輸出をしていると決済方法が送金ではなく、
信用状(L/C)となる場合が、結構な頻度であります。
信用状が要求する書類を、きちんと作成し銀行に持ち込めば、
銀行は買取をしてくれ、輸出者はその段階で代り金を受け取れます。
つまり実質的にそこで資金回収は終了するというわけです。
よく考えられた便利なシステムといえます。
しかし銀行にとって、送金と違って買取は与信行為のため、
持ち込んだ書類に関して、かなり事細かに照会が来てしまいます。
この照会が曲者でして、屁理屈(品なく失礼!)に見えたり、
単に字面の問題のようだったりすることがままあります。
こんな照会をする銀行の担当者も大変でしょうが、
受ける方も電話の度に、自分の仕事が中断するので大変です。
そこでお互いの幸せのために、どうすればよいのかを考えてみます。
信用状取引はL/C取引とも呼ばれ、その起源は諸説ありますが、
12世紀ごろまで遡れるようです。(約1000年前!)
会ったこともない輸出者と輸入者の間を取り持って、
円滑な貿易を可能にする優れもので、
21世紀の現代でも件数こそ減りましたが、
重要な決済手段として、
外為取引にはお馴染みなものです。
この信用状取引では取引の安全性や、決済の確実性を守るために、
信用状統一規則(以下UCP600と呼びます)という、
世界的ルールを当事者全員が守るという約束があります。
このルールに従えば、輸出者は確実に貨物代金を受け取れる。
という決まりであり、その結果輸出者は安心して船積出来るわけです。
UCP600には様々な条項があるのですが、
とりわけ大切なのが、「書類性の原則」と「独立性の原則」です。
「書類性の原則」とは、信用状取引に関わる当事者は、
書類のみを取り扱うのであって、商品は一切扱わないという原則です。
この原則がある為、銀行は商品にタッチせずに、
貿易取引の当事者になり、決済に専念できるのです。
次に「独立性の原則」とは、信用状取引の当事者は、
商品売買契約には一切影響を受けない。という原則です。
資金のやり取りに関して、売買契約違反を理由に、
決済を拒んでもいけないし、
マーケットクレームを決済拒否の理由にはしないということです。
この原則のおかげで輸出者の取引銀行は、
商品を一切見ることなしに、
提出された船積書類と信用状の条件一致のみを確認し、
問題が無ければその書類を発行銀行に送ります。
そうしたら発行銀行から、必ず資金をもらえるというわけです。
輸出者の取引銀行(この場合は買取銀行と呼びます)が、
輸入者の取引銀行(この場合は信用状発行銀行とよびます)から、
資金を受領するには、
船積書類と信用状の厳密な一致が、唯一絶対条件です。
その条件を満たそうとして、疑問点や不明点があると、
書類の細部にわたって照会してくるというわけです。
銀行によっては、窓口である支店で一次チェックを行って、
バックオフィスの外為センターで二次チェックを行う。
という場合もあります。
加えて買取銀行を通過しても、
信用状発行銀行から照会が掛かれば、
買取銀行としては放置できませんので、
またまた照会してくる。
というかなり面倒な仕組みになっています。
さて前置きが長くなりましたが、このような負の連鎖状態を、
回避するにはどうしたら良いか。
以下箇条書きで説明したいと思います。
1.事前に信用状の内容を把握する。
船積書類(特に船荷証券)と信用状の内容が一致するのか、
事前に輸入者から信用状の発行依頼書のコピーを入手しましょう。
銀行は資金決済の当事者ですが、
関心があるのは信用状と船積書類の一致ですので、
それさえクリアーされれば何の文句もないはずです。
買取を決済も問題ないことになります。
とすれば書類を作成する段階で、信用状と一致を確認する。
これが第一となります。
輸出業務に習熟した企業でも、契約書との整合性は確認しても、
ブッキングの段階では信用状が未着の場合も多いので、
そこまではやっていないというところが多いようですが、
照会の削減や決済の迅速化、確実化には絶対必要と思います。
2.照会電話への対応は、まず訂正・差し替えです。
持ち込んだ書類に信用状と条件不一致が発見されて、
買取銀行から照会が掛かってきたときは、
一番に訂正・差し替えで対応します。
慣れてくるとまあそのままでもとか、
L/G(念書みたいなもの)差入れで、
その場を収めようとしがちですが、
輸出代金回収のためには、手間を惜しむべきではありません。
訂正・差し替えはどんどんやるべきと思います。
これで船積書類が信用状条件に一致すれば、
決済の確実性において、ほかの方法に勝るのは明らかです。
(これを外為実務ではクリーンな状態にすると言います)
3.上記の2が不可能な場合は、買取銀行から発行銀行に
あてて買取照会をかけてもらいましょう。
(これをケーブルネゴといいます)
実際問題として訂正や差し替えが出来ない
条件不一致もあり得ます。
例えば船積遅延や信用状の有効期限切れのような場合です。
これらの場合は、訂正や差し替えでは対応できませんので、
本来は信用状の条件変更を求める必要があります。
(これを信用状のアメンドを要求するといいます)
しかし、信用状のアメンドはすぐに発行されるのではないので、
現実問題として今回の買取には間に合いません。
そこでUCP600には明記はないのですが、
慣習的に認められた「ケーブルネゴ」という方法を、
選択する必要がでてきます。
この方法をとって発行銀行からOKがでれば、
今回の船積に限ってですが、アメンドと同一の効果が発生します。
以上が電話を減らす方法です。
厳密にいうと、2と3では一回目の電話までは減らせませんが、
それ以降の照会電話は掛かってこないことになります。
これ以外の方法も、ものの本には書いてありますが、
電話が絶対的に減るという効果は期待できません。
銀行からの照会電話を減らす王道は、
こと信用状取引にあっては、
入手した信用状と船積書類の一致しかありません。
とすれば作成段階から信用状条件も頭に入れた、
書類作成を心がけるというのが、ここでの結論となります。
2015/12/11 貿易実務の情報サイトらくらく貿易