今回は信用状取引と輸入者倒産の後編となります。
その4 船積そして買取
さてこれらの諸点をクリアーしていよいよ船積です。出来上がったB/Lを含めて船積書類を銀行に持ち込みます。
その後は普通の買取と同じなのですが、いつも以上に念入りな点検を銀行に依頼します。
また船積書類の送付方法や資金請求方法など、銀行が責任もって行う部分を、ぬかりなくやって貰うように、念押しも忘れないようにします。
さてそんな買取書類ですが、相手は当然黙って決済などしてくれません。本当に重箱の隅をつついたようなクレーム。輸入者が倒産しているので払えない。といった泣き落とし。払えないものは払えないという居直り。いろいろなことをしてくると思います。
買取銀行にはこれらに対して、毅然とした対応をして貰います。そのためにも信用状が銀行買取を求めているのであれば、キチンと買い取りして貰い、買取銀行=債権者と位置づけて、買取銀行にもしっかりと当事者になって貰う必要があります。
その5 紛争長期化の場合
多くの場合、その4の段階で、信用状発行銀行が決済をしてくるのですが、ごく稀とは言え、そうでない場合もあります。ここからはそういった事態への対応を考えます。
と言っても、ここで秘密の技が出てくるわけではありません。既に前に触れたように、仲裁や訴訟への移行を考えるのです。
(1) 仲裁
紛議がある場合。通常は斡旋や調停が俎上に登りますが、何れも強制力が無いので、本件のような場合は、仲裁や訴訟のように強制力を持つものに、頼らざるを得ないと考えます。そこで仲裁ですが、仲裁は訴訟に比べ優れた点がいくつかあります。
順不同で上げますと、
・当事者が仲裁判断をする人間(仲裁人)を選べる
・手続きが非公開である
・一審制で迅速な結論が得やすい
・当事者が決めれば仲裁判断までの期間が決められる
・得られた仲裁判断が国際的な拘束力を持つ
などです。
特に最後の国際的な強制力を持つ点は、輸出代金回収を最大眼目とする本件では、絶対に外せない点であり、仲裁を訴訟に優先させるべきと思います。詳細は下記「JCAA:一社日本商事仲裁協会」のホームページをご参照ください。
なお注意すべき点が二点有ります。
一点目は仲裁開始には相手の同意が必要だと言うことです。相手が不同意では仲裁手続きには入れません。なにか問題が起きてから仲裁について協議を始めても、好結果は期待できません。
輸入者との契約内に仲裁条項が有るか。確認する必要があります。更に言えば買取銀行と信用状発行銀行との、コルレス契約にも仲裁条項の検討を及ぼしておくべきと思います。
二点目は相手国がニューヨーク条約に加盟しているかどうかです。相手国がこの条約に加盟している。これが強制執行要件です。これまた必須確認事項といえます。この条約は「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」と言い、世界130国が加盟しています。日本も1973年に加盟済です。
(2) 訴訟
ここまで来るのは本当に最終局面と思います。国際商事裁判に明るい弁護士と、密接に連携を取る必要があります。最早この段階では、私からの具体的なアドバイスはないのですが、どこで裁判を起こすべきかだけは念頭に置いておくべきと思います。折角、勝訴判決を得て強制執行の段階になっても、物理的に訴訟相手に執行できない。こんな事になっては勝ちが無駄になります。
自国の執行命令を相手国が受け入れてくれるか。ここは必確認です。駄目な場合は、最初から相手国での訴訟もあり得ます。
以上でお話ししたいことはほぼ尽くしました。ここまで話がこじれる事は、先ず無いと思います。が最悪を想定するかどうかで、初動以降の全てが変わってきます。より良い結果を求める限り、一連の流れを押さえておくのは有益です。
ご参考になれば幸いです。
JCAA:一社日本商事仲裁協会HP
http://www.jcaa.or.jp/
2019/08/14