取扱商品は「プレジャーボート」です。これを主に欧米のお金持ちに輸出していました。
取引の流れをざっくりと見てみましょう。
まずA社のHPやパンフレットを見たお金持ちが、海外から問い合わせをしてきます。折り返しA社から詳しい見積書等を返信します。先方が興味を示したら、価格など詳細を詰めていきます。この流れで商談が成立すれば文句なしですが、そんなに上手く話は進みません。
多くの場合、下見でお金持ちが来日となります。A社も一緒に行ってボートを見学します。大概はそこで内装も含めての細かい打合せです。そしてようやく先方の購入意思が固まると、A社はメーカーに発注を掛けます。やがてボートが納品されて、A社は輸出手続きをします。後日先方にボートが到着。資金決済が行われて一件落着です。
しかしこれでは前貸がなぜ必要なのかよく分りません。必要が無いように思えるのです。あれこれ考えても仕方ないので、直裁に事情を聞きました。すると意外なことが分ったのです。
まずボート本体の代金ですが、この会社が一旦受け取るのではなく、メーカーへの直接振込にしているのです。そしてA社はメーカーからのコミッションを受け取ります。いわゆるコミッション商売です。これでは資金負担は無い筈です。当然外為も発生しません。今まで取引があったのに、外為先では無かった理由が分りました。
しかし今回は輸出前貸しを希望している。なぜ? 一体どこで必要となっているのか。これも聞くしか有りません。聞いて分りました。理由はお金持ちのこだわりに応えるためでした。
ボートは高額で一億円を超すようなものもあります。更に購入を考えるお金持ちは、外装・内装にも強くこだわります。メーカー対応出来ない要望には、A社が自分で対応します。中に入れる調度品なども、A社が購入して据え付けます。つまり資金は、こう言った支払に充当するためでした。今までは社長の個人資金で賄なっていたが、それでは足らなくなって来たとのことです。事情は分りました。
早速稟議を書くために、決算書を3期分用意して貰いました。しかし中身を見ていて頭が痛くなってきました。決算書のどこにも輸出の数字が無いのです。手数料が収入源なので当然の話しです。しかし一方、貸出目的は輸出前貸です。これでは整合性がとれません。本部承認が下りない可能性があります。
そこで考えたあげく外装・内装の見積書を、かき集めて貰う事にしました。これらで資金使途を明確化し、返済原資は海外からの送金としたのです。そして本件取組メリットとして海外被仕向送金を取り込むことにより、外為取扱及び外為収益を増加させる。こう結論づけたのです。
社長は資金の流れが、白日の下にさらされるのを嫌がりましたが、これでなければ承認が下りないと言って納得させました。その後このスキームで年に数回、輸出前貸と送金が有りました。しかし海外からの引き合いは、長くは続かなかったようです。
いつの間にかA社は中古ボートのディーラーみたいになって、国内商売だけで、外為の話は立ち消えになってしまいました。
2020/08/24