったなあ。」これが率直な感想です。

とりわけ大変なのが1と3です。勿論2も大変なのですが、廃店の場合は最終的には自分の所は何もなくなります。予め決められた引き継ぎ先にどんどん引き継いでいって、最終的に残ったものを引き渡せばそれでお終いです。

しかし1と3はそう簡単にはいきません。新しい場所でそのまま再開する必要があります。加えて1.の場合は二つ以上の店の人と物が集まっただけでは、銀行的には何の意味も有りませんから、程なく人は減っていきます。自分が転出する側であれば、結果は2と同じようなものです。

最後に残った3ですが、これが正真正銘の引っ越しと言えるでしょう。まず仮店舗に店全部が引っ越します。そして新改築した店舗に、大概は1年程度で戻ることになります。つまり感覚的には、引っ越しの年中行事化です。私はこれを入行二年目と三年目で経験しました。当時勤務していたお店は、二つの大通りの交差点にありました。

それほど老朽化した店舗ではなかったのですが、とにかく手狭で喧噪で、繁忙日は店からお客様があふれ出す。こんなとんでもない店でした。日々の来店客数も桁違いに多く、現場の悲鳴にようやく本部も重い腰を上げて、大型化した店舗新築に踏み切ってくれたのです。そして仮店舗は支店駐車場に決まりました。(通りを挟んだ向い側)

こうしてプロジェクトはスタートしました。当時は最若手ですから何でも「ハイ!ハイ!」状態です。日常業務をこなしつつ、引っ越し準備の指示には「ハイ!ハイ!」です。担当は窓口業務でしたので、引っ越しで最重要物と言えば「現金」です。銀行の引っ越しで「現金」と来れば、小説にでもなりそうな話ですが、実際の所、大変は大変なのですが、大層システマティックでした。

要は引っ越し最終日の夕刻に、現金はありったけ本部行きです。そして仮店舗(或いは新店舗)の営業開始日に朝一番で、本部からドンと現金を受け取るようになっていました。またお店にあるものは顧客情報の固まりなので、例え道を隔てた場所で有っても、本格的な引っ越し作業でした。

こうやって引っ越しをしても、一年後にはまた引っ越しです。仮店舗への引っ越しは今一でしたが、新店舗となると全然別物です。家を新築して「是非見に来てくれ!」と触れ回る。まさにあれです。

移転初日の店内での支店長のドヤ顔。今でも懐かしく思い出します。考えてみれば支店長であっても、新築店舗に巡り会うのはまれです。そんな意味でも、いい経験のお裾分けを貰った。こう思えてなりません。

2020/09/15

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3メガバンクの外為インターネットサービスは?

インターネットバンキング

今回は3メガバンクのインターネットサービスについてです。国内取引を含めいろいろなサービスが提供されていますが、本稿では外為関連のサービスを比べてみたいと思います。

比べるポイントは以下の5点です。
1. サービスの名称
2. 取引可能な内容
3. 利用出来る時間帯とかかる料金
4. 輸出買取や取立は出来るか
5. 先物為替予約の期日変更は出来るか

1~3はその通りですが、4、5は説明を少しだけ。折角比べるのですから具体的な取引、ネット環境では難しそうなもの。これを二つ選んで、ネットで完結するのかどうか調べてみました。それでは始めます。なお三菱UFJ銀行はMUFG、三井住友銀行はSMBC、みずほ銀行はみずほと略すようにします。

1. サービスの名称 
MUFGは外為全体を「Biz STATION(外為サービス)」、先物為替予約はその内訳として「Biz STATION(FOREXサービス)」。SMBCは「Global e-Trade」、先物為替予約は別立てで「i-Deal」。みずほは「e-ビジネスサイト」(この中に何でも入っている)。

どうも名称だけでは優劣は出せない状況ですが、名称が細かすぎるのは困りますが、かといって大雑把ではその名称だけでは外為がどうか分りません。その点ではSMBCが半歩リードと思います。

2. 取引可能な内容
これは3行共に同一内容と言っていいぐらいです。仕向、被仕向、輸出入、外貨預金、先物為替予約など、少なくともHP上では優劣はつけられませんでした。

3. 利用できる時間帯と料金
利用時間帯ですが照会と書類作成は、24時間できるサービスが殆どで、3行に差異はありませんでした。銀行への依頼時間帯は、開始時間は営業日の8時頃からですが、終了時間が19時以降も出来るものと、そうでないものが見られました。これも「優劣は無し」と判定します。

料金面ですがここは3行で違いが見られた部分でした。(以下税込み)

MUFGは初回のみ必要となるのが18,260円、月々必要な料金が外為全部で16,500円。SMBCは初回55,000円、月々は外為全部で38,500円。みずほは初回55,000円、月々は外為全部で22,000円。ちなみに先物為替予約は3行共に無料です。MUFGの安さが目を引きます。

銀行の料金は交渉次第でいくらでも動きますが、規定料率以上にはならないので、MUFGが優位と言えます。

4. 輸出買取や取立は出来るか
この項目は正確に言うと、買取や取立の依頼をする際に、全ての書類がWEB化されているかどうかを知りたかったのです。しかしすべてオンラインで出来るとした銀行は、一行も有りませんでした。

SMBCはB/Lは現物を銀行に別途持ち込むとしたスキーム図を、掲載していました。みずほ銀行は調べるといきなり利用規程に誘導されて、条項を熟読してやはりB/Lは別途持込が必要と分りました。MUFGは見た限りでは、判別出来ませんでした。SMBCとみずほが、ワンポイントのようです。

5. 先物為替予約の期日変更は出来るか
特に期日延長は異常として原則不可。こう仕切っているか。見ました。延長を無条件で可とする銀行はありませんでした。MUFGは「期日変更は事後取消可」、SMBCは「当行判断で受付不可」、みずほは「真にやむを得ない場合のみ可」としており、ここはみずほの書きぶりに座布団一枚と言えます。

以上見た限りでは、サービスそのものには差が見られません。使い勝手の善し悪しは、実取引での銀行対応が全て。こんな結論になってしまいそうでした。

ご参考: 3メガバンク各サイト

MUFG
https://bizstation.bk.mufg.jp/service/index.html

SMBC
https://www.smbc.co.jp/hojin/eb/e-trade/

みずほ
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/ebservice/account/ebusiness/index.html

2020/09/03

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輸出していない会社に輸出前貸は可能か?

プレジャーボート
今回はかなり変わった商流の輸出業者さん(A社とします)のお話です。

取扱商品は「プレジャーボート」です。これを主に欧米のお金持ちに輸出していました。

取引の流れをざっくりと見てみましょう。

まずA社のHPやパンフレットを見たお金持ちが、海外から問い合わせをしてきます。折り返しA社から詳しい見積書等を返信します。先方が興味を示したら、価格など詳細を詰めていきます。この流れで商談が成立すれば文句なしですが、そんなに上手く話は進みません。

多くの場合、下見でお金持ちが来日となります。A社も一緒に行ってボートを見学します。大概はそこで内装も含めての細かい打合せです。そしてようやく先方の購入意思が固まると、A社はメーカーに発注を掛けます。やがてボートが納品されて、A社は輸出手続きをします。後日先方にボートが到着。資金決済が行われて一件落着です。

しかしこれでは前貸がなぜ必要なのかよく分りません。必要が無いように思えるのです。あれこれ考えても仕方ないので、直裁に事情を聞きました。すると意外なことが分ったのです。

まずボート本体の代金ですが、この会社が一旦受け取るのではなく、メーカーへの直接振込にしているのです。そしてA社はメーカーからのコミッションを受け取ります。いわゆるコミッション商売です。これでは資金負担は無い筈です。当然外為も発生しません。今まで取引があったのに、外為先では無かった理由が分りました。

しかし今回は輸出前貸しを希望している。なぜ? 一体どこで必要となっているのか。これも聞くしか有りません。聞いて分りました。理由はお金持ちのこだわりに応えるためでした。

ボートは高額で一億円を超すようなものもあります。更に購入を考えるお金持ちは、外装・内装にも強くこだわります。メーカー対応出来ない要望には、A社が自分で対応します。中に入れる調度品なども、A社が購入して据え付けます。つまり資金は、こう言った支払に充当するためでした。今までは社長の個人資金で賄なっていたが、それでは足らなくなって来たとのことです。事情は分りました。

早速稟議を書くために、決算書を3期分用意して貰いました。しかし中身を見ていて頭が痛くなってきました。決算書のどこにも輸出の数字が無いのです。手数料が収入源なので当然の話しです。しかし一方、貸出目的は輸出前貸です。これでは整合性がとれません。本部承認が下りない可能性があります。

そこで考えたあげく外装・内装の見積書を、かき集めて貰う事にしました。これらで資金使途を明確化し、返済原資は海外からの送金としたのです。そして本件取組メリットとして海外被仕向送金を取り込むことにより、外為取扱及び外為収益を増加させる。こう結論づけたのです。

社長は資金の流れが、白日の下にさらされるのを嫌がりましたが、これでなければ承認が下りないと言って納得させました。その後このスキームで年に数回、輸出前貸と送金が有りました。しかし海外からの引き合いは、長くは続かなかったようです。

いつの間にかA社は中古ボートのディーラーみたいになって、国内商売だけで、外為の話は立ち消えになってしまいました。

2020/08/24

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銀行員の転勤は電光石火!

転勤のため荷物・書類を整理する

銀行員に転勤はつきものです。早ければ1年半ぐらいで転勤です。ここまで短くなくても、普通は3年で次の店にどうぞです。その結果長くても3年半もいれば、自分より古株はいなくなります。

そんなわけで3年を過ぎた辺りから月末が近づくにつれて、毎月今度こそ自分の転勤ではと、日々気にする状態となります。そして実際に転勤が分るのは、発令前日の夕刻です。本当にぎりぎりまで分りません。

そして一度発令されると、バタバタと引き継ぎ日程が決まります。そして一週間もすれば、その人は跡形もなく居なくなる。この流れが何度となく繰り返されるのでした。今回は、この転勤の機微についてお話します。

先ほどお話ししたように、そろそろ自分の番ではと、思うような時期になると、俄然「整理整頓」に熱が入るようになります。併せて「引継書」なるものを、麗々しく書き始めるのもこの頃です。そして月末の夕刻、人事部から連絡が入ります。支店長が慌てて支店長室に籠もるのを見て、心に期すものがある自分は、心穏やかではいられません。

程なくして電話が終わった支店長が、支店幹部を呼び込みます。じつはこの中に、転勤の当事者が入っていることもあります。しかし当時私は一兵卒。そんなこと知るよしもありません。やがて支店幹部が支店長室から出てきます。

代わって当事者が呼ばれます。「○○君(私のことです)。凸凹支店だよ。引き継ぎは先方と良く打ち合わせして。」これだけです。こちらから聞かないと、自分の後任も教えてもらえないこともありました。随分不親切だなあと当時は思いましたが、後に自分が人事から電話を受ける立場になると、その内容は転出者名と転出先(新任店での職位)、転入者名と所属店・職位だけでした。支店長にしてみれば、過不足なしに伝えただけなのです。ある意味納得です。

しかし発令を受けた身にとっては、この瞬間から所属は転勤先の店になります。銀行員の転勤でつらいのは、着任までの期間が短すぎる点です。転居しない場合は一週間ぐらいしかありません。この間に相手の店に行って引き継ぎを受け、自分の店では転入者に引き継ぎをします。何回やっても大騒ぎしか有りませんでした。

こんな転勤騒ぎですがたった一度だけ、自分の思うように転勤させて貰ったことがあります。この時は私のやっていた仕事が、営業店から無くなっていました。正直これは困りました。仕事無しでは店に居られません。と言って外為以外に何も出来ません。困った。困った。本当に困っていると、本部からどこに行きたいか聞いてきました。私は腰が抜けるくらい。椅子から転げ落ちるくらい。ビックリしました。

個人の希望を聞いてくれるの!?こんなチャンスは空前絶後と思い、仕事内容と職位を伝えました。「分りました。」先方はこう答えてくれたのです。「何をどう分ったの??」狐につままれたようなものでした。程なく私は転勤しました。希望通りです。皆の前で発表がありました。この転勤はこちらの希望どおりです。なんて口が裂けても言えません。さも意外そうな表情で演技をしました。ハイ。

そして引き継ぎは何もありません。そそくさと新任部署に移りました。見渡すと各店から外為畑の人間が集まっていました。それとなく情報交換すると、やはり本部から釣り上げられたようです。よくよく考えれば慈善事業じゃあるまいし、お情けが有るわけでも無く、希望を聞くという形式の人集めだったようです。

やはり銀行の転勤は難しい。そう思った瞬間でした。

2020/07/30

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外為新規の見つけ方

pic_bank_20200724

外為新規は過去にも触れましたが、中身まで立ち入りませんでした。

今回この点を、少し詳しくお話ししようと思います。

まず新規先を獲得するには対象先が必要です。(当たり前ですが)ところがこの対象先を見つけるのが大変なのです。

街中をいくら探しても「当社は貴行の新規先です!」の表示なぞ、どこにもありません。そこでみんな知恵を絞ります。私も絞ります。

アレコレ考えたすえに、壺にはまると上手くいったのが、自店の取引先から探す方法です。これは効きます。

それでは具体的方法に話を進めます。なお純預金先は自店に決算書がない場合が多く、この方法は使えませんので省きます。

1. 自店融資先の中から回収専一状態の先を抽出する
回収専一とは当初の与信を打ってから、新たな与信を起こしておらず、与信残高が徐々に減っている取引先です。たとえ担当者がいても、個別にフォローはしてない場合が多いです。

2.抽出先の決算書を手元に用意する
この決算書は与信実行時点の古いもので構いません。上場企業は決算短信などで財務内容は把握できますが、未上場企業は未公表が普通ですし、経常取引でもなければ、銀行にわざわざ最新の決算書を持ってきてはくれません。要は古くても構わない。有り物で始めようというわけです。

3.ここから決算書の中身を見ていきます
(1)為替差損益の表示はないか。
損益計算書(P/L)を見て為替差損益が計上されている場合、外貨建取引の存在が推測されます。外為取引とは断定できませんが、もし貿易関連でなくても、自店他係にネタとして引き継げればOKとします。

(2)貸借対照表(B/S)を見て、外貨建資産・負債がないか調べる。
上記(1)に比べてやや歩留まりは悪いですが、これが記載されていると、会社として外貨取引を行っていることになります。貿易関連でない可能性も多々なのが難点ですが。使えます。

