このコラムで政治向きの話題をすることは無いのですが、今回は特にお許しを願って、一言書かせて頂きたいと思います。
既にメディア等で大きく報道されましたが、残念な発言が現内閣の閣僚から出ました。それは新型コロナ対策(休業要請)に応じない飲食店に対し、取引銀行からの(休業の)働きかけを要請する。と言うものです。
この発言を聞いたとき正直唖然としてしまいました。この人は「銀行の優先的地位の濫用は許されない。」と言う、銀行として最も神経を使っている点を理解した上で、「要請する」と発言しているのだろうか?理解しての発言であれば、看過出来ませんし、知らないのであれば、大臣の発言としては問題があります。
銀行が何か取引先に言えば、その影響力は大きいものです。特に融資が絡んでいる取引先には、さらに大きく影響します。借り手は圧倒的に弱い立場なのです。貸し手である銀行からある種の「要請」を受ければ、借り手としては無視できません。もし従わなければ、融資を引き上げられてしまうかもしれない。こう考えてしまいます。当たり前だと思います。
もし大臣がこの効果を期待して発言したのであれば、法規制に基づく指示命令よりたちが悪いと言えます。この発言に至った経緯は明らかではありませんが、この発言そのものが突然の思いつきであったとは思えません。事前に周囲の人との間で話が有った筈です。
であれば、要請は「優先的地位の濫用」に結びつきかねない。こう気づくブレーンはいなかったのでしょうか。或いは銀行への要請であれば、事前に全銀協(全国銀行協会)に、コンタクトしてみよう。の一言は無かったのでしょうか。
その何れも無かったのであれば、大変残念なことです。長年銀行にお世話になってきた者としては特にそう思います。1997〜1998のジャパンプレミアムが発生した頃、短期市場で金利を上乗せしても、米ドルが調達不可能な事がありました。米ドルが調達できなければ、海外銀行と決済が出来ません。いわゆる資金ショートと呼ばれる状態です。
そんな時、銀行の窮状を見かねて、数億ドル単位の外貨預金を預けてくれた融資取引先がありました。この一報が入ってきた時に、思わず各店の外為担当者は、これで外貨決済が出来ると、本当に喜んだものでした。(当時大口の輸入決済は、本部が直ぐに決済させてくれなかったのです。)
そんな過去もありますから、融資先に対しては慎重な発言・対応をしていました。今回のこの発言。これらの経緯が無視されたようで残念さがひとしおです。幸い発言は翌日撤回されましたし、発言趣旨のご説明もありました。
大臣は2009年には自民党総裁選挙にも出馬され、その知見・見識は折り紙付きと考えています。引き続きの陣頭指揮を大いに期待したいところです。
2021/07/19