「海外から送金を受け取ったのだが、入金手続きをした銀行から、
「送金がキャンセルになったので、返金してほしい。」
と言われた。
「こちらとしては、受け取るべきお金なので返却したくない。
断れるのだろうか。知恵を貸してほしい。」
こんな相談が持ち込まれました。
海外から送金が到着して、
そのお金を指定された口座に入金する事を、
銀行の外為用語では「被仕向送金」と呼びます。
被仕向送金は外為取引の中では、
非常にシンプルで分かり易い取引の一つです。
(到着した資金を指定された口座に入金するだけ。。。。)
けれど、このようなトラブルが発生することがままあります。
ではどうして、こんな問題が発生するのでしょうか?
原因は大きく分けて二つあります。
一つ目は、送金人(送金を依頼した人)や
送金銀行(送金を取り組んだ海外の銀行)に問題がある場合です。
送金がキチンと取り組まれ、
送金明細が正しく電文に表示され、
なおかつ資金も無事に到着していれば、
送金銀行の指示に従う限り、
受取銀行(あなたの取引銀行)には責任は発生しません。
もちろん最終受取人である、あなたにも責任はありません。
責任が無いのですから、返金する義務もないと言えます。
受取銀行もこの辺はよく心得ています。
このような時は「念のため」というトーンで、
あなたがキャンセルに応じるかどうかの、確認をしてきます。
キャンセルに応じる意思が無ければ、
「NO」を言えばそれでおしまいです。
特に手数料や手続きが発生するわけではありません。
このパターンとよく似ているのですが、若干注意要する場合があります。
それは送金の内容通知(送金指図:Payment orderといいます)は、
キチンと受取銀行に届いているが、肝心の資金が未着の場合です。
これは受取銀行にしてみれば中途半端な状態です。
厳密に言えば、本来は入金はまだできない状態です。
しかし実務では、送金銀行を信用して入金する場合があるのです。
この場合は前の場合とは異なり、
念のためと言った調子ではなく、
あなたにも当然応じてもらいたいと言ったトーンで、
「キャンセルが入ったので、入金取消に応じてほしい。」
と要請してきます。
この場合でもあなたに受け取る理由があり、
送金指図の内容(具合的には受取銀行、支店、口座番号、
英文社名などを指します)に間違いがなければ、
まずは「NO」で構わないと思います。
なぜならこの被仕向送金において、
あなたは何かをすべき当事者ではなく、
単に送金を受けるだけの立場だからです。
正しい送金を受けとる限り、返還に応じる義務はないと言えます。
ただこの場合、銀行は簡単には引き下がりません。
あなたも腰を据えての対応が必要となります。
銀行にしてみれば実際の資金は手に入らないままに、
あなたへの入金を先行させた訳ですから、こちらの事情ではないものの、
取消依頼には応じてほしいと、当然ねばってきます。
このようなときに、あなたがなすべきことは、
このトラブルの原因は、資金を送らない送金銀行に責任がある。
先ずはそちらと折衝してほしい。
と回答するのが良いと思います。
ただここからが悩ましいのですが、キャンセル請求に対しては、
杓子定規に突っぱねても、問題が解決しない場合があります。
こうしたときは、送金人と受取人の間の折衝が、
最終解決になる場合が多いのが実態です。
先ほどの言葉と相反するようですが、
あなたは重要な利害関係者として(送金の当事者ではありませんが)、
送金依頼人に対して事情を説明し、
送金銀行に速やかに資金を受取銀行に受渡してもらう。
この要請をするのが良い方法となります。
多くの場合、送金銀行のアクションによって資金は到着し、
受取銀行の立替払いが解消することとなります。
(受取銀行があなたに支払ってから、送金銀行からの資金が到着する
までの立替金利は、当然送金銀行に請求してもらうことになります)
この場合の問題点は、送金指図と実際の資金が別々だった点です。
実はこの点は銀行もよく承知しています。
現在では極力、
送金指図と実際の資金を、同時に同一ルートで送るようにしています。
(これをシリアルペイメント方式と言います)
ですから今後はレアケースになる事が予想されます。
第二の場合です。
これは送金指図が誤っていたり、一部が不正確だった場合です。
これはどこに原因があるのかは別の問題として、
一番問題なのは、誤りが直されることなくそのまま入金になった場合です。
これは今までの事例とはちょっと事情が異なります。
被仕向送金は送金依頼人が送金銀行に送金を文字通り依頼し、
その内容通りに送金を受け取った銀行が入金をする。
というスキームが大前提です。
送金指図と異なるにもかかわらず入金をしたとなると、
送金を受け取った銀行の契約違反(この場合は委任契約)となり、
その責任を問われることになります。
また入金を受けたあなたも、その入金は不当利得とみなされ、
返却に応じる必要が出てきます。
不当利得ですので善意か悪意かの違いはあっても、
あなたに返金義務が発生する点が大いに前の場合と異なります。
(ここでいう善意、悪意は一般的な用例ではなく、
法律的なもので善意は事情を知らなかった。
悪意は事情を知っていた。ということです。)
さらに外為実務ではよくあるのですが、
不正確な送金指図に銀行が気づいて、
あなたに確認を求めてきたときに、
あなたも不正確な点を認識した場合です。
例えば口座番号が、123456が正しいのに123465で来たとか、
口座の名前(口座名義といいます)がABE CO.LTD.が正しいのに
ABU CO.LTD.で到着した。
という場合がそれに当たります。
こういった場合は本来なら送金銀行に照会し、
その回答を待って入金処理する必要があります。
しかしそれせずに受取銀行とあなたとの間で話をつけて、
銀行は「念書」(一種の補償状です)をあなたからもらって、
入金してしまう。という場合がままあります。
意外に簡単にこの取引はなされるのですが、
この「念書」が曲者で、何か問題が発生したときは、
受け取った資金は無条件で銀行に返却する。
という条項が入ってます。
このためキャンセル依頼があった場合は、
この条項に基づき即座に返金に応じなければなりません。
このように被仕向送金のキャンセル依頼においては、
先方からの送金指図の正確性と、
受け取り側の対応が、事の成否を分けます。
送金依頼人や送金銀行がわざと間違えたのでは、
どうしようもありませんが、先方が取り組んだ内容は、
もとはと言えばこちらからの情報のはずです。
正確な情報提供が、正確な送金につながり、
ひいては無用な送金キャンセル回避につながると言えます。
受け取るべき資金を迅速に受け取るのは、
企業として当然の要求ともいえますが、
そのためにはこういった細かい点にも留意すべきと思います。
2015/12/02 貿易実務の情報サイトらくらく貿易