(3)換算為替レートの表示は有るか。企業によっては外貨建て取引を都度実勢相場で換算せずに、予め換算レートを定めこれで仕訳していき決算時点に精算する。このような方法を採る企業もあります。この場合決算書上にその換算レートが記載されているので、この表記があると、経常的な外貨建取引の存在が推測できます。

4.自店担当者に仁義を切って軒並み訪問を実施する
一連の作業で浮かんだ対象先。今度は実際に訪問します。なぜ仁義を切るかと言えば、うっかり訳あり先や因縁あり先など、訪問すべきない先柄に飛び込まないようにするためです。このステップを省略すると、とんでもないことになります。さてこの方法の良い点は、既に相手が自行と取引がある点です。これなら門前払いの心配がありません。いきなり訪問して訝しがられるかもしれませんが、少なくとも実権者との面談は出来ます。

実際に私がやってみて大企業は流石に無理ですが、中堅・中小企業であれば与信開始から時間が経過していることもあり、外為ネタだけでなく融資材料や運用相談なども出てきました。出てきたネタは外為以外は、融資担当者にフォローを依頼します。

この方法で自店担当者・企業双方から感謝されたこともあります。唯一の難点はこの取引先から外為持込が実現しても、本部からなかなか新規先とは認めてもらえなかった点です。融資取引が有るのなら既存先だろうというわけです。この点は、本部担当者と本当によくやり合いました。

2020/07/24

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銀行員の部活

pic_bank_20200713今回は外為を離れて、部活についてのお話です。

銀行員が銀行以外の活動をする。このイメージはどうでしょうか。

銀行員は多士済々です。音楽関係の小椋佳さん。ラグビーの宿澤広朗さん等はご記憶の片隅にあるのではと思います。

ような著名人でなくても、好きこそ物の上手なれとばかりに、多彩な活動を銀行員はしています。

思いつくままに挙げてみますと運動会系では、

野球(準硬式・硬式)、サッカー(フットサル)、テニス(硬式・ソフト)、ラグビー、水泳、弓道、剣道、合気道、ランニング、ハイキング等々。

文化系ではオーケストラ、合唱(男性、混声)、書道、茶道、華道、写真、囲碁、将棋、ボランティア活動等々。が浮かんできます。

これらの部活動の特色は、構成主体が現職の銀行員である。銀行から活動の公認を受けると同時に、活動場所の提供や、必要経費の一部を補助されている点です。現職銀行員がメンバーですと、活動時間は平日ならば夕方以降、それ以外は土日や休業日となります。

週1回の活動であれば早帰り日等に合わせての活動となります。場所はメンバーが集まりやすい所であれば、特定の部店がなる事もあります。本部秘書室なんてのも有りました。

弓道部などは弓道場を貸し切っての稽古です。野球部は銀行のグランドがあり、そこで練習も試合もしてました。私はもっぱら帰宅部だったので、5時からもう一丁という気持ちには、とてもなれませんでした。皆さんの熱心さには脱帽、脱帽でした。

また単に日々の活動だけでなく運動系文化系問わず、成果を発表できる場が設けられていました。特に運動会系はインターバンク競技会や試合が組まれており、結構メンバーだけでなく応援団も熱心なものがありました。また銀行以外との対抗戦もあり、代表的なところでは旧財閥系の、オール○○△△大会などが有りました。(○○には旧財閥名が、△△には競技名が入ります。)

皆さんの所もそうでしょうが、社内活動の一環としての部活は、メンバーの帰属意識が一元化されているという点で、学校の部活に類似した点が多く、多くの人が部活を何らかの形で、続けていました。

金融不況を受けて部活も多くが制限を受けていましたが、仕事を離れて好きなものに打ち込める場が有ると言うことは、大変に有難いものだとみんなよく話していました。今でも多くのサークルが健在で、その活動を続けているのが、その何よりの証だと思います。

2020/07/13

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銀行から与信を受けずに輸出入する方法

銀行の輸出入の与信

銀行と外為取引をやっていると、与信の制約が出てくることがあります。銀行与信が引き出せないと、上手く立ち回れなくなるのです。

そこで今回はその制約の網を如何にかいくぐるか。このお話をします。

さて銀行は外為先をどう見ているのでしょうか? 実は外為を持ってきてくれる取引先は、稼がせて貰える良い取引先に見えているのです。しかし外為には与信が必要な場合が多々あります。厄介なのは外為与信が国内融資と異なり、お客様から見て与信を受けたという印象が薄い点です。(特に輸出の場合がそうです)事務手続きを頼んだのに、なぜこんなに面倒なのか。こんなお叱りを受けがちです。与信が発生しているとご説明しても、よく分った腹に落ちた。こうは言って頂けません。

そんな場面で、与信の発生しない方法があればどうでしょうか。銀行の対応は単純且つ明快です。ハイ分りました!すぐやります!です。どうすれば銀行に与信ではないと判断させるのか。これを輸出と輸入に分けて見てみたいと思います。なお送金決済は、仕向・被仕向共に原則与信は絡まないので、ここでは割愛させて頂きます。

1.輸出
信用状の有無を問わず銀行に買取をして貰うと、その取引はすべて与信取引になります。与信回避には、買取ではなく取立にするのが常道となります。ただこれだと、輸入側の最終決済まで資金が手に入りません。そこで信用状付でよく利用されるのがプリテンドネゴです。これは海外には買取した旨表示をするが、銀行には買取をして貰わない。こんなやり方です。呼び方は銀行によって様々ですので、取引銀行に一度確認してみて下さい。

この方法は形式的には与信でも、実際の与信残に不算入の場合が多く、与信残を気にせずに、安心して持ち込める利点があります。信用状無しであれば、やはり此処はD/P(支払渡し)が一番です。輸入地銀行が、輸入者と折衝し資金回収し送金してくれます。手数料は発生しますが送金(後受け)に比べて、代金回収の確度は相当程度上と言えます。

2.輸入
こちらが輸入の場合。信用状決済は、手間と費用の両面で得策とは言えません。代わって出てくるのは、輸出の所でもお話ししたD/Pです。ただ輸入者からしてみると、未だ商品代金が手元に有るわけでも無く、実質前払いと変わり有りません。

そこでお勧めしたいのがD/A(引受渡し)です。この方法だと輸入書類到着時点での決済は不要です。その時点では輸入手形への引受裏書で、書類が交付され貨物が引き取れることになります。そして資金決済は、引き受けたときの満期日で良いのです。

現場でD/Aは殆ど目にすることがありませんでした。D/Aを活用して上手く銀行を使えば良いのに、こうよくひとり考えていました。

参考サイト:ジェトロの輸出関連の記述
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000955.html

2020/07/03

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UPAS条件信用状とは?

輸出の荷物を貨物用飛行機に積み込む

今回は別の輸出業者さんからのご相談です。

今まで100%前受けのT.T.送金だった海外顧客から、ユーザンス付信用状での決済要請があったそうです。こちらのお客様のお考えでは信用状決済は已む無しだが、ユーザンスまで認めるのはどうか。決済が遅れるのではないか。こう考えられたようです。

たしかにユーザンスが付くと、決済は一定期間後となります。お客様としては正直言って迷っているので、アドバイスをお願いしたい。こういう内容でした。

皆さんの所は、こんな場合どうされてますか?

一般に決済条件変更は、輸出入者両者ともに良し。なんてことは無く、一方が有利になれば他方は不利になります。本件で言えば100%前払いT.T.送金でやっていたのなら、これ以外への変更は輸出者にとっては不利になります。

そこで私もその点を確認したのですが、判明したことはこの海外業者との取引が増加しており、このままでは100%前金というのは先方の資金負担がキツいため、代替手段としての信用状取引の申し出となったようです。ただ一覧払いでは輸入者の資金繰りは楽にならないので、ユーザンス付きの申し出となったようです。

普通のユーザンス付信用状では、決済はユーザンス期間終了後です。たとえユーザンス期間の利息を輸入者が負担してもです。(ちなみにこのパターンでは満期日に利息込みで払ってきます)そこで輸出側はその期間リスクヘッジのため、輸出手形保険の利用や、フォーフェイティングの利用を考えます。また信用状の確認も行われています。しかし輸出手形保険のカバー率は、輸出手形金額の95%です。残りの5%は保険が効きません。

フォーフェイティングは輸出側で手続きが完結しますので、楽と言えば楽なのですが、何か問題が発生したときに、輸入国側ではフォーフェイトに基づく債権譲渡は知らされておらず、トラブルになりかねません。信用状の確認は、そもそも確認してくれる銀行を見つけなければならず、確認に要する手数料は輸出者負担になります。

その点、今からお話しするUPAS条件付き信用状であれば、問題点はクリアー出来るのではないでしょうか。順番にポイントを見ていきます。
1.UPASとはUsance paid at sight.略であり、期限付きながら輸入側で引受がなされたら、一覧払い同様で輸出者側に支払がされる。
2.信用状に一覧払い同様決済が明記されているので、一覧払い信用状と同じように早期の支払が期待できる。
3.ユーザンス期間利息は輸入者側が負担するので、輸出者側は特段の出費を強いられない。

このように採用メリットは充分に思えます。皆さんも似たような事態では、Upas条件を思い出してみてください。

2020/06/19

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聞いたこともない銀行発行のL/Cが来た!

pic_bank_20200613

ある輸出業者さんから聞いたお話です。その会社では初めての取引先とは、全額前金が原則だそうです。全額前金が難しい場合は、送金+信用状を求めるとのことです。

この交渉スタイル。良くあることなのでフンフンと聞いてました。話の流れでその信用状が見たこともない銀行発行だった。こんな話になりました。

銀行としてはどう対応するのか。これが質問だったようです。

そこでいくつかの対応法をお話ししたのですが、皆さんの参考になるのではと思い、今回のテーマにしました。

我々外為の人間が信用状の真贋を考える場合、先ず気にするのは現物がどこから送られてきたかです。輸出者から直接送られてきたのか。これは偽物の可能性があります。特に新規取引の場合は要注意です。

また接受銀行(発行銀行から信用状を受け取った銀行)が、信用状を正式な物として扱っているかを見ます。これは信用状1枚目(カバーレターと呼んでます)で分ります。もし接受銀行が、情報として伝達しただけ。こう宣言しているときは、信用状の正当性は勿論ですが、発行銀行についても何も調査してない可能性があります。

実はこの担当者は私の話を聞いた後、カバーレターを見て接受銀行に電話照会をしたようです。その回答は思った通りですが、単なる通知とのことでした。理由は発行銀行とはコルレス契約がないからでした。そこで自社の取引銀行に相談したところ、発行銀行の存在は確認できたようです。

しかしやはりこの銀行とのコルレス契約はない。と、残念な回答です。一体どうすれば良いのか。担当者は途方に暮れたようでした。この問題中々難しく明確な回答は出せません。

が、いくつかの手立てはあります。そのお話をしました。

1.通常通り書類を準備して買取に持ち込む

発行銀行の存在が確認できるのなら、これが第一の手段と言えます。メリットは特別な対策が要らないことです。しかしデメリットはやはりあります。銀行が買取に応じてくれない可能性があります。要事前確認です。

そして万一の不渡時は、解決までに相当な時間と手間が、掛ることが予想されます。よっていつも以上に準備する書類は、信用状条件に厳格一致させる必要があります。

2.買取銀行からの資金受取は、発行銀行からの資金受領後とする

買取銀行に買取を依頼せず信用状付為替のまま、相手に送ってもらいます。相手には買取表示で送ります。この方法すこし入金を待つことになりますが、輸入側の不審は買わずにすみます。買取銀行も、買取よりは応じてくれる可能性が高まります。

3.取立扱いで発送する。この場合信用状は参考程度になる

不幸なことに信用状とどうしても条件が合わないとき、やむなくこの対応になる事があります。例えば指定された船積期限に間に合わなかった。とか、信用状に書かれた商品明細と船積商品に不一致がある。等です。

折角の信用状ですが仕方がありません。この場合は純粋に信用状無しの位置づけになります。

この他、発行銀行以外の第三の銀行に、確認して貰う手もありますが、確認してくれる銀行を探すのが大変な上に、その銀行への手数料も発生し、あまり上策とは言えません。

また若干費用は掛りますが輸出手形保険が掛るのであれば、先方から支払拒絶を受けた場合でも、かなりの部分カバーできます。これも選択肢になると言えます。

2020/06/13

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3メガバンク。外為取引はどこに持ち込むか?

三菱UFJ銀行本部

多くの場合外為を持ち込む銀行は、メインか準メイン銀行だと思います。

しかしこれらの銀行が外為を得手としない場合が多々あります。

その時企業担当者の脳裏に浮かぶのが、3メガバンクではないでしょうか。では3メガのどことするか。いろんな思いが去来するに違いありません。

そこで今回はこの選定に「行風の違い」もポイントになるのでは? こう考え付いたので、このお話しを進めたいと思います。

尚以下の文章はあくまでも私の個人的見解です。客観性や公明さは填補されてません。その点お含み置き願います。

1.三菱UFJ銀行
言わずと知れた日本を代表する銀行です。海外での知名度も高く、世界的な打合せがあった場合に、先ずお声が掛る銀行です。なおこの銀行に限らずメガバンクはすべて複数行の集合体です。三菱UFJ場合は三菱とUFJです。さらにUFJを紐解くと、三和と東海からなります。三菱は東京が地盤、三和は関西が地盤、東海は中京が地盤でした。

では現在の行風はと言えばずばり三菱流です。勿論、三和の「野武士集団」や東海の「名古屋流」も垣間見えますが、あくまでもメインは三菱流です。「組織の三菱」と言われるように担当者の当たり外れも少なく、安定した銀行の対顧客姿勢が与える安心感は抜群と言えます。加えて外為分野では東京銀行の遺産は大きく、戦前の横浜正金銀行の流れを受け継いでおり、外為担当者から見てまさに外為エキスパートの存する銀行。「外為エリート銀行」こう呼んでも言い過ぎではないと言えます。

2.三井住友銀行
こちらは「人の三井」と評されるほど多士済々の三井銀行と、「浪速商人」と言われる住友銀行の組み合わせです。ちなみに三井銀行は太陽神戸銀行と合併して、さくら銀行となっていましたので、太陽銀行の無尽組織、神戸銀行の兵庫県民銀行の性格もDNAとして有りました。

さてこの銀行の行風は今となっては住友流です。住友流は別名「体育会系」とも、「走り出してから考える集団」とも呼ばれる物です。この流儀と波長が合えば、これが銀行かと思うほどツボにはまった、面白くかつ自社も儲かる商売ができます。外為は伝統的にアジア地区に強く、自社の取引相手がアジアならば、そのメリットを十二分に享受できるはずです。

3.みずほ銀行
みずほ銀行は簡単に言えば、みずほコーポレート銀行とみずほ銀行の合わさったものです。さらにその前身をたどると、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行となります。これらの銀行はそれぞれ歴史があり、行風も様々なのですが、前述1.2.の銀行と違って、興銀・一勧・富士の三行からどこか一つの銀行が前に出てきて、おれがみずほ銀行だ!というような事は出来ませんでした。

これがかなり後まで、旧行意識が残っていたことの現われでしょうか。そんなみずほ銀行の行風ですが、一言言えば「穏やか」といえます。「エリート意識」や「人生気合いだ!の体育会系」に辟易する向きには、消去法的にこちらが選択されるのかもしれません。

以上3行を見てきましたが行風はあくまでもご参考でして、やはりその他の条件を詳しく検討されることをお勧めします。特に自社の近隣に支店がある銀行は、何かと利便性が高く、まず筆頭に検討すべきと考えます。

2020/06/07

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銀行発行のバンク・ギャランティーとは?

