最近ある論文が目にとまり、そこに興味深い記述が有りました。今回はそのご紹介をしてみたいと思います。
貿易担当者にとって決済代金の通貨を何にするか、どのような方法で決済するかは大変悩ましいことです。もちろん輸出であれ輸入であれ100%日本円で決済できれば、このような悩みは全くないと言えます。しかし実際は、そんな奇跡的な話は存在しないと思います。
そこで決済時点で発生する為替リスクをどうするかが、この対処法が企業として必須の永続的なテーマとなってきます。我々外為担当は顧客企業からこのような相談を受けたときには、先物為替予約をメインとした幾つかの対策をお話しします。しかし正直言って先物為替予約関連以外は、銀行にメリットが余りありません。そんなことから他の対策は、教科書的な説明に止まってしまいます。
また同時によく出るのが、「他社(よそ)さんはどうでしょうか?」です。こっちとしては「他社動向は気になるのだなあ」と思いながらも、具体的な数字が手元にあるわけでも無いので、「予約する人が多いみたいです」と当たり障りのない話をします。
今回ご紹介する論文はこの漠然とした銀行員のヘボ解答に、一定の解決法を提示してくれるものといえます。
さてこの調査論文ですが、発表したのは独立法人経済産業研究所です。2017年11月現在の数字を基に2018年9月に発表されました。(但しこの論文はあくまでも執筆者の見解を示すものであり、同研究所の見解を示すものでは無いとの注が付いています。)
この論文の調査対象は日本の上場企業(製造業)から、貿易取引があると思われる1,006社にアンケートを送付し、回答を得た151社を分析したものです。(項目によって社数は減少)
まず気になる為替リスクヘッジ策で「先物為替予約」の利用状況ですが、98.2%の企業が利用していると回答しています。これはほぼ全社とも言える数字です。銀行としても顧客企業から照会があれば、まず先物為替予約をお勧めするという方法が、大筋では間違っていないと言える数字だと思います。
それ以外の方法では通貨オプションが12.6%、為替関連デリバティブが約7.2%でした。(複数採用している企業があるので総和は100%になりません)
この2者に関しては銀行も顧客企業の理解状況や社内体制を見て、お勧めするので納得感があります。その他ではマリー(自社内で外貨債権を外貨債務に充当)や、ネッティング(自社内で相殺勘定を起こす)が留意されます。
マリー・ネッティングは導入企業と非導入企業は約4:6の割合でした。
この2者は企業規模が大きいと導入メリットが上がるため、大企業の方が、多く導入しているという数字が出ています。ただ同一企業内の本支店間では企業規模を問わず、導入企業が7割を越えており、それなりの数字となっています。
以上、ほんのさわりの部分ですが為替リスクヘッジについてでした。為替リスクヘッジに妙案はありません。先物為替予約を中心にして、自社の特性に応じた策を組み合わせる。こう言った合わせ技が引き続き対策としては有効と思われます。
2021/08/26