今回は外為ではありません。マルサです。
長い銀行員生活で、たった1回だけの国税局査察(マルサ)の話です。
今でも夢に出てくるぐらい強烈な体験でした。時は遙か昭和の御代に遡ります。当時はバブル真っ盛り。
今から思えばバブル崩壊の前兆は出ていたのですが、世の中全体そんなことは夢にも思わずに、船に乗り遅れるなと、日夜狂喜乱舞していました。
そんなある日の開店前、午前8時30分過ぎのこと。いつものように支店二階の会議室で打合せをやっていました。そこに突然ノックも無しに、見知らぬ人が複数入ってきました。
全員あっけにとられていると、その中で一番偉そうな人が、
「国税局の査察です!みなさんそのまま動かないでください。」
といきなり切り出しました。
「私がいいと言うまでその場にいてください!電話にも出てはいけません!」
完全に命令口調です。
ここまで言われて事態を把握した支店長が、
「全員。その場で待機。OKが出るまで外訪も中止。」
と全員に命じました。
その間にも内線が鳴るのですが、電話に出るなと言われてるので、誰も出られず張り付いた空気の中で響くばかりです。
ややあって、国税の統括官が支店長に向かって、
「本日の査察内容をお話ししたいので、別室をご手配下さい。」
こう依頼してきました。
そして支店長とその統括官が部屋からいなくなりました。が、他の査察官はそのまま部屋で睨みを効かしたままです。我々はただひたすらジッとしていました。そのうちにシャッターの上がる音が聞こえてきます、9時になり店が開店したようです。
朝一番、外為にお客様は先ず無いのですが、窓口には誰もいません。これはさすがに異様な光景です。といって動くなと言われてますので、動くわけにはいきません。
ジリジリしながら座っていると、支店長と統括官が戻ってきました。
支店長から、
「本日、国税局の査察があった。査察に協力するように。」
と指示がありました。
そして融資と得意先担当者以外は、営業室に戻っていいと言われました。この時点で外為担当の私は解放されたのです。実はこの時戻れたのは外為担当二人と、預金担当の副支店長、預金課長だけで、その場にいたほとんど全員がそのままでした。
それから後のことはほとんど記憶にありません。パラパラとはメンバーが戻って来たのですが、こちらも電話や、来店者の応接に必死で全く記憶がありません。それでも昼前には、ほぼ全員が通常業務に復しました。しかし支店長・営業担当副支店長・融資課長・得意先課長、それと1・2名の担当者は結局、終日営業室には現れませんでした。
夕刻、支店長から朝の会議のメンバー全員に、もう一度会議室に集まるように指示がありました。その席で支店長から事情説明がありました。
それによると今日の査察は「側面調査」だったようです。(当行は査察対象者のメインバンクではない。の意?)調査の結果、特に我々に問題は無かった。一部資料提出依頼があったので、至急調査手配する。と、これだけでした。
なんともモヤモヤした話なのですが、これでお終いです。その後も一切、この話は出てきませんでした。あれから30年。未だに私にはすべてが謎のままです。
国税が手ぶらで帰るわけはありません。何かあったはずです。結局私には、朝一番のいきなり踏み込まれた経験。これだけが残りました。
マルサはもうこりごりです。
2018/07/21