日本銀行本店

今回はいつもワークショップに参加されている、大手メーカーのご担当者よりの質問を紹介します。

質問は「バンク・ギャランティーは世界中にあるものなのか?」(ン!?)実はこの手の質問。背景説明が必須です。

そこで事情をお伺いしました。すると以下の状況でした。

・物は東アジアからのタンク類の輸入
・資金決済方法は、製品出荷後の海外送金
・初めての取引なので、輸出者が前渡金を要求
・社内規定ではバンク・ギャランティーを入手できれば、一定部分の前渡金には応じられる
・ところがこの新規シッパーはバンク・ギャランティーを知らず、このシッパーの取引銀行も知らないという
・「バンク・ギャランティーは、一般的ではないのか」

この様な状況です。これで質問の意図するところは分りました。これへの回答ですが、以下私のメッセージを引用します。なお「バンク・ギャランティー」という言葉は、銀行では用いませんので、以下の文章には出してはいません。

ご承知のようにL/Gには2種類あり、輸出と輸入では内容が異なります。また輸出でも銀行と輸出者が発行するものがあり、これまた内容が異なります。ご質問のL/Gは輸出サイドの銀行発行のものとのことなので、前受金返還保証(いわゆるRefundment Bond)の事と思います。(輸出者が発行するのものは、輸出銀行宛であり補償状というべきものです。)

本邦ではこのような保証状でも、タイトルはL/G、Bondのどちらも使います。また与信上は表示方法にかかわらず全て外為保証に分類されます。

さて『海外での使用は一般的か?』とのことですが、前受金返還保証そのものが、他の保証(契約履行保証や入札保証)に比べて、利用件数は相当少ない印象です。更に用いられるのは主にプラント輸出のように、契約完了まで長期間を有するものが主流です。普通の商取引では余り見たことがありません。輸出サイドとしては新規取引の場合、全額前受金がベストです。

次善の策としてL/Cもよくあります。今回の事例は従前の取引先はどうしても前受金が欲しいので、前受金返還保証のスキームを使った。こういう流れだと推測します。

『一部前受け、残額は後受け』は良くありますが、前受け部分に銀行保証を付けることは、あまり多くないようです。

二点補足します。

一点目:商売不調で前受金の返還を請求する場合、そこで必要な書類は驚くほど簡単です。(為替手形と返還を要求する証書(Certificate)のみが多い) 結果としてL/G発行銀行(輸出サイド)は、返還請求を受けやすくなります。よって輸出側にとっては顧客・銀行共に、輸入側から信用状を入手し、船積書類を買い取る方が好ましいと言えます。なので前受金返還保証は、尚更利用されないことになります。

二点目:輸出円貨代わり金振込承諾書のことを、バン・ギャラ(バンク・ギャランティーの略)と呼ぶ向きもありますが、銀行がこの承諾書で述べているのは、輸出書類を買取した場合は、その代わり金を顧客に代わって輸出者指定先に振り込む。これだけです。つまりこの一連の事務手続きを受けたに過ぎません。輸出買取の約束や買取金の振込を保証をしたのではありません。

この承諾書には全く保証的効力も担保的効力もないのです。(つまりギャランティーと呼ぶのは大きな間違いです)銀行によってはこの取り扱いそのものをしない。こんな銀行が数多く見受けられます。

関連サイト:JETRO 貿易投資相談Q&A
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010817.html

2020/05/20

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ダンピング攻勢をしのぐ

ダンピングの交渉

我々と外為先や融資先との取引では、銀行規定料率での取引はほとんどありません。何らかの優遇条件を付けて取引を行います。

これは他行肩代わり防止のためです。皆さんから見れば取引条件は銀行の言い値通りでは、こう思われるのでしょうが、実際は違います!

銀行は安定収益を確保の観点で、優遇条件を提示します。そして何もなければ、この条件で取引は継続します。しかし決まって年に何件かは見直し要求が来ました。内容はほぼ同じ。ダンピングの要請です。

今回は、私がこの攻勢をどうしのいでいたか。このお話をします。

そもそもこう言った取引先のダンピング要請の裏には、いつも他行の影がちらついていました。つまり新規を狙う銀行が、ちょっかいを出しているのです。そしてその提案内容はどれもワンパターンでして、こちらの取引条件に、幾分優遇を上乗せ。これがお約束でした。

さてこの申し出に私がどう対応したかです。先ずは検討すると一旦引取ります。冷却期間を置きます。店に戻ってから、取引状況と採算状況を確認します。つまり落としどころを予め検討しておくわけです。もちろん上席には、交渉権限を貰っておきます。その上で先方に電話です。最短での面談の約束をします。面談を開始してから検討結果を話す前に、自行の強みを強調します。

ここが肝になるので粗末にはできません。

1番目は外為処理のスピードが早いこと。例えば午前中店頭持込であれば、当日中に輸出書類を海外発送する。或いは15時までであれば外国送金を海外に向けて出電する(円建てと国内外貨送金は除きます)。輸入書類を日本に到着した翌日に引き渡しを可能にする。等々。この中でも輸出書類の当日海外発送は評判が良く、感触の良さから逆にこちらが新規先を攻めるときに、効果的に使わせて貰った経緯があります。

2番目は海外拠点網の充実です。海外拠点が充実していれば、リアルタイムで現地情報が入手できます。また海外進出を考えている企業へのサポートは、得意とするところです。特に東南アジアや中国拠点網は、ストロング・ポイントでした。

3番目は良好な取引関係のアピールです。支店担当者含め当社への対応は丁寧迅速であり、過去からも何の問題も無い。ここを強調しました。

これらを述べた後に、今後とも良好な取引を続けたいのでと前置きして、一部取引条件を見直す旨お話をします。例えば大口為替の優遇上乗せや系列シンクタンクの会費優遇、為替予約変更手数料の免除など、メリット感が出るものを提示しました。今の状態を続ける安定感と、見直しによる今後のメリットを加味して、検討を迫るわけです。

この方法ですと単純な条件交渉に比べて、顧客の納得感は高く、再交渉になる事は殆どありませんでした。翻って自分が顧客ならば、折角スムーズにやっているのに、あえて波風を立てたくない。これが本音です。そんな気持ちでいたときに、二つの側面からメリットが提示されれば、納得して提案を受け入れると思います。

誰でも、もし変えて何かあったら嫌なものですから。今回はダンピング攻勢をしのぐ。でした。

2020/05/12

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私は「カストディアン」 でした!

カストディアン

今回は謎めいた調子で、始めさせて頂きます。

私は「カストディアン」だった。これがタイトルです。

ところで「カストディアン」て何だと思いますか?
レストランの名前?イエイエ。
インディアンの親戚?イエイエ。
酒粕でできた何か?イエイエ。
すべて全く関係ありません。

此処でお話ししている「カストディアン」とは、海外投資家に代わって、有価証券を管理する日本の代理人のことです。

銀行や証券会社が「カストディアン」になる事が多いようです。日本にいるぐらいですから、海外にも「カストディアン」はいます。この場合彼らは日本の投資家の代理人になります。で、私はこの「カストディアン」を、ほんの半年ですがやってました。

この仕事非常に特殊です。担当者は広い銀行内に私だけ。上席者はいるのですが、単に事務検証をしてくれるだけ。指示命令のラインは、直接海外投資家につながってました。つまり私は海外投資家の使用人みたいなものです。

そして何をやっていたかというと、早い話が株券の受渡と保管。海外投資家から持ち株を売却したと知らせが入れば、預かり保管している株券から必要数を抜き出して、兜町にある証券代行業者に持ち込む。逆に購入したと連絡してきた場合は、代行業者が店頭に持参してくるので、それを受け取って金庫に保管する。これの繰り返しでした。

こんなものは営業店の業務でも何でもありませんので、事務手続きなどはありません。あるのは先輩作成の手書きのノート1冊。ここに先方指示のひな形や、こちらからの応答ひな形。株券の持込方法と場所。受取株券の保管方法等が、記載されてました。

相手の海外投資家(世界的な食品メーカー)は財力があったので、売買は結構頻繁で、ほぼ毎日株券の出し入れがありました。当時の思い出として、なんと言っても強烈なのは株券の持ち出しです。地下の大金庫を開けて入り、さらにその中にある現金金庫室に入ります。さらに中のキャビネットから株券を取り出します。もちろん1人で入れませんので上席者と一緒です。

出庫手続きを終えると、現物を証券代行業者へ持ち込みます。これは現金輸送と同じなので、電車に乗ってとは行きません。公用車に恭しく載せて頂くことになります。(私をでなく株券をですが)この公用車、実は役員専用車です。黒塗りの立派な車です。本来なら若手のペーペーが乗れるわけありません。しかし「カストディー業務」には特別に許可が出ていて、何時でも利用できるようになっていました。

利用するときは、運転手詰め所に電話して一台準備して貰います。私が車寄せに行くと、出庫アナウンスと共に黒塗りが目の前です。株券と共に乗り込みます。と、ガードマンが一斉に敬礼。何か偉くなった気分です。

しかしこの私のカストディアンは半年で終わりました。別に首になったわけではありません。転勤になったからです。でも今思い返しても何とも不思議な光景でした。

(注)上場会社の株券は2009年に全て電子化されました。今、保管業務は無いと思います。

2020/04/30

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外国通貨の公表相場表、銀行によってなぜ違う?

よく質問を受けるのですが、ドル円相場に代表される通貨交換相場。

マーケットは同じ筈なのに、なぜ銀行によってレートが違うのか。

米ドルなど、各行全て為替手数料は1米ドルについて1円。こう明確に宣言しているので、この部分が銀行のもうけなのは明らか。

しかし出来上がったレートは違っている。これは変ではないか。こういった趣旨のご質問です。

我々は自分の銀行のレート表は、毎日必ず目にしますが、他所の銀行のレート表はまず見ません。(必要もありませんので)なので何となく他通貨(米ドル以外)は違っていても、米ドルは各行同じがガチだ、との先入観念があります。

この質問を頂いたことを機に、3メガバンクのレートを見てみました。例として米ドルT.T.S.(電信売り相場)を採りあげます。この相場は仕向送金や外貨預金の、円からの通貨交換に使います。

三菱UFJ @109.95
住友三井 @109.96
みずほ @110.05
(何れも2020年3月27日公表相場)

なるほど何れも違います。これは迂闊でした。

ちなみに他の通貨も見てみましょう。同日のユーロのT.T.S.です。

三菱UFJ @121.56
住友三井 @121.66
みずほ @121.77

でした。こちらは想像通りです。

全ての通貨を見た訳ではありませんが、違うのが前提のようです。

実は米ドル以外の通貨はその算出過程に於いて、米ドル仲値に各行独自のクロスレートを掛けて算出します。元の米ドルレートが違っている上に、クロスレートも先ずバラバラです。となると当然出てきた結果も違います。

つまりこの問題の本質は米ドルレートにあるようです。ここまでお話しすると、皆さんの中には別の銀行なんだから違って当然。こう判断される人も多いと思います。しかし外為畑の人間にとって少なくとも米ドルレートは、東京銀行(現三菱UFJ)に右にならえが当然でした。

9:50過ぎに東銀が米ドルT.T.S.を発表すると、他行は一斉にそのレートを参考に、自行のレートを発表しました。(正確には東銀のパクリそのものでしたが)それに比べて今のレート表は今昔の感があります。

ところで話は戻って冒頭のご質問ですが、このレート差は、各銀行の資金需要が反映していると思います。つまり3行の中で最も円安にドル円を設定したみずほ銀行は、この日、米ドルを売りたい姿勢が見えます。つまり買いたくないのです。
となると利用者から見れば各銀行の公表相場を見て、レート差を考えて行動することが考えられます。(いわゆる鞘抜きです)

しかし現実にはレートだけ見て、行動するわけではありません。外為手数料や自社の資金繰りなどを、総合的に判断することになります。更にこれらの相場が適用になるのが、1取引米ドル相当100千未満です。つまり大口取引は原則事情実勢に従う必要があります。また外貨預金にはもっときめ細やかなレート設定がされています。

つまりレート差で儲けようと思っても、余り上手くいかない。こう結論づけても大きく外れないと思います。

2020/04/25

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外為絶滅業務とは・・・・

pic_bank_20200413
今となっては遙か彼方の昭和の御代。

銀行に当たり前のようにあった外為業務。

令和の時代。ふと見渡すとその痕跡はあるものの、よくよく見れば雲散霧消も同然の状況。

こんな外為業務がいくつかあります。

今回はこれらをご紹介したいと思います。

その一  T/C(トラベラーズ・チェック)
昔は海外旅行のお供と言えばT/Cでした。(外貨現金は盗難が怖い)外貨はチップ程度で、それ以上の金額はT/Cがお約束でした。今はクレジットカードが使えるので、T/Cの必要性は急減しました。それでも最近まで一部の銘柄は発売していましたが、今では邦銀は全て新規の販売を止めてしまいました。

既に販売済のT/C買取には応じてくれるようですが、T/Cの発行体銘柄や額面金額等で、いろいろと制約があるようです。

その二  外貨小切手
偽造・変造に泣かされました。お客様から出された現物を見て、先ず考えるのが、「これ本物?それとも偽物?」これです。持ち込んできたお客様の信用力には関係ありません。もし偽物を掴まされたら大変なことになります。

小切手を発行した海外銀行がコルレス先なら見本もあるのですが、コルレスが無ければそれも望めません。それどころかその金融機関が存在するのかどうか。そこから確認しなければなりません。本当に大変でした。

