最近、バンコク市内を走る自転車の数がとても増えた。
もともとタイには、自転車専用レーンと貸自転車が完備されている
公園があったり、レンタサイクルで回れる観光地もあるので、
筆者も駐在中何度か自転車に乗った経験がある。
が、ご存知のとおり、タイは暑い。
歩くのさえ暑いのに、炎天下、自転車をこぐのはかなりきつい。
突然の雨もある。
しかもバンコクの道路は
凹凸が激しかったり
急な段差が出現したり
と状態が悪いうえに
バイクタクシーが右往左往し
車の運転も丁寧とはいえない。
これまで自転車はほとんど市民の足ではなかった
(もちろん自転車専用レーンや自転車の駐輪場もない)。
こんなふうに自転車にとってよくない条件がそろっているにもかかわらず、
ここ数年バンコクでは、ファッションや流行に敏感なクリエイティブ系の
仕事に携わる男性を中心に、自転車人口が急増中。
週末ともなるとあちこちで、カスタマイズしたカラフルな自転車を操る
男の子のグループが、暑いバンコク市内を駆け巡る。
海外留学や旅行の経験が豊富な裕福層の間では
エコを重視するライフスタイルも流行中で、
自分の足でペダルを踏み、風を切って街を行くサイクリング
というスポーツが、自転車という道具の美しさや機能性とリンクし、
ファンを増やしたのだろう。
また、こうした自転車ファンの多くは、
自分好みの乗り方や色などを追及し
フレームやハンドル
ブレーキそのほか
様々なパーツを組みあわせて、
自転車を自分スタイルに作り変えるという。
いっぽう、現在タイでは
日常使いの安い自転車しか製造されていないため、
自転車愛好家たちのターゲットはもっぱら、
日本、イタリア、台湾や中国、ベトナムから輸入された
マウンテンバイクやロードレーサー。
そしてこれら輸入自転車の価格は、
私たちが日本で同じ自転車を購入する金額と変わらず、
現地の物価や所得を考えると、今のところタイの人にとって
趣味の自転車は高い買い物だ。
また2012年現在、タイにおける自動車の登録台数3248万台
(このうち1915万台がバイク)、世帯所有率36%(2010年現在)。
自転車ファンは市民のごく一部にすぎないが、
タイには海外在住者も多く
(2013年調査/人口に占める海外在住者率・日本が1.6%、タイは5.6人)、
勢いがある今のバンコクを見ると、これまでほとんど需要がなかった
市場だけに、どう発展するかが楽しみだ。
バンコクでは、こうした動きにともなって
今年初めにイギリスの折りたたみ自転車メーカーのタイ初となる
ショップがオープンしたほか、
自転車ファンがゆっくりと食事しながら情報交換できる店や、
中古自転車店が次々と出現。
観光客向けのバンコク市内サイクリングツアーが定着し、
中古自転車店は地方にも広がりつつある。
タイの自転車マーケット、ビジネスの切り口もいろいろありそうだ。
2015/11/02 フリーライター 蛭川 薫