今回のタイトルは、(本来)注文が確定して使うL/C(信用状)を、まだ商売が成立していないうちに使ったと言うことです。銀行としては大変リスクのある話です。
過去お話ししたようにL/Cは一旦発行すると、まだ決まっていない商談の席に、銀行の保証状を持ち込むわけです。
普通は商談が成立して契約書の中で、L/C開設が決まるのが普通です。
ではなんでこんなことになったのか、少し具体的にお話しします。
今回の事例は輸入です。輸入するものは台湾産のライチです。ライチは茘枝(れいし)と呼ばれる、大変おいしい果物で、中華料理のコースには欠かせないものです。世界三大美人の一人である楊貴妃が大好きで、早馬で唐の長安まで運ばせたので有名ですね。
さて、このライチを日本に輸入しようと考えた商社があります。仮にA社とします。A社は農水産物の輸入商社で、ニュージーランドからのキウイ輸入では、業界トップクラスの実力がありました。
そんな会社がライチに目をつけたわけです。A社が事前調査したところ、ライチ取引は入札制となっており、落札して初めて台湾から出荷できることが分かりました。ただこの入札制度が一風変わっていて、
入札価格を競うのではなく引受予定数量を競うのです。
産地では引受数量の大きいもの(すなわちたくさん買うと申し出たもの)から傾斜配分に近い形で配分していました。さらにこの入札に参加するためには、自分が申し出る数量に見合った金額の保証金か銀行保証状が必要だったのです。
A社はその調査結果を基に、メインバンクである当行に相談に来ました。その話を聞いてこちらとしては、BID BOND(入札保証)とL/Cの二段構えを申し出ました。しかしA社は手間と経費の両面負担が大きいと、すんなりとは受け入れてくれません。
そこでL/Cを前倒しはどうだろうと思いつきました。このアイデアは銀行手数料に問題なければA社はOKです。しかし銀行としては問題がありました。
かなりの確率で全額使用されないL/Cを発行していいのか。L/Cありきで始まる商取引はおかしいのではないか。単純な保証取引にドキュメンタリーL/Cを使えるのか。(クリーンL/Cではなくです)などでした。
当時お店の中でも相当もめまして、結局問題のない形、すなわちL/C金額は実際に輸入可能な最大数量に見合った金額とする。落札できなかったときは速やかにL/Cをキャンセルする旨、台湾サイドの了解を事前に取り付ける。
発行するL/Cは船積みよりかなり前に発行することになるが、あくまでも商品輸入に用いる物である点を、L/Cに明記する。
このようなことで条件をクリアーして発行しました。実際に発行したときはやれやれでしたが、これだけ頑張ったのに結果はというと、思ったほど数量は確保できず、せっかく発行したL/Cも、その大部分が使われずに有効期限切れとなってしまいました。
結局、次の年からは台湾での制度が変わったこともあって、このようなL/Cを開くことはありませんでした。今思っても、一生懸命考えた割には達成感のなかった仕事だったなあ。と独りごちています。
2018/01/26