その三 (スワップ付)外貨定期預金
巷で見聞する外貨定期預金キャンペーンは、実はこの外貨定期ではありません。「アウトライト」外貨定期預金と呼んでいる別物です。アウトライトは満期日の外貨から円貨への為替予約を、予め取らない外貨定期預金のことです。

これに対して「スワップ付」外貨定期預金は、預入時に満期日の為替予約を取る定期預金を言います。預入時に解約の為替レートを確定させることにより、外貨建ながら実質的に円貨定期預金として運用する。これを可能とする手段だったのです。

ではなぜこの手法が絶滅したのか。それは簡単です。円金利と海外金利差がほとんど無くなったため、スワップを組むと満期時の円貨元利金が、預入金より少なくなるのです。確実に損する預金など誰もやりません。ですから絶滅したわけです。

その四  紙製の信用状
現在でもL/C(信用状取引)は僅かに続いています。しかしそこで使われる信用状はほとんど全てが、SWIFTメッセージによるものです。

しかし昔は違います。お国柄豊かな紙製信用状が幅をきかせていました。例えば印度やパキスタン、バングラディシュなど南アジアの国々と、サウジアラビヤやクウェート、ヨルダンなど中近東の諸国。それぞれ一目見ただけでどこの国の信用状か見当が付きました。

この利点は隠れ信用状条件と我々が呼んでいた、信用状の裏面記載条項を見落とさずに済むことです。

その五  テレックスを使った電信業務
インターネット全盛の今では想像も付きませんが、昔は海外とのやり取りは電話かテレックスでした。銀行間の取引もテレックスでした。その後SWIT.が普及していき、今では完全に主役交代です。

ごく一部の邦銀がSWIT未加盟金融機関との取引のため、或いはSWIFT.途絶時の緊急手段として、存置させていると聞きました。しかしこれも実利用はほぼ無いので、絶滅業務と言って良いと思います。

2020/04/13

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外為営業の要諦は、貿易協会にあった!?

pic_bank_20200329銀行業務といえば窓口業務を頭に浮かべます。しかしお店の外での営業も立派な銀行業務です。

貸付などはジッと中にいたのでは、ろくな事がありません。時には一日中融資できそうもない人の相手をさせられます。

これでは大口案件や優良案件など夢の又夢です。翻って我が外為も、貸付に比べ事務比率が高いとは言え、やはり外に出なければ商売になりません。

そこで上席は若手に「外で新規を取ってこい!」こう檄を飛ばします。

ここで言う新規とは、外為取引を新しく始めてくれるお客様のことです。預金であれば口座新規、貸付であれば融資新規とも言います。

さてこの外為新規ですが、実は中々取れません。(当たり前お話しですが)先ず対象先が、テリトリー内にそんなにありません。20~30社あれば上々でした。しかしこれらの先も諸先輩アタック済であったり、他行がっちりガード済みで、お客様からけんもほろろ。

更に僚店も訪問中でバッティングしてしまい、「同じ銀行から何度も来るな!」「事前に交通整理してこい!」。
こんなお怒りを受けてしまい、新規どころではない事も何回もありました。要は散々な目に遭っていたのです。

かくてはならじと、街中を歩き回っているたある日、目に入ったのが貿易協会の看板。

貿易協会は勿論知っていましたが、自分は貿易業者でないと、スルーしていました。しかし溺れる者はなんとやらです。ふらふらと中に入ってみると、いろいろな情報が取れそうな貿易関連資料や、貿易セミナーや貿易研修のお知らせがあります。

なんか無いかなぁーとひとりごちていると、貿易協会の会報ファイルが目にとまりました。全ての号ではなかったのですがいくつかの号に、新規会員紹介という欄がありました。そこには新設の会社や転入してきた会社が載っています。これは他では手に入らない良質材料です。思わず「これはイケる!」そう思ってこの欄を必死にメモして店に戻りました。

メモをした各社を銀行オンラインで照会すると、そのうちの1社が当行取引ありと表示されました。(取引なしは純粋に新規です)どこの店かなと見れば、なんと自分の店が取引店です。しかし現実には外為持込はないので、この会社は預金か何かあって、外為はない状態です。

このパターンは他のどの場合よりも新規につながります。はやる心を抑えて、もう少し調べることにしました。調べると預金は有ります。しかし貸付はありません。これは訪問する価値大いにありです。既にお取引頂いているのですから、門前払いの心配もありません。

照会したペーパーを鞄に入れて、早速その会社へと向かいました。幸い社長がおられたので、今までのお取引のお礼を申し上げつつ、直貿の有無を尋ねます。すると商売は豪州ワインの輸入。決済条件は前払いの送金。持込は信用金庫(出資金払込先)。運転資金もその信用金庫から。ここまで分りました。小粒ですが良質案件です。

早速店に戻って上席に概略報告。その場で信用金庫からの取引肩代わり交渉の了解を得ます。ここからはスピードが命です。再度会社に飛び込んで、社長と膝詰めで交渉開始です。社長としては会社立ち上げ時の恩は感じるものの、海外送金が直接ではなくメガバンク経由の発信である点、手数料がやや高い点、処理に時間が掛っている点。これらにご不満をお持ちでした。

そこでこれらのご不満を解消する提案を差し上げたところ、目に見える改善になると大変喜ばれました。そこからバタバタと1ヶ月で、目出度く外為新規獲得となりました。

この会社とはその後も仲良くさせて頂いたので、めでたしめでたしなのですが、「柳の下にいつもドジョウはいない」とはよく言ったもので、それ以降なんど貿易協会に行っても、こんな話には出会えませんでした。

今回のお話しは、タイトルの末尾は!?ではなく?が正解のようです。

参考サイト:
横浜貿易協会
http://www.yfta.jp/ 
神戸貿易協会
http://www.kobe-fta.or.jp

2020/03/29

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新型コロナウィルスと外為

pic_bank_20200324日が経つにつれて深刻の度を深めていく新型コロナウィルス問題。

今回は外為畑の人間から見た、この問題の影響を少しお話ししたいと思います。

案外知られていませんが、銀行の取り扱っている外為には、自己取引はほとんどありません。

自己取引とは自己の勘定で自己のために行う取引であり、いわば自分用の外為取引となります。

それに対して通常の外為取引は、ほとんどお客様からのご依頼です。

つまり外為はご依頼有ってのものですから、ご依頼が無くなってしまえば、何もすることがなくなってしまいます。過去にも戦争や大災害の影響で特定地域や国との外為取引が、消えて無くなったことはあります。しかし今回の問題はそんな限られたものではなく、世界的に影響が出てきています。これはひょっとすると世界的にモノ・カネが止まるのではないか?その結果として外為も無くなるのでは?

こんな悪夢の連鎖反応が頭をよぎってなりません。その前触れでもないでしょうが、三月半ばを過ぎても世界の金融市場は、史上最大とも言うべき大嵐に見舞われています。しかもこの嵐、収まる様子がまるでありません。このまま行くと国跨がりのモノ・カネの動きは全面ストップとならないまでも相当悪くなりそうです。

ではこんな状況下どう対処すれば良いのでしょうか。これは難しい設問です。おそらく正解は無いと思います。ただ現状に近似したものと言えば、東日本大震災が想起されます。この時も世を挙げての自粛ムードでしたが、外為は相手が海外なので、相手は自粛してませんでした。(当たり前の話ですが)

しかし今回は海外も同じような状況です。(むしろヒドイ?)そうなると外為も必然的に影響が大きくなります。場合によっては一年経っても影響が残っているかもしれません。そうなると本当に頭の痛いことになりそうです。

何やらとりとめも無い話になってしまいました。このままではいくら何でもですので、少しまとめてみたいと思います。

皆さん仕事が急減したときはどうしますか。人によってやり方は様々でしょうね。自分だったら小さな仕事をこなしていきます。実績を積み上げるのです。金額の多寡は問いません。仕事を続けることによって、精神面での安定も得ていくわけです。
しかしそれでは入りが不足すると思います。そこで払いを待って貰ったり、資金を借入れたりします。

過去の例から言っても、3年我慢できれば何とかなります。目先の状況で右往左往するのではなく、結局は「正しく恐れて時を待つ」これに尽きると思います。そして世の中がこの災厄を乗り越えて動き出すとき、先ず世界中の金融市場がリスクオンの姿勢を見せ始めます。その時はその流れに乗って動き出せば良いのです。

春の来ない冬はないのですから。

ご参考までに2020.3.20.現在の3メガバンクの状況です。何れも外為の話ではなく、金融支援の話のようです。

三菱UFJ銀行
https://www.bk.mufg.jp/

三井住友銀行 
https://www.smbc.co.jp/

みずほ銀行
https://www.mizuhobank.co.jp/retail/index.html

2020/03/24

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輸入決済に必要だったのは輸出予約だった!?

pic_bank_20200311

どんな職業でもそうでしょうが、思い込みは本当に怖いです。

今回はそんなお話しをと思ったのですが、タイトルだけでは、内容は想像できないと思います。なので早速本題に入ります。

事案はまだ営業店で外為をやっていた頃のことです。その日、とあるお取引先の輸入決済が一件ありました。

事前にその会社から決済依頼書を貰っていたので、その通りに、為替予約による決済を準備していました。

勿論予約番号もしっかりと指示書に記載済みです。何も不審な点はありません。この依頼書に従って、当日OP.するだけです。(OP.とはオンライン端末操作のこと)ところが思い込みにより、事態は思わぬ方向へ行くことになります。(実は記載された予約は輸出予約でした。しかし輸入決済は、輸入予約使用に決まっていると思い込んでました。)

思い込みのまま事態は進みます。発端はOP.エラーです。入力指示書通りOP.しても、エラーが出るのです。最初は「残高不足」のエラーだと、気にもとめません。それでも、担当者はそのお取引先に電話して、口座には入金があるとの、回答を貰って処理を後回しにします。

OP.が一巡してそろそろ入金済かと思い、再度OP.をするのですが、またもエラー表示です。口座には既に残高は十分にあります。そこでエラー表示を改めて見ると、「予約使用エラー」とあります。このエラー表示は、使えない予約を使った場合に出ます。

そこで担当者は予約内容の確認をします。

「履行期日は今日で合っているのか。」
「予約金額より使用金額が大きいのではないか。」
「本当に予約残高はあるのか。」

これらを確認すると期日や金額は合っているが、残高がゼロになっていることが分りました。担当者はお取引先の指示相違と思い込み、おっとり刀で電話します。が、先方からは間違いないとの回答です。確かに他に予約は無いので、間違えようがありません。

この段階で担当者から、どうしたら良いか訴えがありました。話を聞いて私もまさか輸出予約とは思いませんでしたので、わかりません。思考停止状態です。しかし時間は刻々と過ぎます。遅くとも15:15までに終わらねば、決済自体が今日できなくなってしまいます。そこでやむなく本部に事態説明をして、助けて貰う事にしました。

私が本部に電話して、予約内容を説明し始めたところ、ふとこの予約が、輸出予約であることに気がつきました。瞬間、目の前が真っ暗になりました。正確には紫色の輪が目の前を包んで、見えなくなったのです。

「やばい。間違えた!輸入予約と輸出予約を間違えて、当初締結してしまった!」

とにかく状況がはっきりしたので、本部の助けは要らなくなりました。不審がる本部担当者との電話を早々に切って、必死に考えました。

「残高がゼロになった理由が知りたい。そうか、裏書き明細だ!」

裏書き明細とは予約取引の明細のことです。それを見るとなんと今日の取引に使われて、残高がゼロになっていたのです。その取引はと見れば、外貨預金からの円転取引でした。(円転とは外貨を円貨にする取引です)これは確かに輸出予約を使います。そして入金された口座は、決済資金を引き落とす口座でした。

ここまで突き止めると、頭に一つのストーリーが浮かびました。その瞬間、電話に飛びついてお取引先に、

「依頼書に書かれた予約は外貨預金からの円転に使い、決済そのものはいつも通り、スポットで決済ですね。」

こう一気に喋ったのです。

お取引先からの返事は、「そうですよ。○○さん(銀行担当者)にはそう言いましたよ。」と、えらくのんびりした調子です。そこで電話を切って、すぐにスポット決済の指示をしました。すでに時刻は15:15を過ぎており、本部から外為勘定が締められない。との怒りの督促がホットラインから流れていたのです。

平謝りに謝って、なんとか一連の処理を終えると、外為全員、口もきけないぐらいグッタリしていました。
結果なんとかなったものの、今思い出しても、冷や汗しか出ない出来事でした。

2020/03/11

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社員持株会をよく考える

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皆さんの会社では、社員に自社株式の購入を勧めていますか?

