「毎日、貿易実務の現場で仕事をしていますがいろいろなケースがあって奥が深いな~、とつくづく思います。」
ワークショップに参加された方からのコメントです。
たしかに貿易のパターンは千差万別でなかなか均一化できません。
誰でも手軽に使えるアプリが登場しないのもこのためなのでしょうか。
メールを使って、
・いくらで販売するか
・支払条件をどうするか
・納期をいつにするか
といったようなことは、売主と買主という意識をあまり強くもたなくても進められます。
もちろん、FOBなどのインコタームズもすり合わせることができます。
そのため
契約書を作らないで貿易取引が行われているケースをよく見かけます。
契約書がないからといって輸出入ができないわけではありません。
メールで取り決めた条件をもとに取引をおこなうことは可能でしょう。
しかし実際は書類の準備などで苦労しているのが現実かと思います。
■インコタームズだけではない、法務的な条件だってある
FOB Japanで輸出する場合、売主は国際物流の手配をしないですみます。
輸出申告をするだけなので貿易実務の負担も少ないでしょう。
一方、CIF Singaporeで輸出する際には複雑になり負担も多くなります。
国際物流も保険もすべて売主側で手配する必要があるからです。
インコタームズは「売主と買主」の「費用とリスクの負担範囲」を決めているだけで、取引をおこなう上で必要な契約のすべてがカバーされているわけではありません。
貿易取引においては法務的な諸条件も含めて正式な契約の取り決めが行われることになります。
たとえば、不可抗力のケースで考えてみましょう。
・船が遅れる
・仕入先からの納期が遅れる
などは日常茶飯事におこるといっても過言ではないでしょう。
取引ですから相手先と取り決めた納期までに間に合にあうようアレンジするのは当然なのですが、船の遅延などは貿易実務の担当者がコントロールできるものではありません。
ところが営業部からはプレッシャーをかけられる。
契約書がない場合などにはとくにこの傾向が強いようです。
最悪の場合は納期に間に合わないから事前の許認可をとらずに輸出申告をせざるをえないなど、実務の現場はてんてこ舞いをすることになります。
無許可輸出となって摘発されたケースもあるくらいです。
どういう場合に不可抗力として免責にできるかを、契約書に明記しておけばこのようなことはないはずです。
貿易実務ではインコタームズだけではなく、このような法務的側面もしっかりグリップしなければなりません。
その上、売主と買主の間には多くのプレーヤーが介在しています。
・通関業者
・国際運送業者
・保険会社
・銀行
などなど。
それらプレーヤーの間を商品・書類・お金がバラバラに流れています。
契約書がなくても書類を担保に貨物の引き渡しが行われることもあるくらいです。
「貿易実務は奥が深い」といわれるゆえんなんでしょうか。
用語:インコタームズ いんこたーむず・インコタームズ
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2014/12/08