その昔年号を省略して数字だけ書いても、誰も不審に思わなかった時代がありました。今回はその頃のお話しです。
当時銀行営業日はカレンダー通り。ATMコーナーも土日はお休みでした。しかし時代は大きく変わっていきました。ATMコーナーを土日に稼働させることになったのです。そこで困ったのがATMコーナーにくるお客様への対応です。普通の営業日であれば、店内に担当者がいるので問題なしです。しかし土日の店はお休みなので当然誰も居ません。
そこで急遽本部に問い合わせデスクが設置されました。この問い合わせデスクが問題でした。所管は本部なのに、顧客優先の御旗の下、対応は第一線の人間があたったのです。かく言う私にもお呼びが掛かりました。何の事情も知らない私は、休日出勤のご褒美は代休と聞かされて、それなら悪くない話だと、ホイホイと本部に出社しました。
当日は同じような境遇の銀行員が4人。今一つ不安げな表情で参集です。用意された机の上には内線電話が一つだけ。電話の先は各店のATMコーナーです。段々不安が頭をもたげてきます。そのうちに9時になり不気味な沈黙が時を刻んでいきます。このまま何もなければ「イイナアー」などと考えています。しかしそう思った瞬間、いきなりベルが鳴ります。普段から徹底して早取り訓練を強いられているので、争って受話器を取ります。
「もしもし」
「・・・・・(相手)」
「はい、そうです!」
「・・・・・(相手)」
「いや、こちらでは分りません。」
「・・・・・(相手)」
「そうおっしゃってもこちらでは無理です。」
この繰り返しが何度か続きます。相手の要求は何か分りませんが、こちらではどうしようもないこと。これは明らかなようです。やがて電話は切れます。電話を取っていた担当者がポツリ。
『「出金したいのに残高不足。」「入金が入ってない。どうして入ってないんだ!」こう怒鳴られたよ。』
それを聞いて我々は顔を見合わせました。振込がされているかどうか。これは受取銀行では分りません。相手に確認するしかないのです。何ともはやの出だしです。営業終了までまだ8時間近くあります。全員早くもげっそりです。代休ぐらいで安請合いした自分が恨めしいです。その後も頻繁ではありませんが、電話は掛ってきました。内容は出金操作(これは簡単)やお釣りは出るのか(出ません!)、道案内(ここは交番では無い!)、暗証を忘れた(教えられません!)etc.
何とか4人で手分けしてやっていると、有る1人の電話先がヒートアップ!隣の私にも相手の声が聞こえてきます。「ここに出てこい!」こう言っているようです。その担当者「ここは本部。その店には居ない。」こう返事しているのですが、興奮して聞いてくれる様子はありません。終いには「本店に電話する。」こうなったのですが、そもそも今電話の出てる先が本店(=本部)です。困りました。
それでも粘り強く対応していると、相手は諦めてくれたようです。電話が切れると全員大きなため息が出ました。最初は打ち上げでもと話していたのですが、そんな気にはなれません。這々の体で帰途につきました。こんな経験からコールセンターの皆さんのご苦労には。尊敬の念しか有りません。本当に大変なお仕事と思います。今回はにわかコールセンターのお話しでした。
2021/01/29