もしそうであれば多くの場合は、社員持株会制度を採っていると思います。今回は外為を離れて、この持株会制度を考えてみました。

私が銀行に入った頃は、自分の資産形成手段として、NISAもiDeCoもありませんでした。あったのは社員預金と財産形成預金、そして社員持株会でした。どれを選んでも良いし、全部をやっても良い仕組みでした。

しかし前二者と社員持株会では性格が大きく異なる上に、使い勝手も大きく違っており、有り体に言うと持株会は不人気でした。何せ当時の社員預金は素晴らしい金利で、10年おけば2倍も夢じゃない。こんな金利でした。財形預金も負けてません。利子補給がある上に、非課税制度が使えるので、利息に税金が掛らなかったのです。

これらに比べれば持株会には奨励金はあるものの、先輩に聞いても、持ち株引き出しは簡単にできない。一度始めると中々止められない。配当が出ても再投資されるので、自分の手元に入らない。等々。散々な言われようです。

そのせいか同じ営業店に配属になった他の新人二人は、持株会に見向きもしませんでした。そこで困ったのが当時内部担当だった副支店長です。新人が会議室に3人集められて缶詰状態となり、そこでいかに持株会が素晴らしいかを聞かされたのです。曰く、持株会制度は立派な福利厚生制度である。

又曰く、銀行の企業価値向上で株価が上昇すれば、給料も資産としての持ち株も一緒に増えてくる。更に曰く、何より諸君らのロイヤルティ発露の場になる。このように優れた制度であるので、是非前向き検討せよ。このように懇々と諭されたのです。

それでも他の二人は無い袖は振れぬと、加入はしませんでした。で、私はと言うと、素直に言を受け取ってしまい、上限額一杯で申し込んでしまったのです。爾来、銀行退職の月まで退会せずに掛け続けました。始めてからしばらくは、給料も上がるし株価も上がる。まさに副支店長の明言通りだったのです。私としても本当に始めて良かった。そう思ってました。

しかし結果はどうなったと思いますか。残念ながら、信じられないぐらい悲惨な状況になってしまったのです。ご承知のように、銀行業界はバブル崩壊後大変なことになりました。株価は正直です。見事なまでに下落していきました。株式投資をやっている人なら、こんな時ロスカット(損切り)を、迷わず実行すると学んでいるはずです。

しかし、持株会の持分引出理由に、「株価下落」なんてありませんでした。当時は下がっていくのを、ただ指をくわえて見るだけでした。しかも現在の3メガバンクに至るまでに、いくつかの合併がありました。合併時に保有株式を新銀行株式に交換するのですが、自分の所属する銀行が吸収される側ですと、旧銀行株1に対して、0.8とか0.7株しかもらえません。

これをやられてしまって、大きく目減りしたのです。なんやかやで結果は増えるどころか、入行以来の持株会拠出金合計を大きく下回り、7桁から8桁の境目位の損を計上してしまったのです。

投資は自己責任とは言え、随分高い授業料となりました。

今皆さんに言えるのは、持株会はほどほどに。ということになると思います。

参考HP:日本証券業協会・持株制度に関するガイドライン
http://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/houkokusyo/h20/mochikabu.html

2020/03/02

貿易と銀行実務いろは一覧

貴社(あなた)のお名前は何ですか?

pic_bank_20200227突然ですが、もしも銀行の窓口で、窓口担当者から、「貴方がお勤めの会社。お名前は何ですか。」こう聞かれたらどう答えますか。

答える前に質問内容の唐突さに、あっけにとられるのではありませんか。

実は外為担当者は、こんな質問をお客様にすることがあります。もちろん冗談や暇つぶしではなく、大まじめの話なのです。

と言ってもこのお話しは、このままでは正確性に欠けています。

銀行担当者は、質問の前ふりに英文字ではと付けているつもりなのです。銀行によっては、ここを英文社名と呼ぶところもあります。

でもなぜこんな質問をするのかと言えば、海外では漢字やかなは使えません。基本はアルファベットです。となると会社名も必然的にローマ字表示する必要があります。そこで先述のような質問が飛び出してくるわけです。こんな質問を受けた社長さんの中には、エイヤとばかりに日本語社名を、そのままローマ字表現する。こんな思い切った方もおられました。

それでも、普通はそれらしい英文社名を出していただけます。たとえば「らくらく貿易株式会社」であれば、「Raku Raku Trading Co.,Ltd.」こんな感じです。

日本の会社は多くの場合、地名や人名を冠している場合が多いので、英文社名も多くの場合は似たようなものになります。 一つの営業店では外為先はせいぜい100社ぐらいですので、重複は余り考えなくても良いのですが、外為センターになるとその数が数千の単位になりますので、同じ社名、似た社名がどうしても出てきます。

勿論、対策は取っていました。「同名社名リスト」、「類似社名リスト」と呼んでいましたが、間違えそうな社名のリストを用意するのです。加えてオンライン上にも注意喚起の旗を立てる。これもやってました。しかしこれでも社名を間違えてしまう事はありました。つまり口座相違のリスクはゼロにならなかったのです。

会社の定款で英文社名を定めている会社は、途中で変化するとことは先ず無いのですが、そうでない会社はいつのまにか英文社名が変わっていた。こんな嘘のような本当な話もありました。

そんな中でも一番困ったのが、和文社名も同じなら、英文社名も同じというパターンです。銀行の内部処理としては、お客様毎に識別番号をつけるので、お客様からの依頼であれば、混同する恐れは先ずありません。しかし海外からの送金や書類であれば、こちらの識別番号を、先方銀行が知るわけもありません。

どうしても判別が付かないときは、これはと目星を付けた会社に、送金や書類到着の予定の有無を聞いていました。これが大変に気を遣う仕事でして、余り細かく内容を話すと、もし違っていたときに情報漏えいと言われかねません。しかしクイズではあるまいし、ヒントを一つ一つなんてことも出来ません。

結局お客様とは阿吽の呼吸でやっていた。というのが本当のところです。

今回は英文社名にまつわるお話しでした。

参考サイト:法務省ホームページ「商号にローマ字等を用いることについて」
http:///www.moj.go.jp/MINJI/minji44.html

2020/02/27

外為の計算書。銀行の思いとは?

pic_bank_20200218外為に限らず銀行取引をすれば、お客様の口座が動くので、その取引証明のために計算書が出来上がります。

この計算書は取引毎に必要になります。銀行に取って、その発行負担は半端ではありません。

今回は外為の計算書に着目して、お話しを進めたいと思います。

実は銀行の計算書フォームはまちまちです。これは外為システムが銀行によって異なっているためです。

しかし計算書自体は、概ね一つの取引に一枚出来上がります。銀行端末で勘定処理をすると印字されてきます。

通常は伝票や取引明細や証認印刷と同時に作成されるます。出来た計算書ですが、次はお客様に交付しなければなりません。この交付方法が昔から難問なのです。

一番簡単なのは、店頭でお客様に直接お渡しする方法です。昔は国内取引も外為取引もこの方法でした。しかし事務集中によりセンター処理が増えてきたのです。こうなるとお客様に、センターにまで取りに来いとは言えません。そこで郵送となります。ところがこの郵送処理。大変な手間なのです。

相当程度処理件数があれば、機械処理も可能なのですが、外為の場合は国内ほど取引件数がありません。機械化をしても費用対効果が悪い。こうなってしまうのです。そこで考え出されたのが、紙での交付は止めてしまうのことです。その代わりは何かと言えば電子交付と呼ばれる、オンライン上での計算書閲覧可能なシステムです。これは銀行に限らず、他の企業でも紙媒体の廃止となって現れています。

さて電子交付の売り文句は、
・郵送に比べて早く結果が分る
・郵便事故、紛失事故が無い
・事後保管が容易
こんな所です。

近頃この手のサービス利用勧奨が、増えている気がしませんか?

これは勿論受け取り側のメリットだけでは無く、銀行側の事情や思惑があるのです。外為の計算書も例外ではありません。郵送費がかさむのも本当ですし、計算書発送要員も必要です。加えて機械化されず腕力頼み(人海戦術とも言いますが)ですと、どうしてもヒューマンエラーが避けられません。

実は此処で発生する情報漏洩が、一番頭が痛いのです。何のことかと言えば、
・早い話が他社計算書の混入(別の会社の計算書が紛れ込む)
・宛先相違による誤発送(開けてみたら別の会社の計算書だった)
・発送漏れ(いつまで経っても計算書が来ない)
等々です。

これらのリスクを一発で帳消しにしてくれる、「計算書の電子交付」これは大きな魅力です。銀行があれこれとインセンティブを付けて、勧めてくるのはそんな背景があるからなのです。

銀行の思いを感じていただければ幸いです。

2020/02/18

これって脱税!?(印紙の話)

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世の中には、何でこんな事に税金が掛るんだろう?

そんな例があります。今回お話しする印紙税もその一つです。印紙は契約にあたり取り交わす書面上に、貼る切手みたいなものです。

契約自由の原則があるので、印紙税のことなど気にせずに、自由にやれば良い。これ本音ですが実は外為関連で、過去ウーンと唸るような事例が発生しました。

我々はそのことを本部からの連絡で知ったのですが、当事者だった銀行は本当に大変だったと思います。

今回はそのお話しをしたいと思います。今回の件で焦点となったのは、お客様作成の荷為替手形です。この手形は輸出書類と共に、銀行に持ち込まれるのが通例です。この手形、振出人は輸出者です。一方印紙税の納税義務者は、手形作成者(金額等を記入した人)です。為替手形は約束手形に比べてやや複雑で、納税義務者が振出人或いは引受人の場合があります。

しかし此処では実務的に考えると、輸出者が印紙を貼る事になります。銀行によっては自分の所で貼って、お客様に請求する事もあるようです。しかし本件はあくまでも、お客様が貼ってこられた手形のお話しです。

この外為に用いる荷為替手形で必要な印紙は200円です。これは印紙税法でそういう取り決めがなされているからです。ただ200円となるには、いくつかの条件を満たす必要があります。ここを単純に「外為=200円」と考えたために、問題となったようです。

さてその条件ですが、一つは外国通貨で金額を表示することです。簡単に言うとUSD100,000.00とかEUR123,000.50のようにするわけです。これには例外は無いので、何も考える必要はありません。

もう一つは非居住者円表示をした円建て手形です。これは円建てであっても、国内円では無いことを明示すれば、外国通貨建てと同様な取り扱いをして良い。こう当局が決めて輸出振興に役立てようというわけです。この非居住者円表示は、手形表面に印刷やスタンプ等で表示します。

これが無いと円建て手形は原則に立ち返って、階級定額税率が適用され、例えば1億円であれば、2万円の収入印紙が必要となります。200円と2万円の差は大きいです。(他にも10万円未満は非課税。円建銀行引受手形は200円などの規定があります。詳しくは印紙税額表の3号文書の欄をご覧下さい。)

参考サイト:印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7140.htm

さて問題は、この非居住者円表示がない手形があったのです。ことはある大商社の税務調査に端を発します。この税務調査で印紙税の調査も行われました。いろいろな契約書と共に貿易関連書類も調査を受けました。すると貿易関連の印紙納付が全て、一律200円で処理されている。

これに担当官が気付いたのです。そこで担当官が一律処理の根拠を尋ねたところ、銀行からそうするように指導を受けたと回答したようです。不審に思った担当官が裏付け調査として、その銀行に非居住者円表示について確認を求めました。問い合わせを受けた銀行が外為センターに確認したところ、非居住者円スタンプ押捺不徹底が発見され、大騒ぎとなったようです。

この件その後どうなったのか。過怠税を取られたのかなど。詳細な顛末は不明ですが、余りにも稚拙な銀行対応に不信感を持ったこの商社が、この銀行との取引関係を見直した。こんな話を後で聞きました。

たかが収入印紙されど収入印紙のお話しでした。

2020/02/13

会社を絶対に潰さない社長の「金言」100(プレジデント社)から

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プレジデントオンラインというサイトがあります。

採りあげられる題材は大変多岐にわたる内容で、しかもタイムリーなものが多く見られます。

一読して「フム。フム。」読み返して「なるほど。なるほど。」

更に紙に落として熟読。熟読。こんな具合に大変楽しみにしています。

さて最近このサイトに『会社を絶対に潰さない社長の「金言」100』(プレジデント社)という本からの、引用記事がありました。

内容は大変に面白く、顧客目線の記述にも大変惹かれました。

今回はこの記事への、銀行員から見た感想を記してみたいと思います。私の話で興味を持たれた方。宜しければサイトを訪問下さい。或いは実際に書籍を手にとって頂ければと思います。(ちなみに私は、著者や出版社とは一切利害関係はありません。)なお本文は外為担当からの目線です。その点お許しください。

PRESIDENT Online: 連載『会社を絶対に潰さない社長の「金言」100』
https://president.jp/category/c02579

【金言25:取引銀行“一行主義”では行き詰まる】
まずこの金言から見ていきます。会社規模にもよりますが、社長さんの中には銀行はメインとサブが必要。こう考える社長さんが多いようです。しかし一方で、小規模な企業で外為を複数の銀行に持ち込んでいると、どこの銀行でも大したボリュームになりません。こういった時、その会社は銀行から見て「その他一般先」となります。(銀行によっては「雑取引」と呼ぶこともあります。スイマセン。。。)

これでは営業努力の甲斐あって大口の話が出て来ても、肝心の銀行がどこも話に乗ってくれない。こんな状態になりかねません。もし一行しか取引が無ければ、銀行もそういった取引先を、「一行先」とセグメントして、基本逃げないようにしています。融資と外為は違いますが、銀行を増やすときは慎重に。これがアドバイスとなります。

【金言26:メインバンクは頻繁に変えるな】
これには双手を挙げて賛成します。特に自社の成長に合わせて、メイン銀行を信用組合や信用金庫から、地方銀行やメガバンクにする場合は格別ですが、横にスライド、或いは逆に下げる。こんな場合は要注意です。

外為の場合は特にメガバンクとそれ以外では、使い勝手が大きく異なりますので、通常メインは簡単には交替しません。ただ複数行を同順位のメインにすることは良くあります。いずれにしても、メインバンク変更は慎重さが必要と言うことです。

【金言29:銀行訪問は幹部社員を同行させよ】
これには思わず涙が出そうになりました。これは金言と思います。相当規模の会社でも銀行を訪れるときは単独。これ結構有るものです。しかしお一人の来訪では、たとえその方が社長さんであっても、うんと言って頂いたことでも、念のため別途経理部長に確認する。

こうなります。特にこちらからのお願い事はそうでした。その点この金言にあるように、社長と担当役員の連れだっての来訪。これならその場で話は完了です。しかし実際にこのパターンの会社はかなり少数派でした。お二人での来訪。これは大変に有難かったです。こちらも支店幹部と担当者(若しくは直属上司)でお相手しました。

ここまで記しましたが意外に紙幅を費やしましたので、今回はこの辺で終わりにします。

画像出典元:
https://presidentstore.jp/category/BOOKS/002340.html

2020/04/27 更新
おすがっぱ

3メガバンクの外為状況。外国送金を例に

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12月の時事通信で「銀行業界で広がる手数料引き上げ」との、記事が報道されていました。

この中には口座維持手数料検討、硬貨入金手数料の新設など、今までタブーに近かった施策が、今や俎上にある事が分りました。

この流れで3メガバンクの外為業務は、今どうなっているのだろう?気になってきました。

そこで今回はこの点について、外国送金を例にとってお話ししてみたいと思います。

まず3メガバンク共通なのは、現金による外国送金は出来ない点です。これはその銀行に口座を持たない送金依頼者が、銀行の窓口に来ても送金依頼を謝絶する。こうなるわけです。

ではその銀行に口座を持つ人が、現金で送金したい場合はどうなるのか。ここで対応が分かれるようです。三菱UFJと三井住友は、誰であっても現金は受け付けないようです。みずほは明言してませんが現在でも受け付け可能なようです。

次にどこの店が受付可能なのかです。

三菱UFJは対応可能な店舗を地域毎に掲載しています。ざっと見た限りではかなりの店が送金不可の印象です。また個人事業主や法人の顧客が対象のようですが、店頭備え付けのテレビ電話への誘導文言も見られました。

このテレビ電話は私も利用したことがあるのですが、直接対面方式(早い話が通常の窓口取引)よりも、かなり使い勝手は落ちますが、外為知識の乏しい窓口担当者と、やり取りをすることを思えば、正直雲泥の差です。

