日々メディアを賑わす、大手自動車メーカー元最高幹部。
先日、産経新聞(ネット)で気になる記事を見つけました。
『「スタンドバイ信用状」損失なら全額弁済リスク』これがタイトルです。
此処だけ見ると「スタンドバイ信用状」なるものが、一連の取引の鍵を握る可能性がある。こう読めなくもありません。
実際の所はどうなのでしょうか。少し紐解いてみたいと思います。
先ずお断りしておきたいのは、このネット記事の内容は、極めて穏当で問題が無いと言うことです。決して偏見や先入観を持たせようというのではなく、事態を正確に記そうとしています。この態度は大いに評価すべきです。
本記事に登場する大学准教授は個人的によく存じ上げた方で、引用された内容も正鵠を得ています。ただ惜しむらくはスペースの関係か、「スタンドバイ信用状」の説明がなく、折角の准教授のコメントも記事を一通り読んで、ほとんどの人が「へーそんな物か」で終わってしまうと思います。
そこで僭越ながら、この場をお借りして説明しようと言うわけです。まず「スタンドバイ信用状」ですが、あえて日本語で言うと、「予備(的)信用状」とでも言う物です。
これは普通の信用状は使ってしまうのが大前提であるのに対して、「スタンドバイ信用状」は取引が正常に終了すれば、使われない。つまり予備的な位置づけにある。こんな意味を表しています。なお通常の呼び方は「スタンドバイ・クレジット」です。ご参考まで。
さてこの「スタンドバイ信用状」を、なぜ新生銀行が受け入れたのか?これは大きく二つの理由があります。
一つ目はこれが外為実務ではよく選択される手段だからです。銀行としては具体的な担保を徴求すると、それに対して法的な手続きや、一定の費用をかけねばならないのですが、「スタンドバイ信用状」なら海外銀行発行した物を受け入れるだけです。(発行銀行が信用できるかと言う問題はありますが)
二点目は万一の場合、容易に債権回収が図られるからです。この点は記事にも書かれていましたが、万一の時は新生銀行が、自らが債務不履行を受けた旨の書状(「Statement」(ステイトメント略してステイトと言ってます))と、ドラフト(支払請求の手形)を相手に送りつけるだけです。
これだけで相手銀行には支払義務が発生します。つまり新生銀行から見れば「スタンドバイ信用状」を確保するのは、不足した担保を補う十分な手段だったのです。
外為担当者から見れば、これでこのお話はお終いです。しかしこれだけの金額の「スタンドバイ信用状」を、サウジアラビアの実業家がどういう判断で開設に応じたのか、これは大いに関心があります。
よっぽどの信頼関係でもなければ、通常は応じません。例え応じても相当額の手数料を要求してきます。この点はどうだったのでしょうか。
この記事の本質はそこにあるとすれば、ここで終わらせることなく、この実業家の説明を、是非取って欲しいと痛切に思います。
2019/02/15