海外販路網構築講座 その5:海外への技術ライセンス交渉
有望な特許をもつベンチャー企業から「海外に特許ライセンスしたいのだが…」という相談を受ける事があります。実際、我々はIBM社、GM社、3M社、GE社、フォード社、ダイムラークライスラー社、ロックウエル社等々の超多国籍大企業の特許ライセンス部門に日本の発明家・ベンチャー企業のもつ特許ライセンスの打診・交渉を行った事が何度かあります。その際の交渉の注意点を簡単に記しましょう。
まず正しい特許ライセンス先を見つける事は特許を取得する事以上に難しいと考えて下さい。出来るかぎり多くのライセンス候補企業にアプローチすべきです。アプローチしたすべての会社が高く評価しようとも、企業は、特許に基づくビジネスを展開するために最低でも資金・人員・工場スペース・販売経路等の問題をクリアーしなければならず、今の時点でこれら問題のない企業だけしか実際にライセンス取得に名乗りをあげる事が出来ないからです。
また交渉相手企業が1社しかないのと、多数あるのとでは、発明家の交渉力・立場はまったく異なります。例えばその特許に強い興味を示す会社を10社見つければ、強い立場で交渉する事ができます。それに対して交渉相手が1社しかなければその企業の条件を飲まざるを得ないのです。
「多くの企業にアプローチするとその発明を盗用する会社が出てくるのではないか」とある発明セミナーで質問された国立発明殿堂(National Inventor’s Hall of Fame)のエド・ソベイ博士はこう答えています。「実際は逆の心配をすべきです。誰もその特許を欲しくない、または誰もその特許の真価を理解してくれない、というケースの方が圧倒的に多いのです。電話やトランジスタといった大発明でさえその真価は長年認められなかったのです。」
また「現在、交渉中の会社があるので、その交渉の結果がでてから再度考えたい」と言われる方もおられます。そういう方に逆にお聞きしたいのは、その交渉相手が「10億円で貴兄特許を買いたい」と提案した場合、その値段を高いと評価するのですか?それとも安いと評価するのですか?という事です。たいていの場合は「わかりません」というのが答えのようです。
本当の答えは他の企業の姿勢にあります。他にその特許を高く評価する企業があり、「100億円でも出す」というならば、10億円の値段は安すぎるという事になります。逆に他の企業が1億円程度の評価しかしていなければ、10億円の評価は非常によいものとなります。つまり代替案を常に知っていなければ、交渉の基準がつかめないのです。
「1社と交渉中は他社とは交渉をしない」という姿勢は日本的な美徳ですが、海外では逆に複数の交渉相手をもつ事を常識としています。お互いに競争させて有利な条件を引き出すためです。1社づつ交渉していくという姿勢は相手企業に足元を見られるだけです。これは特許ライセンスに限った話ではありませんが、海外企業との交渉はすでにオプションを持ち、多く会社と同時進行する努力をすべきです。
2012 © 大澤裕@ (株)ピンポイント・マーケティング・ジャパン