外為の電話は大きく分けて三種類あります。外線電話と内線電話そしてホットラインです。ホットラインは内線電話ですが専用電話機があって、受話器を取り上げると、「マネー・フォレックス」セクションにつながりました。このセクションはいわゆる為替と資金を扱う本部組織で、ディーラーと呼ばれる人達と、話が出来るようになっています。
しかし今回のお話しは、こちらではなく内線電話の方なのです。一般に内線電話は組織内をダイレクトに結ぶので、いわば身内同士の通話であり、受話器を取るときの気持ちも楽です。着信音も外線とは異なるので、その点もプラスに働きます。
しかし中には心底ビクッとする電話がありました。朝の7時半に掛ってくる内線電話がそうなのです。この時間は始業時間前なので、出社している人間は限られています。まだオンラインも立ち上げてませんので静寂そのものです。そんな中で突然内線電話が鳴り響くのです。最初は一体どこからなのか、不審の固まりで受話器を取ります。
すると「ニューヨーク支店の○○と申します」と言うではありませんか、この声を聞くと、執務室に一気に緊張が走ります。ニューヨークと日本の時差は、サマータイム中で13時間です。つまりこちらの午前7時半は、現地の前日夕刻の18時半です。こんな時間までニューヨーク支店の担当者は居残って、こちらの出社を待っていたという訳です。
こんな状況での電話が楽しい筈がありません(当たり前ですが)。時差も顧みず国際電話を掛けてくるのですから。緊急性が高いのか、すぐに指示や判断が欲しいのかどちらかです。こんな場合の多くは、こちらからの海外送金の不備についてです。10百万ドルを超えるような送金に不備が見つかった場合とか、金額に関係なく、米国の規制に抵触した送金が見つかった場合です。
特に恐ろしいのが後者で、最悪は資金が凍結されてしまいます。勿論仕向ける場合に十二分に内容点検は行います。が、悲しいかな、人間のやることに完全無欠はありません。何年に一度かはこのような状況に陥ります。こうなったら兎に角、最善を尽くすしか方法がありません。幸いニューヨーク支店は、経由地であって最終目的地はありません。万一最終目的地であっても受取人には未払いの状態です。こちらからは当該送金の処理中止を依頼します。そして送金依頼人の連絡を取って、送金内容を訂正したり、場合によっては組み戻し処理を行います。
早ければ此処までの処理が午前中に終わることが出来るのですが、早朝から振り回されると、その日一日は全く仕事になりませんでした。
今でも思い出しますが、朝の内線電話は本当にビクッとしたものでした。
2020/11/05