今回は謎めいた調子で、始めさせて頂きます。
私は「カストディアン」だった。これがタイトルです。
ところで「カストディアン」て何だと思いますか?
レストランの名前?イエイエ。
インディアンの親戚?イエイエ。
酒粕でできた何か?イエイエ。
すべて全く関係ありません。
此処でお話ししている「カストディアン」とは、海外投資家に代わって、有価証券を管理する日本の代理人のことです。
銀行や証券会社が「カストディアン」になる事が多いようです。日本にいるぐらいですから、海外にも「カストディアン」はいます。この場合彼らは日本の投資家の代理人になります。で、私はこの「カストディアン」を、ほんの半年ですがやってました。
この仕事非常に特殊です。担当者は広い銀行内に私だけ。上席者はいるのですが、単に事務検証をしてくれるだけ。指示命令のラインは、直接海外投資家につながってました。つまり私は海外投資家の使用人みたいなものです。
そして何をやっていたかというと、早い話が株券の受渡と保管。海外投資家から持ち株を売却したと知らせが入れば、預かり保管している株券から必要数を抜き出して、兜町にある証券代行業者に持ち込む。逆に購入したと連絡してきた場合は、代行業者が店頭に持参してくるので、それを受け取って金庫に保管する。これの繰り返しでした。
こんなものは営業店の業務でも何でもありませんので、事務手続きなどはありません。あるのは先輩作成の手書きのノート1冊。ここに先方指示のひな形や、こちらからの応答ひな形。株券の持込方法と場所。受取株券の保管方法等が、記載されてました。
相手の海外投資家(世界的な食品メーカー)は財力があったので、売買は結構頻繁で、ほぼ毎日株券の出し入れがありました。当時の思い出として、なんと言っても強烈なのは株券の持ち出しです。地下の大金庫を開けて入り、さらにその中にある現金金庫室に入ります。さらに中のキャビネットから株券を取り出します。もちろん1人で入れませんので上席者と一緒です。
出庫手続きを終えると、現物を証券代行業者へ持ち込みます。これは現金輸送と同じなので、電車に乗ってとは行きません。公用車に恭しく載せて頂くことになります。(私をでなく株券をですが)この公用車、実は役員専用車です。黒塗りの立派な車です。本来なら若手のペーペーが乗れるわけありません。しかし「カストディー業務」には特別に許可が出ていて、何時でも利用できるようになっていました。
利用するときは、運転手詰め所に電話して一台準備して貰います。私が車寄せに行くと、出庫アナウンスと共に黒塗りが目の前です。株券と共に乗り込みます。と、ガードマンが一斉に敬礼。何か偉くなった気分です。
しかしこの私のカストディアンは半年で終わりました。別に首になったわけではありません。転勤になったからです。でも今思い返しても何とも不思議な光景でした。
(注)上場会社の株券は2009年に全て電子化されました。今、保管業務は無いと思います。
2020/04/30