今回はある機械メーカーからの相談です。案件はバングラデシュ向け機械輸出。
例によってネット論壇では多くの意見が出されました。議論の中身に入る前に、背景を若干説明します。
このメーカーでは在バングラデシュ顧客との、約一億円の機械輸出商談が進んでいました。
本体部分は一応合意に達していましたが、まだアクセサリーなど細かい仕様は合意していませんでした。
こんな状況下、相手から突然L/C(信用状)が到着したのです。普通はあり得ない話です。でも来てしまいました。このまま受け取っていいのか。製造に入っていいのか。教えて欲しい。これが相談の内容です。
背景は謎ですが、相手は早く本体の製造に入って欲しいようです。そのためかどうか、事前相談なしでL/Cが送られてきました。私のような銀行関係者がこの手の相談を受けると、真っ先に考えるのは「偽L/C(信用状)」の問題です。またL/C(信用状)が本物と判明しても、売買契約前に来たL/Cで本当に決済されるのか。
こんな不安が思い浮かび、ネガティブな回答しか出来ません。この辺は他の銀行関係者からも同様な指摘があり、論壇では多数となりつつありました。
しかし一方では商社・メーカー関係者からは、相手の本気度が分かる話だ!これほど有利な状況はない!など。商売の先行きに大きく期待する発言が相次ぎました。教科書的には銀行関係者の言うとおりなのでしょうが、商社・メーカー関係者の話にも十分な説得力があります。
さてこのメーカーはどうすべきなのでしょうか。
解決のポイントは、この輸出の特徴にあるようです。値が張りやすい機械輸出は、受注生産が一般的です。本体部分は共通でもアクセサリー等は顧客仕様が普通です。となれば購入する側から見れば、詳細決定までメーカーが動いてくれないとなると、機械の稼働は遠い先になってしまいます。
そんなことは誰も望みませんから、出来るところから進めて欲しい。L/Cもどうせ必要になるのなら、共通仕様である本体部分に関しては、先にメーカーに渡してかまわない。こう考えると話は自然なものとなります。そうであれば、商社・メーカー関係者の意見は理解できます。実際、このメーカーはL/Cを受け取って、本体の製造を開始しました。
今回の一連のやりとりは、私に二つのことを教えてくれました。
一つは問題が発生したときには、多面的なアプローチが必要である。これです。今回で言えば銀行の視点だけでなく、メーカーや商社的発想も必要と言うことです。
二つ目はリスク面ばかり考えると何も前に進まない。これに留意する必要がある点です。銀行員は「石橋を叩いて壊す」とよく言われました。叩いて「渡る」ではなく「壊してしまう」です。
壊すエネルギーがあるのなら、前に進むエネルギーに変えるべきなのでしょう。
2018/03/04