次に三井住友はどうでしょうか。HPを覗いてみてかなり衝撃を受けました。2020年1月20日から外為関連業務を取りやめる店のリスト。こんなものが掲載されていました。開けてみると全国各地のお店が、該当店として載せてありました。どちらかというと個人主体の小さいお店が多い印象です。しかし個人主体だから外為は無い。とまでは言えません。

随分と思い切ったことだなーと感じたのですが、よく考えたらその昔、外為がお上によって制限されていた頃、外替取扱店と非外為取扱店に分かれていて、非外為取扱店は、外為が出来なかった事と似てることに気づきました。これも歴史は繰り返すということでしょうか。

最後にみずほですが、表現として一部の営業店・出張所での外国送金の取り扱いは無い。こう記述しています。それなりのお店が、まだ取り扱いを行っていることを伺わせます。

最後に手数料ですが三菱UFJと三井住友が同水準。みずほがやや安くなっています。3行共に店頭>ATM>ネット取引の順に安くしており、既に来店誘致型から来店回避型へ、そのスタンスを大きく変えています。今後もこの傾向は強まっていくものと思います。

2020/01/25

銀行はなぜ船積B/Lを欲しがるのか

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B/L(船荷証券)には、Shipped B/Lと呼ばれる船積船荷証券と、Received B/Lと呼ばれる受取船荷証券の二種類があります。

何れも輸出貨物を船会社に引き渡した証明書の位置づけです。輸出者としてはこれを貰って、ヤレヤレと一安心だと思います。

そしてこのB/Lを他の輸出書類と共に、銀行に買取に持ち込みます。ところが受取船荷証券だと、銀行の買取拒否を受ける場合があります。

今回はその辺の事情をお話ししたと思います。

予めお断りしておきたいのですが、今からお話する流れは銀行都合の流れであり、貿易実務上の合致するものではありません。よって皆さんの目から見れば奇異の感があるやもしれません。その点お含み置き下さい。

船積船荷証券と受取船荷証券の大きな違いは、文字通り船荷を船積みしたか(単に)受け取ったかです。銀行がL/C付きであれ、D/P・D/Aであれ買取に応じるのは、輸出貨物を買取債権の担保にできるからです。外為実務上は更に買取依頼者には、DRFT(為替手形)を振り出して貰い、手形債権も確保します。

さてこの買取債権ですが一番大切な書類は、有価証券である船荷証券です。だとすれば船積・受取どちらでも船荷証券には変わらない。買い取りして貰うのもどちらでも構わない。こうなると思います。

ところが銀行は少し考えが違います。船積船荷証券は文字通り船積が証明されており、輸出貨物は相手国に向けて出発している。それに対して受取船荷証券は、単に船会社は受け取っただけで、船積が証明されているわけでは無い。だから船積船荷証券は輸出書類として受理できるが、受取船荷証券は輸出書類としては不完全である。

もし受取船荷証券で買取を希望するのであれば、「On Board Notation」 (積込証明)を付記する必要がある。このようなロジックから、受取船荷証券の買取を拒否するのです。しかしよく考えてみると、両者を峻別する必要性は??です。

受取船荷証券でも後続事象として、船積を当然に予定しています。倉荷証券が寄託物の譲渡や質入れなどの処分行為を予定しているのと、
流れは同じだと思います。更に船荷証券では、貨物の到着確認迄は出来ません。と言うか相手国に到着前に買取に持ち込むので、形式面からも実体面からも、到着確認は無理な相談になります。

だとしたら貨物を担保に出来る点では、船積船荷証券でも、受取船荷証券でも同じだと思いますので、両者峻別の考えはペーパーレスの流れから言っても、残らなくなるのではと考えます。

ま、実務上はそれ以上に船積証券自身が変化しているようです。

以上、船荷証券のお話しでした。

2020/01/20

L/C(信用状)を無くした!どうしよう

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先日講義をした会場で「もう終わった話なんですが。」との前置きで、L/Cを受け取った後、社内で紛失してしまった。こんな話題が出てきました。

既に解決済とのことで、やり取りはそれ以上ありませんでしたが、皆さんにもお役に立つのではと思い、対応方法について採りあげて見ることにしました。

先ずL/Cの紛失ですが、昔に比べるとうんと少なくなりました。ただ今でも今回のように、社内で無くなることはあり得えます。そこで対応方法を順番にお話します。

【対応策その1】取り消して新規発行してもらう
先ずは教科書的には、これになると思います。L/Cは基本全て「取消不能信用状」です。しかし当事者全員の合意で、取消は可能になります。ここでいう当事者とは、発行依頼人(輸入者)、発行銀行、そして受益者(輸出者)の三者です。

この三者が取消に合意して、紛失した信用状を一旦ない物とします。その上で今一度、別L/Cを新規に発行して貰うわけです。ただこのやり方は煩雑な上に費用も掛ります。実際、私もやったことは一度もありません。画餅といえます。

【対応策その2】取消はせずに再発行して貰う
既に発行された信用状の状態はそのままにして、関係者全員の合意で、同内容の信用状を発行して貰うのものです。具体的な流れはよく知らないのですが、おそらく接受銀行のデータで、再発行されるのだと思います。ただ紛失した信用状を善意の第三者が取得した場合、係争となる可能性があります。

が、当該第三者は自らを正当な権利者として証明し得ないと、考えますのでこの方法は実務的にはあり得ます。私も再発行された信用状を見たことがあります。

【対応策その3】信用状の写しで買取して貰う
その1その2と異なり、この対応策では輸入国サイドは関与しません。あくまでも受益者(輸出者)の特別な依頼に、買取銀行が応じる形です。

大まかな流れは以下の通りです。
(1)輸出者が接受銀行から信用状の写しを貰う
(2)船積書類と信用状の写しを買取銀行に持ち込む
(3)買取銀行でチェックの上、船積書類を海外発送する
(4)信用状写しは輸出者に返却される
(5)海外発送された船積書類を、発行銀行がチェックする
(6)問題が無ければ決済が行われる
(7)買取銀行は決済金を受領する
(8)同時に輸出者への買取与信を引き落とす(ファイル・クローズ)

この対応策のポイントは、(1)~(7)の間で信用状原本を最も必要とする買取銀行が、これで対応可能ならば、一番時間と費用が掛らないのです。実際に原本が他行保管のため信用状写しだけ提示。こんな状況は良くありました。(意味合いは違うかもですが)

如何でしたかご参考になれば幸いです。

2020/01/06

1円違ったら銀行員は徹夜する、外為も!?

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都市伝説のようなものですが、銀行員の堅物ぶりを表す言葉です。では実際はどうなのか。外為目線も交えてお話ししていきます。

まず「1円違う」とは何のことでしょうか。

これは日計表の収支不一致を、極端な表現で表しているのです。

銀行は日々の勘定を、営業店毎に集計します。銀行全体の勘定はこの合計というわけです。

さてこの営業店の集計ですが、窓口営業が終わってから始めます。

一般的には15時過ぎ開始で、早ければ15時30分には結果が分ります。勘定が合えば、「一算合命」(いっさんごめい)とパチパチで終わりです。ところがここで不一致となると大変です。最初は「又かよ」位なのですが、いつまで経っても合わないと、店にいる全員で原因探しが始まります。

これが長引くと「徹夜する」ですが、実際はそこまでではありません。

まず大きく分けて現金勘定と振替勘定を調べます。現金勘定には外貨と円貨が有るのですが、扱い量が全く違うので、外貨で手こずることはありません。円貨は、窓口毎に出入りが分るので不一致原因は絞れます。残った振替ですがこれはもう一度取引を再現させるべく、入金伝票と振替伝票を付き合わせる作業をします。

以上の作業を手分けして行えば、夕食には間に合うように帰れました。ただ昔は全て手作業だったので、これらの作業全てに時間が掛り、結果として遅くなる。なんて事はありました。昔の話です昔の。

ここまで書き進めて、そう言えば外為が原因の不一致で、相当時間が掛ったことを思い出してしまいました。このコラムでも何回か書きましたが、外為勘定は全て円貨換算します。この場合の端数処理に注意が必要になります。端数を集めると1円になる場合は、1円の伝票が必要になるのです。

この処理、普通はオンラインで円貨が自動計上されます。ところがごく稀に自動計上がされないことがあります。その時には金額欄に星印が出ます。注意マークです。しかしこの星印、入出金を別々に起票した場合にも出てきます。この時は星印を別々に起票したせいだと思い込み、円貨調整をすっかり失念してしまいました。

折角の星印を単なる片振り伝票と思い込んだのです。結局この時は外為伝票を、全て手計算で数え上げるという荒業をして、なんとか発見することが出来ました。

今はほぼ無伝票化しているので、こんなことは無いと思いますが、なんとも大変なことでした。

2019/12/16

もうたまらん。外為担当者を代えてくれ!

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銀行と外為取引していると、専任の担当者が付く場合があります。

別に担当者なぞ要らないのですが、なぜかそうなるようです。この担当者制ですが、上手く使えば顧客にもメリットは十分あります。

しかし上手くいかないと大変です。かなり悲惨な状況になります。最後には掲題のような、悲痛な叫びになるかもしれません。

今回はそうならないためにどうすれば良いか、場合分けをしてお話したいと思います。

1. 担当者が新人、あるいは新人では無いが外為に詳しくない場合
この場合の処方箋は比較的明らかです。もしご自身の所属会社が一定規模の外為先であれば、銀行サイドであえて、そんな若葉マークを担当者にした可能性があります。この時は担当者変更では無く、その担当者へのサポートを要請します。具体的には担当者の上司に、直接に話をしてください。

対応策として、外為が分る人間を副担当者に付ける。上司自身が直接サポート役になる。こういったことをしてくれると思います。(不肖私も、何十回となくサポート役を努めました。)

2.外為経験者だが「馬」が合わない
この場合は微妙です。なぜなら銀行の勝手な話で恐縮ですが、顧客申し出による、担当者変更は原則しない。こんな考え方がバックボーンとしてあるからです。その結果、皆さんがかなりきつく申し入れをしても、言を左右にされて全く埒が明かない状況となります。

当人のチョンボで皆さんが損をした。これぐらいでも無いと、銀行からは具体的な反応無し。こうなると思います。では泣き寝入りしかないのかと、絶望的になるかもしれませんが、手間と時間は掛りますが、以下の方法にトライしてみてください。

100%解決の保証は出来ませんが、少なくとも現状よりは、良くなるのではないでしょうか。

(1) 銀行担当者の自社来訪のハードルを上げる
要は銀行担当者が、自社に気軽に来られないようにします。つまりその担当者の来社アポイントを、業務都合を理由に断わります。もし何時ならお邪魔できるのかと聞かれても、ちょっと目処が立たない。と答えておきます。そして用事があれば、こちらから銀行に行くと付け加えます。この発言は相当効き目があります。

(2) アポイント無しの来社には、下位職位者で対応する
顧客から上記の反応があった場合、次に銀行が取る対応は、アポイントなしでいきなり来社してくることです。この場合は担当者が単独であれば、通常対応している人より、下位の職位者が応接し業務多忙言い込みつつ、何かあればすぐ銀行へ行く旨伝えます。

また上席者が同行していれば、通常通りの職位者で応接します。そして話をする内容は、担当者単独の場合と同じです。これで銀行側もほぼ状況を掴むことが出来ます。(私にも複数経験があります)そこで銀行は次の対応を取ります。(期待も込めですが)

(3) 時間をかけて実質的な担当者交替を勝ち取る
上記(1)・(2)の対応は我慢比べみたいですが、確実に皆さんの気持ちは銀行に伝わります。そこで銀行からのリアクションですが、次の対応が期待できます。

他の外為担当者の異動や、新年度スタート時点などを捉えて、外為担当先の見直しを実施、ここに顧客意向を潜ませる。結果として馬の合わない担当者はいなくなる。この手順です。

如何でしょうか。銀行担当者は選べませんが、それでもなんとかしたい。こうした切実な思いに、お役に立てればと思いまとめてみました。

2019/12/17

【速報】ゆうちょ銀行は外為をやめるのか!?

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ゆうちょ銀行が先月28日(2019.11.28)のお知らせで、国際送金に関する改定を発表していました。

サービスの見直しについてなのですが、素直に読むと外為からの撤退と、受け取られかねない内容です。

正直ビックリしてしまい、そして考え込まされました。今回はこの件についてお伝えします。

1. 法人取引はどこへ行くんだろう

お知らせの文末の方に2020年3月末で、国際送金は終了。とあります。

ゆうちょ銀行は郵便貯金が元々ですから法人取引は不得手。これは事実だと思います。確かに輸出入の取り扱いはありません。海外からの被仕向送金もドイツ銀行経由で、通貨も米ドルかユーロ限定のようです。今回は是に加えて仕向送金も取り扱いをやめるようです。んー。こうなると法人取引からは撤退。こう解釈せざるを得ません。

2. 個人取引はネット取引に限定!?

ゆうちょ銀行における海外送金(ゆうちょ銀行では国際送金)取扱窓口は、減少傾向です。

更に今回は窓口扱いの手数料を引き上げてきました。4,000円を7,500円にです。ほぼ倍になるわけです。これはすごいと感じました。一方ネット取引(ゆうちょ銀行ではゆうちょダイレクト)では、2,000円が3,000円なので、窓口扱いよりもましです。

しかしビックリしたのはその後で、為替手数料と称する、外貨と円貨の通貨交換時の売買利ざやについてです。変更前の水準は米ドル約1円。ユーロは約1.5円と、一般の銀行と似たような水準です。(但し一般の銀行は「約」などとアバウトではありませんが)

これが変更後は軒並み1円上乗せです。これにはビックリです。本来外貨の調達コストは通貨によって異なりますし、為替レートの変動幅も違うので、為替手数料で変動リスクをカバーするのなら、通貨毎に違って当たり前です。それが理由や説明も無く一律上乗せです。ちょっと乱暴な気がします。

3.最後に正直な感想です

冒頭記したようにゆうちょ銀行は、郵便貯金はその母体です。法人や営業性個人が主体の外為取引との、親和性は薄いのは事実です。今回の発表もメガバンクの持つフルバンキング機能装備を、目指さないとの事実上の宣言。こう考えるのだと思います。

この頃特に言われるようになりましたが、もはや「銀行」には金看板は付いていない。こう断言できる寂しい状況を表す、象徴的な話なのかもしれません。

2019/12/05

月が変わると、L/C枠が無くなっていた!?

