寄稿シリーズ:「書籍の中の杭州 その8 -杭州菊花園 (陳舜臣)」
さて、海外駐在経験者に質問です、帰国の折、毎回お土産はどうされていましたか?
私の住む杭州も名産品は数あれど、度重なればタネは尽き、空港の熊猫チョコは論外として、龍井緑茶、山胡桃、絹製品、鋏、扇子に老舗の銘菓、全て非情な我が家人の「不要一覧(買って来るな)」入りと相果てました。
先回は中部国際空港にて豊橋名産ヤマサのチクワが苦し紛れの「チューコク土産!」・・・現在、我自身、不要リスト入りの危難アリ。
陳舜臣、神戸生まれの華僑の直木賞作家。
「中国の歴史」「秘本三国志」「中国任侠伝」など、中国を題材にする著作も多く、今回取り上げるのは「杭州菊花園」、六十年前にあった杭州の名園(現少年宮)が舞台のミステリアスな短編です。
一人の女を巡る二人の男、菊を愛する杭州の造園職人、刺繍上手で薄命な娘、菊花園の主で蘇州の大物政商、そしてにぎやかな城隍廟の祭の夜、庭園に響く銃声・・・殺人事件。
ミステリーファンにはぜひ本編を楽しんでいただき、ここで紹介するのは以下の一節。
ありました、杭州土産のヒント、「杭白菊」なら今も市内の超市(スーパーマーケット)で、漢方薬茶として日本でも売られているそうです。次こそは名誉挽回、少しは能書きをタレながら家人に渡せるか?と想っております。
--------------------------------------------------------------------------------------------------
「あの事件のあったころ、私はまだ子供でした。菊畑だったこの場所に、園林を造りはじめたことも覚えています」
と、彼女は行った。現代中国によく見られる、てきぱきした女性である。
「ほう、菊畑だったのですか。・・・・・・」
このへんの菊は、ただの観賞用ではない。薬用に供するのである。花びらを干したのを、緑茶などにいれる。ほかの土地の菊では、効き目がちがうらしい。杭州の菊でなければならない。それで「杭菊(ハンチ)」という。
杭菊は体内に熱があるとき、それを根本からとり去る効能がある。私など、子供のころから、鼻血が出たりすると、きまって「杭菊」を飲まされたものである。そして、たいてい、杭菊を飲むと、熱がすぐに下がった。
このごろでは、杭菊を粉状にしたものが市販されている。一回分が一袋になっていて、たいそう便利であるが、糖分が多すぎるような気がする。あまり甘いと、薬効がないようなかんじになる。おそらく「良薬は口に苦し」という諺の影響であろう。
- 陳舜臣 「杭州菊花園」徳間文庫 -
--------------------------------------------------------------------------------------------------
2012 © 宮下江里子@杭州超海科技有限公司
(Hangzhou Chao-hi Co. Ltd.)