商売相手として手強い3強は、華僑・印僑・ユダヤ商人と言われます。
しかし負けず劣らず手強くて、しかも気をつけなければならないのは、ナイジェリア商人ではないかと、個人的には思います。
過去私も危うい経験があります。今回はそのお話しです。
時は遡ること何年も前の盛暑のころでした。ある日突然電話が外国課宛に掛ってきてました。
相手は近隣のS社の営業担当者を名乗り、海外の取引先の口座を作りたい。こんな内容です。
このS社。聞けば誰もが知っている世界的なメーカーです。当時、S社のメインバンクは別の銀行でして、当行にはペティキャッシュ(当用の小口現金)の口座があるのみでした。近隣だったので、なんとか取引のきっかけをつかみたかったのですが、S社を訪問しても玄関で門前払いという情けない状態でした。
そんなS社からのオファーです。思わずヤッター!!となってしまいました。程なくしてS社担当者と海外の取引先が来店してきました。当方は、私と若手(英仏両国語が分かる)の二人です。丁重に応接室に案内しました。
まずS社担当者がナイジェリア人を紹介しました。見るからに「アフリカ」という感じの彼は、口座を開設したいと申し込んできました。(ここは英語です)更にたたみかけるように仏語は出来るかと聞いてきたので、当方の若手が出来ると言うと、いきなり仏語で話し出しました。何となく流れで英語に戻せなくなって、以降私は添え物状態でした。
それでも口座開設目的は聞く必要があります。それによると開設した口座には、日本全国から回収代金が入金される。それを年に1・2回本人が来日して、母国へ送金する。こんな説明でした。後で思えば仏語にこだわったあたりで、疑問を持つべきでした。英語で話を続けるとS社の担当者にも分かるので、わざと仏語で話したのでしょうか。とにかくよろず相手ペースだったのが正直なところです。
しかし言うべきことは言わねばなりません。口座開設には日本における代理人が必要。これが言うべきことです。融資ではなく預金なので、日本における連絡先程度の意味です。その話を聞くとナイジェリア人は当然のように、S社がその任に当たると仏語で話します。私は軽く同意を求めるつもりでS社担当者に聞くと(もちろん日本語です)即答で『NO』が返ってきました。よく聞くとこのナイジェリア人に同行してきたのも、彼が銀行で口座を作りたいというので案内してきただけで、単に個人的な親切心であって会社とは一切関係ない。こう言われてしまったのです。
その瞬間、やばい!まずい!この話!自分の顔から、スーッと血の気が失せるのが分かりました。ナイジェリア人と仏語で奮闘している担当者を制して、『日本での代理人がいないと、口座開設は難しい。』こう言えと指示しました。どうせ日本語は分からないので小声ではありません。それまで得意げに口座開設は双方にメリットがあると、喋っていたナイジェリア人は、この発言を聞いて押し黙ってしまいました。
気まずい沈黙の後、彼は口座不要と言い出して、広げていた書類を片付けてそそくさと出て行ったのです。S社担当者は慌てて追いかけて出てしまいました。我々はあっけにとられて応接室に残されたままです。結局、この話はここで終わったので、詐欺話かどうかは分かりませんが、マネーロンダリング防止の観点から言えば、開設させなかったのは良かったのかもしれません。
後で上席に報告した時に、『S社と関係ないのなら、無理する必要は無い。』と言われたのが、結局唯一の救いとなったのでした。
2019/09/23