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新規オープンも増額のアメンドもしてないのに、月が変わるとL/C枠の残高がなくなっていた。

こんな不思議な話が外為の現場ではたまに起こります。

お客様でもご存じの方は何気にスルーですが、余りご存じないとの方は、銀行が勝手に枠を廃止(or減額)したと思い込んで、銀行に飛び込んで声高にクレームの仕儀と相成ります。

我々としてはこうなる前に、誤解を解きほぐさねばなりません。今回はこの不思議?な仕組みを説明したいと思います。

さてお客様を大不信に陥らせたL/C枠ですが、勿論、実際に消えたわけではありません。枠そのものは存在しています。ではどうなっているのでしょうか。

実は月が変わったので残高が増えて、枠一杯になってしまったのです。利用可能残高が無くなった状況なのです。

ここで皆さんは何故月替わりが残高に影響するのか?理屈がサッパリ分らん。こうお考えになると思います。これは当然の話です。そこでここにポイントを置いてお話しします。

枠が消滅してしまう条件は以下の2点です。

1. 与信対象通貨が円以外(例.USD,EUR)
まず100%この前提が必要です。

2.与信対象通貨と円貨の換算レートが円安方向になった
これも必要な条件です。この2条件が満たされると枠はどう動くのか。説明していきます。

まずL/C枠は通常円貨申請です。「極度100万円相当円貨」と言った具合に円貨で稟議を作成し認可を得ます。この枠をお客様に利用して貰うのですが、外貨建てのL/C開設依頼があれば、外貨を一定の換算率で円貨換算し、枠の残高に加算していきます。L/C決済が済めば逆に減算します。

つまり枠の残高は、お客様の意向とは無関係には増減しません。ところが唯一勝手に増減するのが、換算率が変更なる場合です。銀行の場合これが毎月発生します。この換算率は前月最終営業日の仲値が用いられます。

前月仲値が前々月の仲値と比べて円高方法に動けば、同じ外貨額でも円貨は減少します。逆に円安方向に動けば、外貨額は変化無いのに、(つまりお客様は無関係なのに、という意味です。)円価額が大きくなり、枠が一杯或いはオーバーになります。

この状態でお客様が新規L/Cをお持ち込みになると、残高が無く開設できない。こうなってしまいます。前日までの枠残高が突然増加しているのです。

お客さまにしてみれば「そんなこと聞いてないよ」の世界だと思います。もちろん銀行もこの事情を押しつけるわけにも行きません。

そこでL/Cの有効期限切れを見つけて、残高キャンセルをしたり、開設そのものを繰り延べして貰ったり、と苦心するのですが、たいていは無理筋の話となり、最終的には極度一時超過の稟議を、書くことになります。

この手の稟議は例え本部稟議であっても、認可は下りるのですが、ほとんどの場合認可条件に、「枠管理徹底のこと」がついてこの条件を見た上席から、叱責を受けるという嬉しくないイベントがお約束でした。

いまでも月初円安になっていると、枠オーバーの夢を見ることがあります。

2019/11/26

外為勘定について

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今回は外為業務で用いる勘定についてお話しします。やや面白みに欠けるかもしれませんが、お付き合いのほどお願い致します。

さて銀行の勘定は大きく分けて、顧客勘定と銀行勘定になります。

普通の会社では自社の勘定以外は、持っていないと思います。二つの勘定を持つ銀行は、有る意味特殊な存在と言えます。

今回のお話ししたい外為勘定は、もちろん銀行勘定の一部です。

行内的には銀行勘定は、国内勘定と外為勘定に分けていました。しかし、日々の総勘定元帳には、一覧表になっていましたから、行内区分は単なる区別程度とも言えるものでした。また勘定項目自体は一般の企業会計と大同小異ですが、経過勘定(いわゆる会計用語のそれとは異なります)の存在が、特色と言えば特色でした。

この経過勘定は早い話、顧客勘定と海外銀行の勘定を結ぶ物であり、最終、個々の残高はゼロになるべきものでした。例えば海外送金を受け付けたとします。その際の資金の流れはざっとこうなります。

まず送金資金相当額の資金を顧客勘定から引き落とします。通常は手数料も同時徴求です。そしてこの送金資金は、外貨建てであれば外貨売渡外国為替、円貨建てであれば邦貨売渡外国為替に入金されます。

この資金はこれから先、送金ルートによって処理が異なります。多数派のUSD建てだと、NYのコルレス銀行の自行口座に入金する。これがメインパターンです。よって外国他店預けに入金します。

また円建てならば送金相手の銀行が口座を持つ、他の邦銀(自行の場合もあり)に、日銀円決済で支払を行います。また相手銀行の口座が自行にある場合は、直接その口座に入金して終了となります。

これら一連の処理はオンラインなので、入力指示と入力処理が正しければ、何の問題も起きません。しかし全てが完全とは行きません。不都合が発生する場合もありました。この不都合状態を勘定不突合と読んでいました。具体的には入金に見合う出金が無い。或いは入金がないのに出金がある。何れも突合が出来ない状態です。

こんな時、本部ではリコンサイルと呼ばれる人達が、その不突合解消に当たります。多くの場合不突合はその段階で解決できるのですが、やはり残る物もあります。

そうなるとリコンサイルの人達は、各方面に調査依頼をかけます。これが営業店に回ってきた場合は、要警戒な出来事でした。つまり不突合の対象に顧客勘定が含まれているのです。本部から来た調査依頼書に基づいて調べるのですが、仕向送金なら仕向相違、被仕向送金なら二重払い。

これらが最も危険な事例です。ほとんどの場合は自分たちに落ち度はなく。「調査結果:異常無し」で回答出来ましたが、当時調査依頼がかかる度に、心臓がドキンとしたものでした。

2019/11/15

こんなキーワードに遭遇する銀行員(後編)

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銀行員は毎月こんなキーワードに遭遇しています。前回の続きで後編となります。

【7月】 夏休み
普通の会社はお盆前後に、集中して夏休みを取ると思います。

銀行では一斉は流石に無理なので、夏休みは交替で取ります。

特に時期指定は無いのですが、7月から取る場合が多く、いきおい7月の会議は、冒頭から休みに関することが中心となります。

「事前に計画を立てて、引き継ぎをしっかりと行うこと。」
「自分の周囲だけでなく担当先にも気を配ること。」

これにはやや注釈が要りますね。

担当先に気を配れとは、自分の休みを伝えなかった為に、顧客と無用のトラブルになった。こんな事が無いようにすること。こういう意味です。意外に忘れがちな点でした。
(独白)言ってる本人が、真っ先に忘れてたこともあったなあ。

【8月】 お盆
お盆前の会議でメインとなるのは、顧客の休日です。食堂には主要先の夏休みが掲示されていました。自分の休みと顧客の休みが微妙にずれて連続したので、長期間コンタクトできず仕事が滞留した。こんな話もありました。

後でこの担当者は、上席からお灸をすえられていました。更に「体調管理に気をつけるように」これも良く出ました。ただ会議に出席する人間は、他のどの月よりも少なく、今一つ気合いが入らなかったのも事実です。
(独白)8月は無理に会議しなくてもいいのになあ。

【9月】 期末月
中間期末月です。会議も3月末と並んで、檄が飛びやすい環境です。「案件の取りこぼしの無いように!」「数字を残せ!」「総仕上げを!」これらと並んで「来期の計画を早めに立てること」、これも必須でした。いずれにしても前月までとは様変わりの会議でした。
(独白)なんか「人生気合いだ!」みたいだなあ。

【10月】 期初月
銀行は年間で大きく動きますが、実は半年ごとに一旦閉めてしまいます。この関係で10月は4月とよく似た状態になっています。ただ違う点は、世間一般では期初月の認識が薄いこと。4月に入った新人も半年経って立派な戦力になっていることです。

会議もその様相は昔の出陣式さながらで、勇ましい事この上無しです。
「スタートダッシュで圧倒的な差をつけよう!」
「刈り取りの季節だ!我々も刈り取りに全力を挙げよう!」
まだ結果が出ていませんから、私から見れば言いたい放題です。

私はと言えば、このハイテンションにはついて行けません。月間の行動予定の発表程度でお茶を濁していました。
(独白)来年3月の着地状況。大丈夫なんだろうか。

【11月】 何もない月
昔、「日本全国酒飲み音頭」という歌がヒットしました。一月は正月で、二月は豆まきで、三月はひな祭りでと、毎月快調に、酒が飲めると高らかに歌い上げる歌です。この歌、十一月はなんと「何でもないけど酒が飲める!」こうです。こんな月ですから月初の会議でも、当月特有の発言はありません。

その代わりと言っては何ですが、良くあったのは消火訓練とか、避難訓練です。データに当たったわけではありませんが、確かに長期休暇が一番少なく、全員参加しやすいような気がしました。こんな時、気をつけなければいけないのは締めの発言です。総務担当から防犯関連の発言で、「防犯合い言葉の再確認を」という注意喚起が出ます。

すると必ずこれに乗っかってお偉いさんが、
「おい○○!(若手男子が多かったです)ウチの合い言葉は何だ!言ってみろ!」
こう叫びます。こうなると大変です。

防犯合い言葉は、各店で違うのが普通です。いきなり指名されて正解が出せるとは限りません。万一無茶苦茶でも、出席者の爆笑があればセーフです。(特に関西では)が、そんな都合良く行きません。全く受けない答えや、ノーアンサー。

こんな時はお偉いさんの怒りが爆発です。会議が逆戻りします。いわゆるねじの巻き直し状態になります。(最初からやり直しです)何故か11月はこのパターンが3年に1回はありました。
(独白)総務の管理職が「当店は○△□が防犯合い言葉です。」 こう言えば修羅場にならないのに。あーあ。

【12月】 年末
言わずとしてた一年の締めくくりの月。期末月とは別の意味で、ラストスパートが必要です。
会議でも
「今期目標は今年中に目処を付けるように」
「案件は年越ししないように」
「ペンディングを全部洗い出すように」etc.

とにかく皆さん大変な鼻息です。これに加えて「大掃除は○○日に一斉にやる」なども飛び出します。またお盆休みと同様に、各企業の休暇状況も調べる必要があります。本当に盛りだくさんな月でした。
(独白)これで一回りした。それにしてもみんなようやるワイ。

以上、銀行員のキーワードの一年でした。

2019/11/05

こんなキーワードに遭遇する銀行員(前編)

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銀行の営業店では、毎月初に全員参加の会議が開かれます。

どこの銀行でも内容・形式は大同小異です。(多分。。。)

いうまでもなく会議の目的は、みんなのやる気を引き出して、目標必達に向けて今月もがんばろう!これです。

どこの銀行でも、毎月の事なので話す内容がどうしても似てきます。

さてこの会議で必ず打ち出されるのが、その月の「特有のキーワード」です。早い話スローガンなのですが、ここでしか聞けないものが多いのです。

今回はこのキーワードを順番にご紹介したいと思います。各末尾には聞かされた人間(私です)。の独り言を入れてます。

【1月】年頭所感
会長・頭取の新年ビデオを拝聴する。これが手始めでした。皆さん大きく変わらず、曰く「変革の年。新しい気持ち。目標を立てる。チャレンジの精神を。」などなどでした。外為の場合はこれに加えて、「海外は既に2日から始まっている。」これも定番でした。

(独白)実際の仕事が始まってるのに、なんか観念的だなあ。

【2月】二八(にっぱち)
どちらかと言えば関西でよく聞きます。二月八月は売り上げが減る。なので銀行での用事が減る。よって銀行員も暇になる。こんな流れで使われます。このフレーズが出てくると、後段には「仕事の在庫を整理せよ」とか、「普段出来ないことに取り組め」が続きます。

しかし外為では何より春節(しゅんせつ)がこの期間です。

猛烈に忙しくなることが普通なので、二八は違和感の固まりです。しかも一月は行く。二月は逃げる。三月は去る。の真っ最中です。日数も他の月に比べれば少ないのです。

(独白)全然ヒマなんかじゃない。誰だ「二八」なんて言ってるのは。

【3月】年度末
寡聞にして3月以外の決算期を持つ邦銀を知りません。なので全国至る所で、銀行はここで決算月を迎えます。「目標必達に向けて全力投球。悔いの残らない営業活道。」これらが定番でした。加えて来期の計画にも触れるのがお約束でした。

(独白)頑張って数字を上げすぎると、来期の発射台が高くなる。ンー。

【4月】期初月
新年度のスタート月です。銀行全体の会議が開催されます。営業店の会議はそれからです。例月より遅めの開催です。当月の会議では営業店のメンバー全員に、銀行全体の方針が示達されます。(じたつと読みます)

さらに「気持ち新たなスタートを!」「スタートダッシュを心掛けよう!」
この辺りが外せないフレーズでした。また配属予定の新人を念頭に、
「新人を温かく迎えて、一日でも早く戦力化しよう」こんなのもありました。

(独白)月が跨がると、これだけ言うことが変わる。人間勝手なもんだ。

【5月】GW(ゴールデンウィーク)
当月の会議はGW明けが多く、勢いそこでの指示も定番化します。
「気持ちを引き締めて」
「新人も即戦力としてやれるように」
といった檄を飛ばす調子が多かったのが、特徴と言えば特徴でした。

(独白】4月が過ぎたところだが、外為項目が今一つだなあ。自分のことだけ考えてます。

【6月】中間月
暑い日も出てくることから、健康管理に対する指示が出てきます。
「体調管理はキチンとすること」
「出来る限り早帰りに努めるように」
このような感じで出てきます。

そして何故か「報・連・相」の話も一緒です。また中間月とあって、目標に対する進捗状況も話題になります。

(独白)毎年、この時期はこじつけっぽい感じがする。

ここからは次回に続きます。

2019/10/29

【速報】インコタームズ2020改正と外為実務

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あれこれと噂のあった新インコタームズが、ようやく発表になったようです。英和対訳版は2019.10.末頃とのことです。

今回は外為実務の観点から、気づいた点をお話してみようと思います。

まず一番の注目点は、全体を通じて大きな変更点は無かった事です。

条件数は「11」と変わらずです(中身の改廃はありました)。2つのクラス分けも一緒です。あらゆる輸送形態に適した規則が7つと、海上および内陸水路のための規則が4つです。

これらを前提として外為から見て、どこに注目するか見ていきます。

1.EXW(Ex Works):工場渡し
無くなるとの噂があった条件ですが、条件として維持されました。L/Cでもよく見かける条件ですが、これからも使われるようです。

