皆さんは、ご自身の資産をどのような形態で保有していますか?預貯金、不動産、株式、投資信託、債券、生命保険?
日本は、20年前から「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げていますが、家計における金融資産の構成比は2021年末において、50%超が預貯金、約30%が年金・保険、株式や投資信託は約15%にとどまっています。この比率は、スローガンを掲げた20年前からほとんど変わっていません。
家計における金融資産額を20年前と比較すると、日本では1.4倍になりましたが、米国では3倍に増えていて大きな差となっています。日本と違い米国では、株や投資信託の保有率が現金・預金での保有率より高いため、投資から生み出される所得の効果が、金融資産額全体を押し上げているとみられています。
この20年の間に日本でも、投資への移行を促進すべく、譲渡益や配当金が非課税になるNISA制度や、税の面で優遇措置のあるiDeCoなどが構築され、投資のしやすい環境は多少なりとも整いました。
実際、NISAの口座開設数は、20代、30代の若い世代を中心に増加しており運用開始当初の約2倍になっていますし、iDeCoの加入者数も確実に増えています。
しかし、全体を見ると依然として現金や預貯金の保有率が高いことは変わっていません。そこで、政府は、預貯金で保有されている資産が多いことを逆にポテンシャルと捉え、この度「資産所得倍増プラン」なるものを打ち出しました。
資産所得とは、勤労所得の逆を意味するもので、金銭や有価証券、土地や建物などを運用することから得られる、利子所得、配当所得、賃貸料所得などをさします。
預貯金を投資へシフトすることで資産所得を増やそうというプランです。政府の意図するところ、理屈はわからなくもないですが、20年間にわたり、大きな行動変容が見られなかったものが、いわば看板を掛け変えただけで、貯蓄から投資へと人々はマインドチェンジできるのでしょうか。
個人的な見解ですが、次のような理由から投資へのシフトはいまだ険しい道のりと感じます。
【そもそも投資へ回す資金がない】
「投資」は、余裕資金があってこその話。例えば、若い世代では、NISAやiDeCoなどを活用して将来の自分に投資をしたいと考える人が増えていることは口座の開設数からも窺えますが、現実的には給与は増えず生活に余裕ができない、したがって、投資へシフトする余裕資金も持てないという現実があります。
30代以下の保有する金融資産は、全体の金融資産の10%に満たないことがわかっています。
【何から始めて良いかわからない】
金融について学ぶ機会が少なかった日本人は、マネーリテラシーが低いといわれています。「お金」は、生きていく上で必要不可欠なモノであるにもかかわらず、長きにわたり「お金」のことは家庭教育という状況であったため、多くの場合、親のリテラシーが子どもに引き継がれています。税金、社会保険のことを含め、金融に関する正しい知識を得る機会が少なかったことも、投資へ向かえない一因と考えられます。
お金を「貯める」ことはできても「増やす」ための知識の不足。「投資」と言われても、何から始めていいかわからないのはこのためかもしれません。
資産所得倍増プランでは、NISAやiDeCoの拡充などが検討されているようです。今後、仮に非課税投資枠が増えたり、要件が緩和されたりすれば、より多くの人が投資を行える環境は構築できるかもしれません。
しかし、環境や枠組みというハード面ばかりを整えても、肝心の投資できる余裕資金と知識というソフト面の充実がなければ、ここまでの20年と何も変わらないような気がしています。
貯蓄から投資へシフトするためには、給与の底上げと、人々のマネーリテラシーを高めることが必要ではないでしょうか。
この春から、学校の社会科や家庭科でようやく金融教育が始まりました。年齢に合った段階的な内容となっており、高校では投資についても学ぶ機会がありそうです。今の子どもたちが大人になる数年後から、日本人のお金についての考え方、投資や資産運用に対する意識も変わるかもしれません。
参考サイト:
日本証券業協会 NISA口座開設・利用状況調査結果 (2021年12月31日現在)
https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/nisajoukyou/nisaall.pdf
イデコ公式サイト 加入者数
https://www.ideco-koushiki.jp/library/pdf/number_of_members_R0403.pdf
2022/06/09
元通関士・現FPのあれこれ話
山﨑裕佳子