銀行員のあるあるに、顧客訪問スタイルの「べき論」があります。ご承知のように銀行員は店の外でも営業活動を行います。
外為担当者は得意先(取引先とも)ほどでは有りませんが、預金や融資担当よりは、この店外活動が多い傾向にあります。この営業活動を行う時の黄金律に挙げたいのが、私が心掛けていた掲題の言葉です。これを今回のテーマとします。
この言葉を会得したのは、入行6年が経過していた頃のことです。外為に配属されて既に3年が経っていました。このキャリアであれば立派に稼げる銀行員の筈ですが、私の場合、実に清々しいほど(勿論皮肉です)、稼げない銀行員でした(私の上司の苦労が偲ばれます)。
スキルやノウハウに関して何も持ち合わせがありません。なので顧客の所へは用事のある時とか、銀行からのお願いがある時に、アポイントを取って訪問する。こんな方法でしか営業できなかったのです。幸か不幸か外為は事務処理も忙しく、店頭は千客万来状態。これらの対応も担当者の仕事です。こんな日々の連続でも、ま、それなりに充実していたと言える毎日でした。
ところがこのやり方では、段々外為の実績が頭打ちになってくるのです。よく考えたら当たり前の話なのですが、前と同じにやっていたのでは、数字が伸びるわけがありません。ところが当時の私には理由がサッパリ分りませんでした。一生懸命やっているのに。これは店の環境が良くないのだ。こう誤解して毎期、毎期、文字通り数字あわせに明け暮れていました。
そんなときに大手商社の子会社へ行った時のことです。たまたま目が合った経理部長さんから、「たまにはコーヒーでも飲んでけや」とお声掛けがありました。応接に通されてコーヒーカップを片手に約15分。四方山話のお付き合いをしたのです。
が、私の頭は当日予定が一杯で、思いはこのロスタイムをどう挽回するか。これだけでした。(スイマセン)これでは折角のお話しも、うわの空になるのは自明の理です。部長さんは別れ際に、「お客さんの所に用が有って来るのは当たり前。本当は何もない時にこそ来るべきだよ。」と諭されたのです。
当時この意味が分らなかったのです。分ったのは大分後のことです。その頃、銀行では提案型営業の推進を大きく打ち出していました。つまり用が有るから顧客訪問するのではなく(これはご用聞き型です)、こちらから用事を作って訪問しようというわけです。
当然、用が無いのに訪問するのですから当方の話にメリットがなければ、相手が耳を傾けてくれることはありません。ここに至って経理部長さんのお話が身に染みてきたのです。「折角、当社を担当してくれるならご用聞きにならずに、当社を良くしてくれる提案をしに来て欲しい。」この意味を読めなかったのです。
遅まきながらそこに気づいて、その後提案型営業もやったのですが、「言うは易く行うは難し」の連続でした。結局は従来のご用聞きの亜流。これって今思っても恥ずかしい限りです。
更に取引先の倒産事例を身近で体験したことで、普段の会社の様子を知っておくことが、どんなにか大切なことか、これも身をもって知らされたのでした。
2020/12/11