2.FCA(Free Carrier):運送人渡し
「陸上での引き渡し」と「海上での引き渡し」の二つに分かれる。こんな話もありましたが、やはり現行通り一つのようです。この条件はどこでも貨物の引き渡しが可能なので、使い勝手が良い条件です。我々もコンテナ船でのFOB代替条件として、理解して対応しています。

3.DPUの新設(Delivered at Place Unloaded):仕向地荷下げ渡し
売主が指定された仕向地に貨物を送って、荷下ろしまで行う条件です。荷下ろしまでのリスクを売主が負担するようですが、外為の現場ではDで始まる条件はなじみが薄く、この条件もそのまま受け入れるだけになりそうです。

4.DDP(Delivered Duty Paid):関税込み持込渡し
こちらそのまま維持されたようです。外為では余り関係ないのですが、この条件は二分割の話もあったのですが。そのままです。

5.FAS(Free Alongside Ship):船側渡し
元々ほとんどお目に掛ったことの無い条件でしたが、なぜかそのまま残ったようです。理由は明らかではありません。

6.FOB・CIFの維持
有る意味一番大きなポイントと思います。前評判では利用実態に即して、内容改訂の上であらゆる輸送に用いられるようになる。こんな噂が出ていました。これは大いに期待すべき事です。コンテナ輸送でも大いに使われているのですから、使い勝手の良いものに整備すべきだ。変更は大歓迎。だったのですが、結果は何も変更無いようです。残念です。

しかも、ということは、相変わらずコンテナ輸送には、不適切との烙印が押されているのです。これでは何度も問題提起されている、船積前のコンテナヤードにある、貨物の損傷リスクが放置される可能性が大いにあります。輸出のお客様に過去ヒアリングしたとき、輸出FOB保険や、国内の貨物保険の特約をされていた方はほぼゼロでした。問題ありの維持と言えます。

7.C and I の新設ならず
外為の現場では良く目にする条件ですが、日の目を見ませんでした。これも残念です。

以上ざっと見ていきましたが、今回の改定委員の所属国は、英、仏、独、米、トルコ、豪、中国とのことです。これではEU中心の考えや記述になるのは已む無しでしょうか。

以上インコタームズ2020についてでした。

(注)上記は私が個人的に入手した情報に基づくものです。ICC日本委員会の英和対訳本は未入手です。文中の正誤については、是非ご自身で確認くださるようにお願い致します。

2019/10/18

「すわ!倒産か?」銀行員はここに注目してます!

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銀行に取って最悪は、取引先の倒産です。

倒産相手が純預金先(預金取引しかない)なら、預金解約手続きに手間が掛るだけです。

しかし融資与信残高や外為与信残高が有る先は、実損(実際の損害)が発生する事が非常に多いのです。

そこで銀行としては一般の営業活動すなわち、新規先の獲得や、既存先の取引拡大、と並んで、日常の業況にも目配り気配りを欠かしません。

しかし倒産はある日突然発生する場合も多く、ひとたびその事態となればベテランから新人まで、店中がひっくり返るような大騒ぎになります。そこで我々は自らの身を守る為に、倒産の兆候をキャッチすべく、工夫を凝らしています。今回はこのお話です。

本や研修ではそれらしく、「倒産の兆候の見つけ方」は出ています。しかし長年の経験から言うと、これらの兆候が見える頃には、手遅れの場合がかなりあります。実際の現場では、もう少し前の段階で初動を起こしていました。つまり「これは変だ。では動こう。」この感覚が大事というわけです。

以下はその具体例です。

大事にすべき感覚(その1)『実権者に中々会えない』

外為先は社長1人なんて会社もざらでしたので、事務所に出向いても海外出張中はよくありました。こんな会社は電話やメールなどで連絡が取れればOKです。問題はそこまで零細ではなく、そこそこの企業規模の場合です。経理や貿易の実権者がいるのに、その実権者がいつ行っても不在。こんな場合です。最悪居留守を使われたこともあります。これは感覚的に相当悪化した状況と判断していました。

大事にすべき感覚(その2)『預金平残の低下』

平残というのは「へいざん」と読みます。平均残高の略称です。預金残高は日々動いているので、個別日の残高同士を比較しても、企業動向は判断できません。しかし一ヶ月間の平均を取って、それを前月のものと比較してみたり、前年同月のものと比べると、多くなったか少なくなったかが分かります。

多くなった分はほぼ問題ないのですが、少なくなった場合は、他行に取引を取られている、或いは資金繰りが逼迫している。(資金回収が遅くなる。支払が早くなる。これらが逼迫要因です。)これらは何であれいい話では全くありません。至急実権者と面談すべき状況です。

大事にすべき感覚(その3)『資金の流れがいつの間にか変化している』

ものの流れとお金の流れには、一定の法則性があります。商売の中身が変わらない限り、この法則は生きています。ところが業況が悪化してくると、この法則性が揺らいできます。もちろん商売内容が変化しても、流れは変わってきますので、流れの変化を発見した場合は、取引先から説明を受ける必要があります。

大事にすべき感覚(その4)『同業者取引が目に付く』

皆さんは「仲間買い」とか「仲間売り」という言葉をご存じでしょうか。いわゆる「仲間取引」と呼ばれるもので、本来コンペティターの同業者が、商売の相手方として登場してくるものです。

仲間取引があればおかしいというのではありませんが、突然始まったり、取引量が急増した場合は要注意です。私はよく茶飲み話のついでの雰囲気で探ってました。

大事にすべき感覚(その5)『同業者内の噂には耳を傾ける』

これは今までのものとは全く異なります。目に見えるものではありません。しかも真偽は不明の場合がほとんどです。讒言(ざんげん)になる物もありました。ただその中に、本当に貴重な情報が入っていることがあります。ここのさじ加減が本当に難しいのです。誰からもどこからも教えられたのではありませんが、やはりその話をしてくれた人物が、信用できるかどうかが大々基本でした。普段の取引でこちらの誠実さが分ってくれれば、その見返りの一つとしてそんな話も出てくる。そう考えてました。

比較的、銀行OBで貿易会社に出向や転籍した人が、出身行の違いも顧みず、話してくれたような気がします。

如何でしたか今回のお話しは。要はこれらの感覚をキャッチすべく、アンテナを高くしていく。これにつきるようです。

2019/10/12

銀行員の夏休みはいかに!?

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銀行員の休日は暦通りがお約束です。盆も正月も暦通りです。

しかし一方有給休暇もあり、暦以外でも休む必要があります。

毎年4月には年間の休暇計画を、みんなと相談して作りました。

この作業は中々大変です。管理職にとっては一仕事でした。

今回はこの辺のお話しをしたいと思います。

皆さんお気づきでしょうが。銀行は勝手に営業を休めません。ある日突然営業店のシャッターに「都合により本日休業します」。これは出来ないのです。またシャッターは上げるものの、店内には留守番しかいない。これもダメです。

結局、順番を決めて必要人員は確保の上で、みんなが交替で休む必要があります。この休み、銀行によって名称は様々ですが、一週間程度の連続休暇、3~4日程度の季節休暇、誕生日や結婚記念日などの一日休暇、これらを組み合わせて銀行員の休暇が出来上がっていました。この中でも、最も肝となるのが連続休暇なのです。

お盆近辺で取る人が多いので、別名夏休みとも行ってました。この連続休暇は年に一度のリフレッシュという意味合いなのですが、それ以外にも目的がありました。それは内部牽制です。

銀行員は命の次に大切な「お金」を扱います。ここで言う「お金」とは現金に限りません。預金・貸金・外為・内為(国内為替)・保証何でも「お金」です。銀行業務はこれらを、担当者が一義的に取り扱います。これに検証者が絡む。或いは権限者が判定する。

こんな場合もありますが、何れにしても担当者が初動を起こします。これが正しく行われているか、周りで分かる場合もありますが、実際に中に入らないと分からない場合もあります。これは一日程度の休暇では、判明しない場合がほとんどです。そこで一週間程度の休暇期間中に、他担当者が入ることによって、実際に行われていることが正しいのかどうか、これを調べます。

こうして内部牽制の実効を上げるようにするのです。その時は先ず絶対有りませんが、不正の可能性も念頭に置きます。よく銀行員は言われます。顔なじみになった頃に転勤してしまう。と、確かに転勤は3年位でしょうか。しかしこれも内部牽制の一種なのです。

話を夏休みに戻します。実は夏休みと言いつつ、若手職員の希望が集中したのは、9月に入ってからでした。7・8月は混雑する上に、ホテルや飛行機代が割高。これが大きな要因だったようです。これに気づかず休暇の割り振りを決めてしまい、若手(特に女性)から、大ひんしゅくになったがありました。

大いに反省すると同時に、それ以降は先ず全員の希望を、とにかく全部出して貰う。これを優先することにしました。それ以降上手くいくようになったことは言うまでもありませんが、たかが休みされど休み。そんな気持ちでした。

2019/10/02

謎のナイジェリア人。口座開設に現る!?

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商売相手として手強い3強は、華僑・印僑・ユダヤ商人と言われます。

しかし負けず劣らず手強くて、しかも気をつけなければならないのは、ナイジェリア商人ではないかと、個人的には思います。

過去私も危うい経験があります。今回はそのお話しです。

時は遡ること何年も前の盛暑のころでした。ある日突然電話が外国課宛に掛ってきてました。

相手は近隣のS社の営業担当者を名乗り、海外の取引先の口座を作りたい。こんな内容です。

このS社。聞けば誰もが知っている世界的なメーカーです。当時、S社のメインバンクは別の銀行でして、当行にはペティキャッシュ(当用の小口現金)の口座があるのみでした。近隣だったので、なんとか取引のきっかけをつかみたかったのですが、S社を訪問しても玄関で門前払いという情けない状態でした。

そんなS社からのオファーです。思わずヤッター!!となってしまいました。程なくしてS社担当者と海外の取引先が来店してきました。当方は、私と若手(英仏両国語が分かる)の二人です。丁重に応接室に案内しました。

まずS社担当者がナイジェリア人を紹介しました。見るからに「アフリカ」という感じの彼は、口座を開設したいと申し込んできました。(ここは英語です)更にたたみかけるように仏語は出来るかと聞いてきたので、当方の若手が出来ると言うと、いきなり仏語で話し出しました。何となく流れで英語に戻せなくなって、以降私は添え物状態でした。

それでも口座開設目的は聞く必要があります。それによると開設した口座には、日本全国から回収代金が入金される。それを年に1・2回本人が来日して、母国へ送金する。こんな説明でした。後で思えば仏語にこだわったあたりで、疑問を持つべきでした。英語で話を続けるとS社の担当者にも分かるので、わざと仏語で話したのでしょうか。とにかくよろず相手ペースだったのが正直なところです。

しかし言うべきことは言わねばなりません。口座開設には日本における代理人が必要。これが言うべきことです。融資ではなく預金なので、日本における連絡先程度の意味です。その話を聞くとナイジェリア人は当然のように、S社がその任に当たると仏語で話します。私は軽く同意を求めるつもりでS社担当者に聞くと(もちろん日本語です)即答で『NO』が返ってきました。よく聞くとこのナイジェリア人に同行してきたのも、彼が銀行で口座を作りたいというので案内してきただけで、単に個人的な親切心であって会社とは一切関係ない。こう言われてしまったのです。

その瞬間、やばい!まずい!この話!自分の顔から、スーッと血の気が失せるのが分かりました。ナイジェリア人と仏語で奮闘している担当者を制して、『日本での代理人がいないと、口座開設は難しい。』こう言えと指示しました。どうせ日本語は分からないので小声ではありません。それまで得意げに口座開設は双方にメリットがあると、喋っていたナイジェリア人は、この発言を聞いて押し黙ってしまいました。

気まずい沈黙の後、彼は口座不要と言い出して、広げていた書類を片付けてそそくさと出て行ったのです。S社担当者は慌てて追いかけて出てしまいました。我々はあっけにとられて応接室に残されたままです。結局、この話はここで終わったので、詐欺話かどうかは分かりませんが、マネーロンダリング防止の観点から言えば、開設させなかったのは良かったのかもしれません。

後で上席に報告した時に、『S社と関係ないのなら、無理する必要は無い。』と言われたのが、結局唯一の救いとなったのでした。

2019/09/23

海外から英文小切手が送られてきた!

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海外から小切手が送られてきたら、皆さんはどうしますか?

もちろん必要があって送られてきたわけですから、正当な理由があれば、受け取って換金する必要があります。

従来であればこの場面で貿易アドバイザーとして、小切手現物を銀行に持ち込んで、海外払いであれば「買取か取立」。

国内払いは「支払」を依頼すれば良いと、よどみなくご案内していました。

今でもその段取りでOKと高をくくっていたのですが、実はある銀行で何の気なしにお知らせを読んでいると、「外貨小切手等の店頭受付停止」なる文言を目にしました。

あわててメガバンク3行を調べてみると、時期の遅早はありますが何れも店頭受付は取りやめ済となっています。店頭受付と断っているので、扱い自体を止めたようではないようですが。しかし過去小切手の持込実績があればともかく、全くの初めてであれば、新規依頼はアウトのようです。

しかし不思議なのは取りやめ理由が判で押したように、『外貨小切手は振出人の正確な情報を得ることが困難であり、偽造・変造リスクや関連法規制の遵守に関する対応等も必要』と書かれていたことです。

この意味するところはよく分かります。
しかしリスクや関連法規の遵守は、別に急に湧き上がってきたわけではありません。

私もUSD100.00を巧妙にUSD100,000.00偽造した小切手を、店頭提示を受け敢然と(本当はしどろもどろで)、取立を断ったこともあります。要は昔から有ったことなのです。

外為担当者として外貨小切手は、それくらいハイリスク取引でした。さてそんな海外小切手ですが、もし受け取ってしまった場合の対処法について、お話ししてみたいと思います。

まず今回のお話しは法律による禁止ではなさそうなので、銀行によっては引き続き取り扱い可能のようです。例えば、外貨小切手であっても在日銀行支払ならOKの銀行とか、預金口座を持っていれば海外払いであってもOKの銀行などです。

もし今でも海外からの小切手が手元に持っているのであれば、速やかに最寄りの銀行に照会すべきと思います。なおその際に今回のお話とは別ですが、そもそもこの様な小切手には、提示期間が印刷されている場合があります。

例えば振出日から半年以内或いは90日などです。これらの日付は支払相手の銀行に支払提示をした日が、その日付以前の必要があります。注意してください。

最後にどの銀行も強調していたのですが、今後海外からの資金受取は電信送金に限定する。この姿勢が肝かなと感じました。

2019/09/17